2024年7月10日水曜日

第16回シアターX国際舞台芸術祭2024[14日目]: ひびきみか/アベレイ/赤羽企画

 

第16回シアターX国際舞台芸術祭2024
「地球惑星人として、いま」

【14日目】



ひびきみか

『Essential OHNO』

"「BUTOH the inevitable」Digest Edition"


アベレイ Lei Abe

『宙の息吹 Sorano Ibuki

"Breath of spring"


赤羽企画

『喰人鬼

"JIKININKI"

原作: 小泉八雲

出演: 赤羽 大


日時:2024年7月9日(火)

開場: 6:30p.m.、開演: 7:00p.m.

会場: 両国シアターX

(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)

料金: 前売り/当日: ¥1,000

舞台監督: 宇佐美雅司

照明: 曽我 傑、宇野敦子

音響: 柏 環樹、鳥居慎吾、川村和央

主催: シアターX



 独自のソロ活動をつづけるひびきみかの『Essential OHNO』は、2023年の暮れに初演された作品をベースに置きつつ、土方巽が1985年に振付け、大野慶人によって踊られてきた『土方三章』のメタフィジカル性を意識して再構成した舞踏作品である。本公演では2024年9月ノルウェー公演で発表されたバージョンのダイジェスト版が踊られた。全体は3つの踊りからなり、シルク地のワンピースドレスで踊った第1章は、床にすわって両手足をくゆらす舞踏ならではの様式を使っての踊り。第2章では、シアターXとも関係の深いグルソムヘテン劇団のハンネ・ディーセルによる詩朗読とともに踊られ、つば広の黒い帽子をかぶり、背中だけ上裸体になる衣装で淑女と娼婦のイメージを合体したような踊りが展開した。最後の第3章では、ステージ上で赤いハイヒールをはき、フラメンコのようにスカートをからげてワルツを踊る場面が用意された。部分的に踊られた見えない相方との社交ダンスには彼女の長いダンス歴が反映され、重厚な作品構成には、一種のルーツ確認の意味もあったように思う。最後は倒れ伏すようにして頭を床に擦りつける印象的な場面で終演した。

 現代音楽による声の解放に端を発し、これもまた独自のパフォーマンス・スタイルを獲得することになったアベレイ Lei Abeの『宙の息吹』は、意味を形成しない歌や言葉の断片の集積からなり、つねにステージを歩行しつつ、指さしたり片手を伸ばしたりの身ぶりを入れつつも、特別な意味を発生させる感情表現を回避しながら、声という響きの表面をどこまでも滑走していくようなパフォーマンスが展開した。声が音を指向するという意味で音楽に最も近いところにあるが、声帯を楽器として使うのとも違い、音楽的な展開をすることのないヴォイス・パフォーマンスである。ヴォイス・パフォーマーとして演劇的なものとの境界線上にいる巻上公一と対照的に感じるのは、おそらく身体との関係において、巻上の場合には声が複数性を獲得しているところにあると思われる。巻上の声帯がいわば声の多声性を実現するクロスロードになっているのに対して、アベレイの声帯は、そこにひとりの存在を立ちあげてしまうといったらいいだろうか。そこにあるのはおそらく指向する前衛性の違いなのではないかと思われる。

 小泉八雲の原作をドラマ化した赤羽企画の『喰人鬼』は、囲炉裏端における古老の語りという近代文学の一部に残存した説話性を切り捨てることのない一人芝居として演じられた。三脚の椅子が唯一の舞台装置になった作品。

(北里義之)


【第16回シアターX国際舞台芸術祭2024|プログラム詳細】

 ☞http://www.theaterx.jp/24/images/IDTF2024.pdf

2024年7月8日月曜日

第16回シアターX国際舞台芸術祭2024[13日目]: 武井よしみち+ブルーボウルカンパニー'96/一色眞由美/キタムラアラタ

 


第16回シアターX国際舞台芸術祭2024
「地球惑星人として、いま」

【13日目】



武井よしみちブルーボウルカンパニー'96

『BPM76, or71 地球を歩く』

"walking on BPM76, 71"


一色眞由美

『原色のモメント』

"The momet in primitive colors"


キタムラアラタ Arata-Alicia Kitamura

『WIG(ウィグ)Wayfaring In Grieff(悲嘆に彷徨う)

出演: Arata-Alicia Kitamura/キタムラアラタ

(演出、パフォーマンス)、

花岡紫苑(俳優)、松本有理(ヴィオラ奏者)


日時:2024年7月7日(日)

開場: 2:00p.m.、開演: 2:30p.m.

会場: 両国シアターX

(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)

料金: 前売り/当日: ¥1,000

舞台監督: 宇佐美雅司

照明: 曽我 傑、宇野敦子

音響: 柏 環樹、鳥居慎吾、川村和央

主催: シアターX


 武井よしみち+ブルーボウルカンパニー'96名義の『BPM76, or71 地球を歩く』は、周知のように、「カンパニー」を名乗っていてもダンスの群舞作品ではなく、黒人ブルースのような、鼻歌のような英語歌を口ずさみながら一定速度で歩行していく形式を基本としておこなうソロ・パフォーマンスである。思えば長い年月のときどきに遭遇する彼の公演で、武井はいつもこんなふうに歩き、思考していた。ホモ・サピエンスとかホモ・ルーデンスとか、人間の定義はいろいろにあるが、「足が耕す表現の世界」を探究する武井の定義は、アフリカ大陸から世界に広がった「歩く人」ということになるのだろう。足が止まったところで別種のパフォーマンスがさしはさまれるが、今回はステージ中央で仁王立ちになり、かぶっていた帽子をとると、頭の先から「髪の毛」「眉毛」「鼻毛」「腋毛」「胸毛」というように手指を身体の下へと這わせつつ人毛の種類を言っていくものだった。最後の場面にもひねりがあり、観客の拍手にこたえて再登場、カチカチというメトロノーム音といっしょにアンコールのように歌い足踏みするという行為を何度もくりかえして終わらないのである。観客が喝采を送るなか、楽屋から「いつまでやってんだよ。おわりおわり」という声が響いて終演となった。歌や歩行に漂うそこはかとないユーモアやペーソスは、他のパフォーマンスでは味わうことのできないものである。

 1977年に一年間NY滞在してマーサ・グラハムのもとで学んだ一色眞由美の『原色のモメント』は、音楽なしのまま、ホリゾントとステージ前を往復しながら、ときに観客に片言で語りかけて踊る前半部と、藤井風のJ-POP曲『花』に乗ってダンスする後半部からなるシンプルな構成を持つ作品で、出会いをテーマに踊られたようであった。

 キタムラアラタ/Arata-Alicia Kitamuraのパフォーマンス作品WIG(ウィグ)Wayfaring In Grieff(悲嘆に彷徨う)』は、1826年に書かれたジェームス・モンゴメリーの宗教詩をベースに、2019年に高知県美術館で制作された作品をリメイクしたものとのこと。ひと抱えもあるような畳大の絵巻物がステージの中央に立てられ、蝙蝠傘をさしたり、トイピアノを弾いたりする花岡紫苑(JAMプロモーション)に手伝ってもらい、黙ったまま下手から上手へと巻きとっていく肉体労働のような行為が中心になっていた。啓示的な宗教詩の内容を、絵だけから理解するのは困難だが、ノルシュテインのような民衆説話的な画風は魅力にあふれ、観るものの感情に訴えかける大きな力を持っていた。巻物が破かれたりする後半は、松本有理のヴィオラ演奏とアリシアのヴァイオリンによるテーマの二重奏があったり、バケツに張られた水に頭をつっこんだアリシアが咳きこみ嗚咽をはじめるなど、直接的で身体的なパフォーマンスがダイナミックに展開して場を流動的にしていった。破かれた巻物類が林立するステージの様子は、爆撃を受けつづけ廃墟化したガザのようで、まさに現代版「ゲルニカ」を見る思いだった。(北里義之)


【第16回シアターX国際舞台芸術祭2024|プログラム詳細】

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2024年7月5日金曜日

第16回シアターX国際舞台芸術祭2024[11日目]: アートマイム塾/足立七瀬/舞踊集団モダンディーズ


第16回シアターX国際舞台芸術祭2024
「地球惑星人として、いま」

【11日目】



シアターX アートマイム塾

『分光器』"spectrometer"

作・演出: JIDAI

出演: 高永育海、西田ヤス枝、橋本庸子、藤井えつこ、

本杉淳悟、山口陽二郎、山崎有晴

足立七瀬

『Just Fit』

舞踊集団モダンディーズ

『壁と空』"Wall and sky"

振付: 中村隆彦

出演: 石井 登、菅原鷹志、竹井一仁、中村隆彦、

ナルシソ・メディナ、水内宏之、あすかなおこ、阿部麻依子


日時:2024年7月4日(土)

開場: 6:30p.m.、開演: 7:00p.m.

会場: 両国シアターX

(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)

料金: 前売り/当日: ¥1,000

舞台監督: 宇佐美雅司

照明: 曽我 傑、宇野敦子

音響: 柏 環樹、鳥居慎吾、川村和央

主催: シアターX


  シアターXが主宰する「本物の俳優修行」シリーズには、歌舞伎や一人芝居研究会といった演劇関係のワークショップとならんで、ポーランドのステファン・ニジャウコフスキによって完成された“アートマイム”のクラスが開かれている。塾長を務めるJIDAIが作・演出した作品『分光器』は、7人の塾生がステージで群舞を構成してみるショーイング的性格のパフォーマンスである。全体の流れは、立ち位置を動かずにステージに身体を立たせることからスタート、複数のメンバーで群舞形式を作ったり、メンバーのなかのひとりをフィーチャーして集団性に意味を持たせたり、ステージ上での歩行を入れながらしぐさをしたり、ジャンプや4つんばいになるなど、複数のしぐさを組み合わせながら身体の動きを作っていくという具合で、日常性を離れる動きの要素を加えつつ、次第に複雑化していくタスクを個々人がこなしていく内容だった。

 足立七瀬の『Just Fit』は、服を脱いだり着たりする身ぶりだけを使って振付けられたユニークな作品。上着を脱ぐとき/着るときに上に向かう動きになり、ズボンを脱ぐとき/はくときに下に向かう動きになる。無限につづくのではないかと不安をかき立てる反復は、足立みずから「動きが幾重にも重なっていく様が、溢れかえる選択肢への絶望となっていく」というように、パフォーマンスは次第にシジフォスの神話のような劫罰の様相を呈してくる。立っているだけで展開のない動きは、清水知恵『Trans/Formation』(6月27日|10日目)とよく似た縛りだが、どちらもミニマルな形式にダンスを整序するのではなく、演出的な部分を極力排することによって、身体をダンサーの「存在」の位相で問題にしようとしている点で共通しているように思われる。衣服の着脱は、ピナ・バウシュ作品のように実際に全裸になる場合と比較すると、実際の全裸が、日常的な動きを問題にするのとは違って、ダンスを超えてしまうような出来事を起こすことがテーマになっていることに気がつく。

 舞踊集団モダンディーズの作風は、中村隆彦の振付作品を目にする機会が多いが、グループ名が「モダンダンス」と「ダンディズム」の造語になっているところから想像されるように、コンセプチュアルな動機を感じさせる特殊なものといえるように思う。その特殊性は紅白のドレスに身を包んだ2人の女性と黒づくめの5人の男性陣が描き出す絵画のような『壁と空』においても遺憾なく発揮された。エレガントなダンスの夜会を連想させる設定のなかで、男たちの群舞はまるで個性を喪失したサラリーマン集団のように特徴を失い、つねに群としてスタイリッシュに動きまわる一方、男女の関係性を連想させるような物語的な展開をリードするばかりでなく、横になった椅子にすわりながら床上に寝そべったり、高い脚立に昇ったり、椅子にすわる男の膝に乗るなど、フラッパーな逸脱行為をしてみせるのはつねにドレッシーな衣装の女性たちなのだ。この非対称の関係性には、ダンディズムを単なる格好のよさとしてではなく、男という不自由な存在を拘束しているジェンダーバイアスという(自己)批判すら感じてしまう。(北里義之)


【第16回シアターX国際舞台芸術祭2024|プログラム詳細】

 ☞http://www.theaterx.jp/24/images/IDTF2024.pdf


2024年7月1日月曜日

第16回シアターX国際舞台芸術祭2024[9/10日目]: ニナ・ディプラ2デイズ



第16回シアターX国際舞台芸術祭2024
「地球惑星人として、いま」

【9/10日目】

ニナ・ディプラ2デイズ

Nina DIPLA 2 days



石黒節子

『曼荼羅の門』パートII 〜限界を超えた今〜

"Mandala Gate"─Now I've surpassed my limits─

森美香代

『ほどけゆく記憶』

"Memories unraveling"

ニナ・ディプラ

(ギリシャ/フランス)Nina DIPLA

『Bon Voyage  Kalo Taxidi』

日時:2024年6月26日(火)

開場: 6:30p.m.、開演: 7:00p.m.

会場: 両国シアターX

(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)

料金: 前売り/当日: ¥1,000


山田いづみ

『愚かな みみず』

"Stupid worm"

ドローイング: 田村登留、音楽: 宗 誠一郎

Dance Monster

『Garden』

出演: 安藤 瞳、安藤 陽、中村綺布代、

三保谷香織、美保谷珠、古賀 豊(演出)

清水知恵

『Trans/Formation』

ニナ・ディプラ

(ギリシャ/フランス)Nina DIPLA

『Bon Voyage  Kalo Taxidi』

日時:2024年6月30日(日)

開場: 2:00p.m.、開演: 2:30p.m.

日時:2024年6月26日(火)

開場: 6:30p.m.、開演: 7:00p.m.

会場: 両国シアターX

(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)

料金: 前売り/当日: ¥1,000

舞台監督: 宇佐美雅司

照明: 曽我 傑、宇野敦子

音響: 柏 環樹、鳥居慎吾、川村和央

主催: シアターX



 開催期間が長期間にわたる<第16回シアターX国際舞台芸術祭2024>もプログラムの半分を消化、折り返し地点となった9日目・10日目の演目は、ギリシャのテッサロニキ出身のダンサーでピナ・バウシュの『春の祭典』で踊ったことで知られるニナ・ディプラが登場。現在フランスに在住して活動する彼女は、本芸術祭に2013年から継続して参加しているお馴染みのダンサーで、2デイズ公演は彼女をトリにした2種のオムニバス公演となった。公演前に20分の休憩時間を取る構成も含め、内容的には同一だったので、最後にまとめて述べることとする。2デイズは、森美香代、山田いづみの大阪勢が参加したことでも注目された。

 (1)宇宙開発事業団から企画を持ちこまれ、石黒節子が構想した無重力状態のなかでのダンス「飛天プロジェクト」は、宇宙飛行士の若田光一によって宇宙ステーション内で実際に踊る(初演:2009年)ところまで発展したものだが、今回トリオで踊られた『曼荼羅の門』パートII ~限界を超えた今~は、このときの感情を作品化したもので、「地球惑星人」のテーマに真正面から“科学的に”こたえた作品だ。宇宙を体験した飛行士からは、しばしば神的な感情が報告されているが、公演前半、銀布の衣装に包まれたふたりがカラフルな照明に照らされながら牛頭馬頭が争うように踊るデュオと、後半に登場する石黒が金布の衣装に身を包み、まるでサン・ラーのジャズ・アーケストラに伴奏されるようにしてとぐろを巻くモンドな世界観が対照性を描き出す作品だった。

 (2)大阪組の森美香代による『ほどけゆく記憶』は、両手先をつないで円を作りながら踊ったり、片手ずつを床上におろして口元まですくうような動きをみせたり、前屈して両手をくるくるとまわすように動かすなど、スピーディーな両手の動きを休むことなくくりだしながら、物語的・演劇的な演出を排することで「宇宙の一隅に生まれた/砂の一粒のような大きさの私という存在」感をうかがわせた作品。クライマックスもなくダンサーは永遠に宇宙空間を遊泳している印象だったが、一瞬も止まることのなく踊られていったダンスは方法論的な美に貫かれていた。


ドローイング: 田村登留


 (3)芸術祭の総合チラシにもドローイングを提供している大阪の映像作家・田村登留が描いた巨大な顔のボールペン画を、ステージ中央のバトンに吊るした2枚のスクリーンに投影、顔の真ん中を破るようにしてスクリーン間のスリットから登場したダンサーが、異様なエネルギーを放つ顔に対峙しながら踊ったのが、これまた大阪勢の山田いづみによる『愚かな みみず』である。カタカタとなにかを振動させながら吹き荒ぶ強風のなか、強力な顔の他者性が観るものに身体的対峙を要求し、ダンサーは痙攣的な全身の動き、引きつったような身体、うしろから両手をよじられるような動きなどをみせてキリキリ舞いをした。卑小な自らの存在を問われているようでもあれば、あたかもそれが(けっしてそのように語られることのない)自画像であるかのようにも踊られた印象深いダンスだった。

 (4)劇作家つかこうへい(1948-2010)の演劇制作に関わっていた古賀豊が演出を担当した“Dance Monster”の『Garden』は、ふたりの子ども、ピクニックするように輪を作りながらそれぞれに踊る3人の女性、ひとり黒服に身を包み、人の輪の外に立って軋轢を引き起こす怪しい男からなるフィジカル・シアターの作品だった。自然の山林を破壊するメガ・ソーラーパネルの問題が扱われていて、セリフはなく、足元のグリーンの布をホリゾントまで押しやっていく男のしぐさに、物語の趣旨が託されていたように思う。後半になって子どもたちが再登場すると、たくさんのクレヨン画をステージ前に一列にならべていき、グリーンの布をもう一度ステージに敷くことで自然回帰の希望が語られた。藤井 風のJ-POP曲『ガーデン』(2022年)が作品のテーマソングになっていた。

 (5)大きな音楽世界をあとに残して他界した坂本龍一(1952-2023)が晩年にたどり着いた境地に迫った清水知恵の『Trans/Formation』は、「肉体が消滅しても、なお輝き続ける美しさとは何か。それは粒子と同調し、重力から解き放たれた時に浮かび上がる、瞬時の現象かもしれない。」という省察から、動きが停止してしまう瞬間をつないでいったようなすぐれて実験的なダンスを、最初に立った下手の立ち位置をまったく動くことなく、上体の上下動だけを入れて踊った。坂本の音楽はポスト・アンビエントとでも呼ぶのがふさわしいもので、演奏主体を離れ、響きそのものが生み出す余白の領域に身体感覚を拡大していく。清水が語るような「肉体の消滅」というより、形を失った身体の粒子状の拡散という印象だ。それがどこか俳句的な余白の美とつながっていくのが興味深い。

 (6)そして最後はニナ・ディプラの『Bon Voyage』である。ブルーの薄いヴェールを手に上手通路からステージに駆けあがった彼女は、布を頭からかぶって床にすわり、右手を下手にあげる動きをくりかえして布をはじき、アラビックな曲のスタートとともに両手を床につけ、五体投地するように床に身を伏せる動きをみせた。立ちあがっては、ブルーとイエローのヴェールを交代にかぶってステージを歩き、ホリゾントに向かってヴェールを開き閉じ、床に転倒しては左右に横転する動きをくりかえし踊った。途中から観客席に向かってギリシャ語、フランス語、英語などで語りかけるようになり、トラッドなワルツの曲が流れはじめる。故郷テッサロニキの歌だろうか。最後はステージ前に用意してあったパンデイロ(大型タンバリン)を恭しく手にとり、最初は音を出さずにマレットで打つ真似を、次にホリゾントまでさがって激しく連打するところからふたたびステージ前に戻り、楽器を元の位置に置くとそのうえに花束を乗せる儀式的しぐさで終幕となった。音楽をふんだんに使った自在な動きは、ギリシャにインスピレーションを得たイサドラ・ダンカンに還る趣きがあった。(北里義之)


【第16回シアターX国際舞台芸術祭2024|プログラム詳細】

 ☞http://www.theaterx.jp/24/images/IDTF2024.pdf