2013年1月11日金曜日

風巻 隆: 音の交差点 2012



音の交差点 2012
二つのデュオによる、インプロヴィゼーション
日時: 2012年9月17日(月・祝)
会場: 東京/二子玉川「KIWA」
(東京都世田谷区玉川3-20-11-B1F)
開場: 5:30p.m.,開演: 6:00p.m.
料金/前売: ¥2,500、当日: ¥3,000+drink order
出演: 風巻 隆(percussion)
クリストフ・シャルル(electronics, computer)
中山信彦(modular synthesizer)
予約・問合せ: TEL.03-6805-7948(KIWA)



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 20129月、エレクトロニクスとの共演をテーマに、古巣の明大前キッド・アイラック・アート・ホールを離れ、高いステージが組まれ、音響設備も整った二子玉川のライヴハウス “KIWA” に会場を移して、風巻隆の「音の交差点 2012」が開催された。中山信彦との共同制作で進められたコンサートには、はるか昔、横浜の大桟橋ホールで開かれた「デュオ・イムプロヴィゼーション・ワークショップ」(19883月)のときに声をかけて以来というサウンドアートのクリストフ・シャルルが、ほぼ四半世紀ぶりに参加することとなり、第一部をシャルルと風巻のデュオで、第二部を中山と風巻のデュオで構成するふたつの即興セッションがおこなわれた。打楽器のひとつひとつと対話を交わしながら、そこからオリジナルなヴォイスを引き出してくる風巻隆の打楽にとって、エレクトロニクス奏者との共演というのは、これまで例外的なものだったように思う。ともに音色を生命とする音楽に変わりはないものの、風巻のパカッションにおいて、楽器と格闘する演奏者の身体感覚が前面化することを考えれば、彼にとっての即興セッションとは、耳だけに限定されない全身的な交感でもあり、演奏性よりも操作性が際立つエレクトロニクスの抽象性には、あまりそぐわないように感じられるからである。その意味で、このプログラムは、風巻にとってひとつの挑戦だったのではないだろうか。

 コンピュータ内臓のサウンドファイルを使ったクリストフ・シャルルのエレクトロニクス演奏は、選び抜かれた硬質なサウンドを音質変換しながら配置していくコンポジション的なもので、演奏の全体が知的なクールネスに彩られていたところが、いたるところに指紋や汗が染みついた風巻パカッションのノイジーな身体性と好対照をなしていた。意識的にずれを重ねていく非対称のリズムのなかで、楽器を変えながら音色をまるごとチェンジし、ひとつのシークエンスから次のシークエンスへとジャンプしていく風巻隆の演奏と、なにも描かれていない(沈黙の)白紙のうえに、次々と色を流したり重ねたりしていくシャルルのサウンドアートとは、音楽構造においても水と油で、まるで違う惑星群を抱えるふたつの天体が並び立つようだった。それぞれに形のある音、ない音を扱うという点でも、ふたりは大きく違っていた。そこには、もし一方が他方に合わせようとするなら、一種の天体衝突のようなものが起こり、デュオ演奏はたちまちカオス状態におちいってしまうのではないかという緊張感があった。こうした印象は、シャルルがステージ下のアリーナに音響機材をセッティングしたことによって、倍加されていたかもしれない。セッションの前半は、交互にソロをフィーチャーする形で、また後半では、シャルルが風巻の演奏の背景を大きく描き出す形で、共演を成立させていた。

 モジュラーシンセをステージ上にセッティングした中山信彦の演奏は、シャルルのサウンドが持っていた抽象絵画の硬質さとは対照的なもので、アグレッシヴなサウンドをドラマチックに構成しながら、風巻の演奏と丁々発止のやりとりを展開することになった。中山には、シャルルとの違いを際立たせようとする意図もあったらしい。その結果、セッションの第二部では、第一部にみなぎっていた緊張感やクールネスとはうってかわったホットな演奏がくりひろげられた。この日、中山信彦が演奏した音楽は、エレクトロニクスで描き出す一種のスペースミュージックで、喜太郎やヴァンゲリスのそれを思わせるキッチュなまでの壮大さを、中間部に静かな演奏を置きつつ、最後にアグレッシヴなサウンドが回帰してくるソナタ形式で支えるものだったといえるだろう。シャルルとのセッションで多種多様な音色を使った風巻は、ストレートな太鼓の打ちこみを中心にした演奏で、中山のスペースミュージックの壮大さにこたえていた。私個人は、こういう風巻の演奏を、これまであまり聴いたことがなかった。シャルルのサウンド・コンポジションが、それでもその場で構築されるインスタント・コンポージングだったのにくらべ、中山の演奏は、ひとつのパターンにのっとったもので、ある種のフリージャズがそうであるように、予定調和のなかで演奏されていたことは否めない。そのぶんデュオの間で構築されるべき即興性は、演奏の前面から退いていた。

 クリストフ・シャルルと中山信彦、それぞれの音楽性を背景にしたエレクトロニクスとのセッションは、音楽的な意味でいうなら、風巻隆にとって他流試合と呼ぶべきものだろう。新たな環境のなかで、彼はみずからの演奏スタイルを堅持しながら、その対応力をじゅうぶんに発揮してみせた。風巻本来の打楽は、どちらかといえば、ソロとソロが並び立つ結果となったシャルルとの共演により多くあらわれていたとしても。特筆すべきは、音楽家として、あるいはアーチストとして、異質というべき資質の持ち主であるクリストフ・シャルルを、四半世紀のときを越えて呼び出したことである。風巻の呼びかけにこたえたシャルルもまた、なにか感じるところがあって参加を決断したものと思われる。ステージ下のアリーナに陣取るという異例のセッティングが、スピーカーから流れる自分の音を聴くためという、小屋の条件に縛られてのものだったとしても、それと同時に、トリオの関係性を象徴することにもなっていた。はるか昔の出会いが、現在の時点においてふたたび出会いなおされ、その都度ごとに、まったく別の関係性へと組み替えられていく。風巻隆が開いてきた「音の交差点」は、出会われるたびごとに場所を変え、人を変えながら、いたるところに予期せず出現する即興のクロスロードとなっている。




日時: 2013年1月14日(月)、開演: 17:30~
会場: 二子玉川 KIWA
料金/前売: ¥2,500、当日: ¥3,000+drink order
出演: 千野秀一、大熊ワタル、クリストフ・シャルル、入間川正美、
吉本裕美子、永田砂知子、風巻 隆


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