2013年1月7日月曜日

Hugues Vincent+岩瀬久美+新井陽子@喫茶茶会記



Trio Improvisation
Hugues Vincent岩瀬久美新井陽子
日時: 2013年1月6日(日)
会場: 東京/新宿「喫茶茶会記」
(東京都新宿区大京町2-4 1F)
開場: 2:30p.m.、開演: 3:00p.m.
料金: ¥2,000(飲物付)
出演: ユーグ・ヴァンサン(cello)
岩瀬久美(alto sax, clarinet)
新井陽子(piano)
予約・問合せ: TEL.03-3351-7904(喫茶茶会記)



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 昨年度は、隔月のシリーズ公演「焙煎bar ようこ」を5回にわたって開いたピアニスト新井陽子が、おなじ喫茶茶会記に場所を借り、ユーグ・ヴァンサン、岩瀬久美による “TabunDaijyobu” デュオを迎えたトリオ編成で、シリーズ枠をはずれたプログラムを組んだ。ユーグ・ヴァンサン来日ツアー10番目のコンサートである。ヴァンサン+岩瀬、岩瀬+新井、新井+ヴァンサンという3つのデュオ演奏を第一部で、また第二部をトリオ演奏で通すという構成だった。これが即興セッションの常套手段であるのは周知の通りだが、新井に引きつけていえば、「焙煎bar ようこ」の2回目に登場した「跋扈トリオ」(2012518日)の公演スタイルに準ずるものとなっている。組合せを変える即興セッションは、特色ある個人の演奏を単位にしたアンサンブルのバラエティーを聴かせるものだろうが、この日の流れからいうなら、コンサートの冒頭で、来日組のデュオ演奏があり、その後で新井が(デュオの間に入って)メンバーのそれぞれと個別にセッションし、最後は、ヴァンサンが女性ふたりの間を仲介するトリオ演奏で締めくくる形になったため、おそらく最後まで “TabunDaijyobu” デュオ+新井陽子という枠を崩せなかったのではないかと思われる。

 今回のツアーでヴァンサンといっしょに動いている岩瀬久美は、フランスの音楽学校に留学して10年以上になる真摯な音楽家で、現代音楽やジャズ、即興音楽やエレクトロニクス音楽などを学びながら、ヨーロッパの音楽コンクールに挑戦してすでに高い評価を受けている逸材だ。プレイヤーとしては、アルトサックスとクラリネットを演奏する。ゆがみのない澄んだ楽器の音色は、クラシック仕込みの硬質さを備えたものであり、即興演奏のセッションでも構造的なアプローチを忘れることがないため、インスタント・コンポージング(その場でただちにおこなう作曲行為)による現代音楽とでもいうような、明快な形式性にのっとった演奏が持ち味になっているようだ。この日のセッションは、そうした岩瀬の資質をわきまえたヴァンサンのフォローも手伝って、岡本希輔が主催した「中空のデッサン vol.36」(14日)での演奏とはくらべものにならないくらい、岩瀬久美の音楽が全面的にフィーチャーされる展開となった。二つのライヴを聴いたかぎりの話としていえば、岩瀬の即興演奏は、内面から沸き起こってくる感情や衝動のような身体的なものより、普遍的な音楽形式によって意味づけられているのではないかと思われる。彼女の存在が、森重靖宗とのデュオからはうかがえないヴァンサンの音楽性を、別角度から照らし出していたのも興味深かった。

 ヴァンサン/岩瀬久美のセットは、ふたりで短い音のラインを引きあうような出だしから、たくさんの細かいドットを散らしていくような演奏に移行、最後は低音のロングトーンで演奏を締めた。図形楽譜を思わせるアブストラクトなこの演奏で、岩瀬はクラリネットを吹いた。これを受けた岩瀬久美/新井陽子のセットは、その場にかもしだされた静謐な空気を壊すことのないよう、細かな音を出しあって相手の出方をうかがう点描的な演奏からスタート、次第に音数を多くしておたがいの間を詰めながら、最後は、ピアノが低音部でモアレ状のサウンドを敷き詰める幕切れを作った。前半の最後となった新井陽子/ヴァンサンのセットは、堆積したエネルギーが一気に爆発するのではないかと思われたが、ふたりはこの日のライヴを支配することになった静謐な空気感を守りながら、共演者の演奏に注意深く耳を傾け、音楽の芯にむかってコントロールの利いた豪速球を投げこむような、驚くほど精度が高く緻密な演奏を展開した。変則的なチェロ演奏でふんだんにノイズを出すヴァンサンも、加速度を増していく新井のピアノ演奏も、爆発しようとするエネルギーをその直前で巧みにコントロールしながらの名演奏だったと思う。

 高密度の即興演奏が展開した前半の雰囲気を払拭しようとしたのか、第二部の冒頭、椅子から立ちあがった新井陽子は、ピアノ線をはじき、ホイッスルやオルゴールを鳴らし、さらにリコーダーを吹いて場面の転換を図った。岩瀬がサックスのキーをパタパタいわせはじめると、飛び道具では負けてはいないヴァンサンも、チェロを膝のうえに乗せ、楽器からさまざまなノイズを出して応戦する。ピアノの低音部にリズムパターンを出しながらも、こうしたシチュエーションを10分ほどもつづけた後、トリオはようやく本筋の器楽演奏に移っていった。転換場面を情感あふれるメロディーでリードしたのはヴァンサンだった。演奏はそこからゆっくりとクライマックスに向けて登りつめていったのだが、岩瀬のサックスが、フリーキートーンを連発するようなフリージャズ的なものでなく、サックス本来の音色を生かすクラシカルな洗練度をたたえていたのが、演奏の盛りあがりに独特の色彩感を与えていた。最初の演奏が20分ばかりで終わってしまったので、コンサートをしめようとした新井をさえぎってヴァンサンがもう一セットを提案、アンコールがわりの最終演奏がおこなわれた。最後は前半の雰囲気に戻った現代音楽風の演奏となった。第二部のセッションは、冒頭の奇襲攻撃をのぞくと、ツーセットともに、明確なメロディーを出して場をリードするヴァンサンが軸になった演奏となった。




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