2013年1月15日火曜日

風巻 隆: インプロヴァイザーズ ネットワーク



インプロヴァイザーズ ネットワーク
それぞれが指名したデュオ・トリオによる即興演奏
日時: 2013年1月14日(月・祝)
会場: 東京/二子玉川「KIWA」
(東京都世田谷区玉川3-20-11-B1F)
開場: 5:00p.m.,開演: 5:30p.m.
料金/前売: ¥2,500、当日: ¥3,000+drink order
出演: 千野秀一(piano, laptop)大熊ワタル(cl, vo, etc.)
クリストフ・シャルル(electronics, laptop, guitar) 
永田砂知子(波紋音, piano)
入間川正美(cello) 吉本裕美子(guitar)
風巻 隆(percussion)
予約・問合せ: TEL.03-6805-7948(KIWA)


【プログラム】
(1)千野秀一+大熊ワタル+風巻 隆
(2)シャルル+永田砂知子
(3)入間川正美+吉本裕美子+風巻 隆
── 休憩 ──
(4)千野秀一+永田砂知子
(5)大熊ワタル+入間川正美+風巻 隆
(6)シャルル+吉本裕美子+永田砂知子
── 休憩 ──
(7)千野秀一+シャルル+吉本裕美子
(8)シャルル+大熊ワタル+入間川正美
(9)永田砂知子+風巻 隆



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 記録的な大雪のため、交通機関に大きな影響の出た日、パカッションの風巻隆が、過去に共演経験のあるインプロヴァイザーに声をかけ、バラエティを持たせた少人数の組合わせで即興セッションを構成する「インプロヴァイザーズ・ネットワーク」が、二子玉川の「KIWA」で開催された。即興のネットワークは、風巻によって不定期におこなわれてきた音楽シリーズのひとつである。周知のように、こうした演奏スタイルは、いまでこそ即興演奏の常套手段となり、クリシェ化してしまったものだが、原点にこだわっていうなら、共演にいたるきっかけはさまざまでありながら、そのときどきのメンバーを集めることによって人々の関係性を浮き彫りにしつつ、即興演奏をなかだちに社会性を結びなおし、また解きほぐしするなかで、ネットワークが照らし出す個のありようを再確認していくという作業だったように思われる。即興演奏が実験的にスタートした当初から活動に関わってきた風巻のような演奏家が声をかけたからといって、様変わりしたいまの時代に、その精神が受け継がれるかどうかは保証のかぎりではないが、時代を生き抜いてきた演奏家を通して、身体化された音楽のヴィジョンや歴史や記憶に触れるということは、情報の海を泳いでいる私たちが、忘れがちになっていることではないだろうか。

 2013年度版「インプロヴァイザーズ・ネットワーク」は、千野秀一、大熊ワタル、クリストフ・シャルル、永田砂知子、入間川正美、吉本裕美子、そして呼びかけ人となった風巻隆の7人が、それぞれ事前に出した共演希望を、人によって偏りのでないようバランスに配慮しながら、最終的に、風巻がデュオとトリオの編成に調整するという形でおこなわれた。事前に公表されたプログラムは別記の通り。壊れやすく、繊細なサウンドを発する鉄製の創作楽器、「波紋音」をあつかう永田砂知子が、千野、シャルル、風巻のそれぞれとデュオ演奏するのが特徴となっている。3セットを終えた時点で休憩が入り、全体では9つの即興セッションがおこなわれた。即興演奏では例外的な、三時間を越える長丁場のコンサートだった。ステージの立ち位置は、下手から上手に向かって、波紋音を前にして敷物のうえに座った永田砂知子、椅子に座ったり立ったりしながらヴォイスやクラリネットを演奏した大熊ワタル、その横の奥まった位置に座ってチェロ演奏した入間川正美、ステージ中央に楽器を広げた風巻隆、エフェクター類を前にギターを立って演奏した吉本裕美子、上手最奥に位置するグランドピアノの前に座り、かたわらの机に置いたコンピュータも操作した千野秀一、そしてエレクトロニクスのクリストフ・シャルルは、昨年おこなわれた「音の交差点 2012」公演同様、ステージの下に降り、共演者と向かいあう位置に機材をセッティングした。聴き手には背中を向ける格好になる。演奏家は、自分の順番が来ると定位置について演奏する。

 <Session 1: 千野秀一+大熊ワタル+風巻隆>(14分)。ベルリンから一時帰国して三日目という千野を迎えた最初のトリオは、前世紀から活動してきた演奏家たちの集まりということもあるのだろう、私のような古くからの聴き手には、心の奥のどこかにある懐かしさをかき立てるような演奏だった。ソロ演奏において、不均衡なリズムと音色をアンサンブルさせていく風巻が、音色を変えながら、珍しくリズムセクション役を引き受けていたのが印象に残る。がらりと雰囲気を変えた<Session 2: シャルル+永田砂知子>(18分)では、ミクロな波紋音の響きが巻き起こす干渉波のうねりと、細かな電子ノイズはもとより、大気の厚みそのもののような空気感のあるエレクトロニクスの響きが層のように積み重ねられ、夢幻的な音風景が生み出されていくという、秀逸な演奏が展開された。永田の世界のなかに入ったシャルルが、少し色を足したような感じといったらいいだろうか。<Session 3: 入間川正美+吉本裕美子+風巻隆>(19分)。第一部の最後には、アコースティック楽器が多いなか、エレキギターという唯一の電気楽器を演奏する吉本裕美子が登場した。最初、やや引きがちの吉本と、まるで会話するような打楽をする風巻パカッションとがデュオ対決の様相を呈したため、ふたりの間にはさまった入間川の演奏に、少し出遅れた印象があった。ちなみに、この公演のあと、入間川と吉本は、あらためてデュオ・セッションを持つこととなる。

 第二部の冒頭は、ふたたびデュオ演奏。<Session 4: 千野秀一+永田砂知子>(14分)。音程が不安定な波紋音と平均律のピアノの組合わせながら、不協和音も音楽にしてしまう耳のよさで、薄氷を踏むような緊張感にあふれた音楽がくりひろげられる。波紋音が生み出すミステリアスな雰囲気は、第一部のシャルルとのデュオともまた違ったもの。響きが触発するイマジネーションの世界に驚かされる。ピアノの千野をチェロの入間川に代える形の<Session 5: 大熊ワタル+入間川正美+風巻隆>(17分)では、懐かしさがふたたび戻ってくる。この懐かしさは、おそらくトリオの音と音がぶつかりあい対話するところに、ジャズセッションのホットさを感じるからだろう。演奏の後半に登場した、バケツの底をかきむしる風巻のノイズ演奏が圧巻だった。そして第二部の最後は、<Session 6: シャルル+吉本裕美子+永田砂知子>(17分)という異色のセッションで、<Session 2>のデュオ+吉本と考えれば、一種の発展形の演奏ということもできるだろう。吉本は波紋音の繊細さを破壊しないように、サウンドを選び、注意深くフレーズを散りばめながら、なおかつ彼女ならではのアグレッシヴさを失わないベストプレイをしたと思う。あちらこちらにサウンドが浮遊しているだけの不思議な演奏だった。

 第三部冒頭の<Session 7: 千野秀一+シャルル+吉本裕美子>(20分)は、<Session 6>の永田が千野に交代した形。サウンドチェックはあったものの、実践的なコンサートの進行とともに、その場で経験が積み重ねられ、演奏はすぐにでも応用編の様相を呈してくる。これが即興演奏(家)のすごいところだろう。シャルルがギターを手にすると、千野はラップトップを広げた。これは期せずしての吉本シフトだったと思われる。吉本のギター演奏の構造に沿うようにして、浮遊感に彩られたノイジーなサウンド環境が形作られるというセッションを、私は初めて聴いた。千野がピアノに転じたところで演奏は終了したが、本コンサートのなかで最長の演奏になった。つづく<Session 8: シャルル+大熊ワタル+入間川正美>(17分)では、大熊が木製の箱をたたき、カズーのようなものを鳴らし、ヴォイスを使うパフォーマティヴなプレイに出た。大熊と対照的に、入間川は細かい急速調のフレーズで独走態勢に入る。途中からギターにスイッチしたシャルルにより、演奏にジャズ的なフレイヴァーが加わると、入間川がベースラインをとりはじめ、最後にはフォービートのジャズになった。これは想定外の展開だった。コンサートのラストを飾ったのは<Session 9: 永田砂知子+風巻隆>(16分)。なぜか永田はピアノを弾いた。打楽器のパターンを出すように、間歇的に弾かれるピアノに対して、木製のカウベルを両手に持った風巻は、立ったままリズミカルにコギリをヒットしつづけた。最終セットは、実質的には風巻のソロだったように思われる。





風巻 隆:ソロ・パカッション】   
日時: 2013年3月19日(火)    
開場: 7:30p.m.、開演: 8:00p.m.      
会場: 銀座「Steps Gallery」    
料金/前売: ¥2,500、当日: ¥3,000(飲物付)    

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