2025年2月8日土曜日

【Preview】全体主義の寓話と身体のリアリズム──黒須育海ブッシュマン『カチクチック』@高円寺 MATERIAL

 


黒須育海ブッシュマン

カチクチック

高円寺 MATERIAL

Preview



君のために生まれたんじゃ、ない。


おなかいっぱい食べなさい。

それから、よく眠りなさい。

夢は見なくていいから。



出演: 江口力斗、手塚バウシュ、黒須育海(振付・構成・演出)

香取直登、熊谷拓明(踊る『熊谷拓明』カンパニー)

髙橋優太(演劇実験室◉万有引力)、髙田恵篤(演劇実験室◉万有引力)

鳥越勇作(椿組)


日時:2025年3月20日(木)~23日(日)

料金(全席自由)一般: ¥4,000、

U25: ¥3,000、障がい者: ¥2,500

会場: 高円寺マテリアル

(東京都杉並区高円寺南4-4-11 湊酒飯1F・2F)


舞台監督・美術: 筒井昭善

照明: 三浦あさ子

音響: 牛川紀政

ドラマトゥルク: 鳥越勇作

映像: 青山健一

衣装: 北村教子

音楽: エンノール

写真: HARU

映像記録: 西純之介

宣伝美術: 安田有吾

協力: 演劇実験室◉万有引力、椿組

助成: 独立行政法人日本芸術文化振興会

芸術文化振興基金助成事業

公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京

東京芸術文化創造発助成

主催: 合同会社AtZOO

問合せ: bushman.dco@gmail.com



 昨年、ジョージ・オーウェル晩年の長編小説『1984』(1949年)を題材にしたダンス作品『2024÷1984』(2024年3月、座・高円寺2)で新境地を開いた黒須育海のブッシュマンが次に照準をあてたのは、同じく管理主義社会、全体主義社会の恐怖を描いた作品でも、『1984』以上に大衆的な人気を博してオーウェルを一気にベストセラー作家に押しあげた風刺小説『動物農場』(1945年)である。作品タイトルは『カチクチック』。ウィキペディアには「動物たちが劣悪な農場主を追い出して理想的な共和国を築こうとするが、指導者の豚が独裁者と化し、恐怖政治へ変貌していく過程を描く。人間を豚や馬などの動物に見立てることにより、民主主義が全体主義や権威主義へと陥る危険性、革命が独裁体制と専制政治によって裏切られ、革命以前よりも悪くなっていく過程を痛烈かつ寓話的に描いた物語」と解説されている。動物体になって踊るブッシュマンの黒光りする身体は、家畜的というよりもむしろ野生的な資質を持っているが、この点でも新たな身体の探究が試みられることになるに違いない。

 あらためてブッシュマンの作品歴をふりかえってみれば、正方形のキューブやガスマスクが登場した『けむりでできたぞう』(2021年12月、座・高円寺2)などは、「ディストピア」の世界を描いたと評され、このあたりからすでにダンサーの身体を囲繞する時代的な閉塞感が切実なものとして感じられていただろうことが浮かびあがってくる。時代の閉塞感を敏感に感じ取る感性がオーウェルと出会うことで、男性群舞の身体的躍動という評価を超える説得的な細部を作品に描き加えることに結びついた。時間をさらに遡れば、作品を構想する黒須育海には、意識的か無意識的かはわからないが、そもそものはじめから身体に加えられる暴力をテーマにするところがあった。黒須がつかんでいた暴力のテーマは、その後ダンスを探究していく過程で次第にその実態をあらわにしてきており、いまでは遠くイスラエルによるパレスチナ殲滅戦争やウクライナ戦争にも共振していくような大きなものになりつつある。暴力の根源がいったいどこにあるのか、オーウェルが生きた世界を身体のプリズムにかけ、真に現代的なダンス作品の創造によって芸術的抵抗を試みることが期待される。

(北里義之)



ジョージ・オーウェル山形浩生訳

動物農場(ハヤカワepi文庫)


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