2012年12月27日木曜日

長沢 哲: Fragments vol.15 with 勝賀瀬 司



長沢 哲: Fragments vol.15
with 勝賀瀬 司
日時: 2012年12月16日(日)
会場: 東京/江古田「フライング・ティーポット」
(東京都練馬区栄町27-7 榎本ビル B1F)
開場: 7:00p.m.、開演: 7:30p.m.
料金: ¥2,000+order
出演: 長沢 哲(drums, percussion)
勝賀瀬 司(guitar)
問合せ: TEL.03-5999-7971(フライング・ティーポット)


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 2012年度「Fragments」シリーズのラストを飾ったゲストは、数年前に長沢と “Blume”(ブルーメ。ドイツ語で「草花」の意味)というデュオを組んでいた勝賀瀬司(しょうがせ・つかさ)である。共演時30歳という年齢は、コントラバスのパール・アレキサンダーなどともに、即興演奏家のなかで最も若い世代に属するギタリストといえるだろう。ひさしぶりの共演ということだったが、気心の知れた音楽仲間とあって、長沢の演奏も、いつもよりのびのびと寛いだもののように感じられた。勝賀瀬のソロ演奏のスタイルは、ギターを弾くことは弾くのだが、ギターの即興演奏をするのでも、コードやメロディのある楽曲を演奏するのでもなく、エフェクター類による音色変換や、サンプリングとループによる即席のバックトラックの作製などでギター・サウンドを拡張し、ループが描き出す円環的な時間のなかで演奏するというものだった。想像力のスタイルについていうなら、彼の音楽は、ギターよりむしろエレクトロニクスに多くのものを負っているといえるだろうか。こうした円環的時間のなかで演奏するプレイヤーは、思いつくだけでも、ヴォイスのヒグチケイコや本田ヨシ子など、いまではけっして少なくないように思われる。

 音色で一枚の絵を描いていくような勝賀瀬のソロは、前半と後半で、対照的な雰囲気を持つふたつのサウンドトラックを作りあげた。最初のものは、「ヴァイオリン奏法」と呼ばれる、ピックがギター弦に触れる立ちあがりの音を消すことで生まれるソフトなラインを、薄いヴェールを何枚も重ねるようにして作りあげた音色のたゆたいのなかに、ハーモニクスをまじえたピキピキというサウンドでたくさんの点を置いていく(これがソロ演奏になっている)アブストラクト・ドローイング。やがて背景をなしていた音色のたゆたいが消えると、新たにループされた幻想的なピコピコ音のダンスのなかで、断片的なフレーズが奏でられる。もうひとつのトラックは、序奏部分でなにごとかを語るようなギターのつま弾きがあった後、ディストーションをかけた低音部のパターンをループしたうえに、トレモロで弾かれる高音部のリフレインを重ねるというものだった。後半のトラックを使った勝賀瀬のソロは、ほとんど電子ノイズと化していた。実質的には、色あいを異にするエレクトリカルなサウンドの配合が、音楽が持っている幻想的な雰囲気のコアを決定づけているのだが、それらを配置する音楽構造には、伝統的なものが借用されている。

 静謐な雰囲気をたたえる長沢打楽は、このところ少しずつサウンドを励ますような激しさを加えているのだが、こうした勝賀瀬のユニークなアプローチとどんなふうにまみえるのか期待された。ところが、ソロ演奏では問題のなかった勝賀瀬のギターを、突如機械トラブルが襲う。デュオ演奏がはじまって間もなく、弦に触れると雑音が発生するようになり、これが足枷となって自由な展開が望めなくなってしまったのである。前述のように、伝統的な音楽構造の枠内を動く勝賀瀬の演奏に対し、長沢はいつもの自分のスタイルにこだわることなく、共演者の懐に入って演奏をはじめたのだが、ギター・トラブルが発生してからは、流れるようなリズムパターンを先行させて、ギターが打楽器に自由にからむような方向性を選択した。ループというにはあまりにも複雑なヴァリエーションをたたきだす長沢のドラミングであるが、突発的なトラブルにもかかわらず、ふたりのサウンドが共通して持っている静かな雰囲気を途切れさせることなく、勝賀瀬の音楽のなかに入って、あえてリズム・セクションの役割を引き受け、ギターサウンドを賦活するエネルギーと、勝賀瀬の音世界が持っている幻想的なカラーを、さらに複雑化するような打楽を展開したのである。





【次回】長沢 哲: Fragments vol.16 with 森重靖宗   
2013年1月20日(日)、開演: 7:30p.m.   
会場: 江古田フライング ティーポット   


  【関連記事|長沢 哲: Fragments】
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