2012年6月25日月曜日

長沢 哲: Fragments vol.9 with 吉本裕美子



長沢 哲: Fragments vol.9
with 吉本裕美子
日時: 2012年6月17日(日)
会場: 東京/江古田「フライング・ティーポット」
(東京都練馬区栄町27-7 榎本ビル B1F)
開場: 7:00p.m.、開演: 7:30p.m.
料金: ¥2,000+order
出演: 長沢 哲(ds, perc) 吉本裕美子(g)
問合せ: TEL.03-5999-7971(フライング・ティーポット)


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 長沢哲が主催する江古田フライング・ティーポットの月例イベント「Fragments」は、6月のゲストに東欧の旅行から帰ったばかりの吉本裕美子を迎えた。カノミを迎えた前回の公演レポートで述べたように、この即興演奏シリーズは、ゲストとホストがそれぞれソロ演奏をしてから、最後にデュオで即興セッション(ゲストが複数の場合はグループ・セッション)をするという三部構成をとっていて、二組の異質な演奏家による対話の試みをテーマにしたものである。ゲストがくりかえし招かれることもあるようで、「Fragments」シリーズは演奏家たちの間にゆるやかなネットワークを開いている。「ジャズ」や「フリー・インプロヴィゼーション」が必ずしも共通項にならない現在の即興シーンのなかで、新しい音や耳をもって即興演奏のネットワークを開こうとする試みは、長沢みずから名づけたように、3.11という鏡にゆくりなく映し出された、フラグメント(破片)化している私たちの存在を結びなおすことに他ならないだろう。この日ゲストで登場した吉本については、これまでにも、風巻隆(2010年10月14日)や高原朝彦(2012年5月1日)とのデュオを聴いてきた。ユニークなスタイルをもつこの女性ギタリストが、明け方の湖面のように、どこまでも透きとおった静かさをもつ長沢のドラミングとどうまみえるのか、期待以上のものがあった。

 ライヴの最初に、愛用のエレキギターで30分弱のソロ・パフォーマンスをした吉本裕美子については、何度やっても説明がむずかしい。少し前に、10弦ギターの高原朝彦とくらべて、「メロディやフレーズや音色に決まった形のない、コード・プログレッションのような進行もない、速度もない、自己表現的でも自己肯定的でもない、言葉を拒絶する音楽」というような説明のしかたをしたが、こんなふうにいわれても、ないないづくしではわけがわからないだろう。かわりにその場所をなにかが埋めているのだが、その説明がどうしてもうまくできない。フレットのうえを機械的にすべっていく彼女の指は、なにがしかのフレーズを生み出していくが、特別な音楽を演奏する目的でそうしているのではなく、とりあえず音を出すためにそうしているだけのようだ。演奏に始まりも終わりもなく聴こえるのは、このためである。彼女自身、時間の経過が読めず、演奏の途中でかならず時計を見る。彼女の目や耳は、楽器よりもむしろエフェクター類にフォーカスされている。出されたギター音がどのような影を帯び、色を塗られ、ぐしゃっとねじまげられて別のものになるかをひたすら追っている。そこにわずかながら演奏者の快楽が感じられる。おそらくはこれこそが彼女にとっての即興なのだろう。シンセサイザーの元音が波形であるように、彼女のギター演奏も、エレクトリックな変形を受ける前の素材でしかない。あえて比較してみるなら、まったく異なった音楽性の持ち主でありながら、吉本のギター演奏は、デレク・ベイリーが奏でるギター弦の物質性に通じるような質感をもっている。無意味さのなかを漂う感覚とアナーキーなまでの野放図さ。そういえば、ベイリーもまた、床に置いた腕時計で経過時間を確認していたが、果たしてこれは偶然の一致だろうか。

 長沢哲のドラミングは、確乎としたスタイルと美を兼ねそなえている。ミニマルなシンバルワークが、スイスの打楽器奏者フリッツ・ハウザーを連想させることは、すでに指摘した。生み出されるサウンドがよく似ているばかりでなく、しんと静まりかえった打楽世界の静謐さであるとか、サウンドを構成してアブストラクトなコンポジションをしていくようなところが、総体的にハウザーの音楽を思わせるのである。演奏の全体をおおう静謐さの密度についていえば、肌に痛いような静けさをもったハウザーのほうがうわまわるだろうか。しかし長沢にはもうひとつ、念をこめた、ていねいな打楽から生まれる太鼓類の声の暖かさと語りかけるようなリズムという側面がある。シークエンスはひとつまたひとつ変わっていくが、満天の星が降る里山の大きな沈黙を背景にしながら、ゆっくりとした増殖と減衰をくりかえす打楽というイメージの流れのなかで、聴き手は自然のたゆたいのなかに包みこまれるような錯覚を覚える。底が見えないくらい深い情感の井戸のなかに身を沈めていくような感覚。こんなにも深い安堵感を与えてくれる音楽を、いったい他のどこで聴くことができるだろう。自然とドラミングの交感ということでは、やはり富樫雅彦の名前を出さざるを得ない。ジャズファンに信じてもらえるかどうかはわからないが、富樫の衣鉢を継ぐドラマーの出現といっても、決して大袈裟ではないように思う。

 水と油ほどに違いのある音楽性をもったこのふたりの共演が成り立つのが、即興演奏の醍醐味だろう。おたがいの出方をうかがう導入部を経たあと、ソロのときよりもロック色を鮮明にしながら、アグレッシヴにサウンドをぶつけていった吉本と、ミニマルにリズムを刻みながら、短く、断片的なサウンドを散りばめることでアプローチした長沢。ギター・サウンドとの兼ねあいからか、途中で打楽がインダストリアルに聴こえる場面もあったりで、多彩にくり出されるふたりのサウンドのバラエティに酔う30分だった。無伴奏になったシンセサイザーふうのギター・ソロを橋渡しにして展開された最後の5分間では、ここまでそれぞれの場所を守ってなされていた演奏が一気に場面転換した。まるで床に敷かれた絨毯がゆっくりと部屋のすべてをおおいつくしていくように、ミニマルにリズムを刻みながら押し寄せるパルス・ドラミングの波と、その波に乗って、次第にディストーションの色合いを濃くしていくギターの咆哮が、デュオ演奏のクライマックスを描き出したのである。ふたりがたがいに対話の糸口を模索していった末の印象的なこの大団円は、長沢がタイトルの「Fragments」にこめた思いにふさわしいものだったと思う。



  【関連記事|長沢 哲: Fragments】
   ■「長沢 哲: Fragments vol.8 with カノミ」(2012-05-31)

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江古田フライング・ティーポット




2012年6月22日金曜日

The Tokyo Improvisers Orchestra を語る PART 4


The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
── Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー ──



PART 4 語りなおされる「即興」


── Miya さんはロンドンのオーケストラの経験がある。岡本さんは、他のオーケストラに参加されたりしているんですか?

岡本 俺は6月にポルトガルのMIA(3º Encontro de Música Improvisada de Atouguia da Baleia)の Ernesto Rodrigues(viola, conduct)、Paulo Curado(horns, conduct)の2人の指揮のオーケストラに参加します。そして11月にベルリンの BerIO[Berlin Improvisers Orchestra]に参加しようと思っているんです。

──コンサートをやってみて、さっき少しおとなしくなりすぎちゃったんじゃないかって話が出ていましたけれど、各国ごとの印象というのはどうなんでしょうか? 違いがあるんでしょうか?

Miya ロンドンもベルリンも、私は両方参加しているんですがもっとワイルドですね。くらべるものではないと思うんだけど。そのときに私が思ったのは、日本って教育で小学生のときからすごく協調性を教えこまれるじゃないですか。私は音楽のプロフェッショナルになった瞬間に、特に私のまわりがそうだったのかもしれないけれど、なんでみんなこんなにするのって思うくらい主張があったんですよ。仕事をし出した瞬間に。それがすごく不思議だった。ロンドンで仕事をする機会があって初めてイギリスに行ったときに、向こうでは、みんな自分の意見を主張するように教育を受けてきているんだけれども、仕事の現場になった瞬間に、すごい協調性があるんですよ。人の紹介にもすごく気をつかうし。イギリス人がですよ。日本って逆だなあと思った。

岡本 ああ、そうだなあ。もっと緩やかな協調性があるとよいですね。例えば誰かが外国から日本に演奏に来て、俺はそういうの嫌いなんですよね。俺はやんないけどお前がやれよみたいな。いつもそういうのをいっぱいやりたいんですよね。あの人いいから、お前とあうからやってみろよっていう。それでTIOのメンバーの人たちが、みんな聴きにいけば、それはまた、なんか別の話になって伸びていくじゃないですか。最初にみんなにメールを送ったっていうのは、そういう内容のメールを送ったんです。

Miya 私がひとつ思ったのは、LIO[London Improvisers Orchestra]の演奏は、年数も重ねて来ているから、信頼関係があるってことがまず大きい違いだと思うんだけれど、けっこう相手がなにをやっても、たとえば、隣の人が指揮が明らかに来てるのに、完全に無視してガーッて吹いていたりしても、ああ、またアイツやってるなみたいな感じで、オールOKなんですよ。誰がなにやってもOKな空気感が作られている。もちろん面白くなければNGですよ。だから、やる人も面白いという確信をもってやっているからいいと思う。TIOの場合、おとなしくなりすぎた一番の原因は、協調性があるからじゃなくて、まだおたがいに知らない人たちばかりだから、信頼関係が築けていないということが大きいと思う。それは出会って間もないことなので、しかたがないことだと思うんです。ひとりひとりが指揮をするようになって、その人のパーソナリティってすごく出るじゃないですか。ああいうことを重ねていけば、もうちょっとワイルドな感じになると思う。

岡本 やっぱりサックスも少ないからね。この間のはホーンが少なくて、弦が多かったでしょ。

Miya でも弦が多くないと、オーケストラにはならないからね。

岡本 だから特色ですよね。今回は弦が少ないんですよね。

Miya 私が思うのには、オーケストラという形があるのは、機能があってああいう楽器編成になっているわけだから。

岡本 俺はね、それはぜんぜん違う考え方なの。たとえば、ピアニストが3人いたり、ギタリストが3人いたりとか、普通だったらそんな編成は考えられないでしょ。音的に邪魔だし。でもインプロヴァイザーっていうのは、たとえばギタリストがガーッて弾く人じゃないもの。だからTIOの編成っていうのは、もうメチャクチャでいいと思う。コンピュータばかり10人いるTIOでもいいと思うし、サックスばかり10人でもいいし。だけど、いまあなたが7月にむけてやりたいと思っていることが、違ってたらつまんないじゃない。だから今回あなたがやりたいようにメンバー集めましょうと。だから毎回メンバーが違っていいと思うんですよね。

Miya ここは私と希輔さんの意見が違うポイントなんです。

岡本 そう。ぜんぜんあわないの。

Miya じつは私は、オーケストラという名前にするのであれば、弦は必要だと思うんです。半分ぐらい弦がいないとオーケストラではないと思う。で、違う名前にすればいい。Tokyo Improvisers ナントカって言えばいいと思うんだけれど。

岡本 Miya さんには、数多く自分の思いつきを提案するのですが、なかなか賛成は得られません。2人だけでさえ意見を統合するのは困難なのです。

Miya 今回、前回参加してくれた弦の人たちは、スケジュールが合わないということもあるし、アイディアが理解してもらえなかった人も何人かいて、参加しないんですね。でも、私がオーケストラを面白いなと思ったのは、やっぱりいろんなジャンルから人が集まってくることなんです。ジャズの流れの人もロンドンにはけっこういるんですね、即興に特化している人、サウンドに特化している人、ロックからも来てるしポップスからも来てる。ただ比率でいえば、3分の一ぐらいが現代音楽の人なんですよ。弦楽器プレイヤー、ピアノのなかしか演奏しない人、あとは「object」といって物を演奏する人とかが多くて、私はそういうぜんぜん違うジャンルの人を呼びたいと思っているんですね。いま希輔さんの話を聞いていてハッと思ったのは、私はまだそういう形式のなかでのイメージでとらえているんだってこと。希輔さんは、形式なんかは関係ないと、インプロヴァイザーで面白ければなんでもいいんだということは、わかるんだけれど。

岡本 ただ、インプロヴァイザーがみんな同じコンセンサスを持っているわけじゃないから。ほんとうに違うでしょ。即興ってなんだって聞かれて、同じ答えは絶対に返ってこないじゃないですか。100人に聞けば100人が違う即興だし、しかもまるっきり違うでしょ。だからそれをまとめあげる必要はないし、できないですよね。そんなことはもうぜんぜん無理だと思っているので。

──さっき集団即興に興味があるっておっしゃったでしょう。それってこのところのインプロのシーンではあまりない試みじゃないですか。

岡本 俺がそれをやっているのは、昔この茶会記で「ドガの踊り子」というのをやったことがあるんだけど、「ドガの踊り子」って、一枚の絵のなかで踊り子とパトロンがいて、そのどっちが欠けても絵として成り立たないじゃないですか。だけど観客がどっちを観るかといえば、パトロンを一生懸命観ている人もいれば、踊り子を一生懸命観ている人もいる。絵によって踊り子がこんなに小さく描かれていることだってある。たとえばここで5人でやったときに、誰かがソロをとっているんだけれど、お客さんはそのソロをとっているヤツだけを聴いているわけじゃないじゃないですか。絶対的にいえば。わきで待っている人を、演奏していないけど、その人ばかり見つめている人もいれば、あるいはオブリガードだけを聴いている人だっているだろうし、だから、どうせそうなんだったら、いまこの場面でこの人が主役、その場面でその人が主役というのを、演奏しながらわざと作っていったらどうなの。たとえば、30秒ごとにどんどんソロをとる人が変わるとか、あるいはこのデュオ、このデュオ、このデュオ、このデュオってどんどん変わっていくとか、もしそれが終わったら、このトリオ、このトリオ、このトリオっていろんな組合わせで。いっしょにやっているんだけれど、意識的に組合わせをどんどん変えてやっていく。このやり方がいま自分が誰かとやるときの基本的な演奏のしかたなんですよ。それをオーケストラでやってみたい。それが40人になろうと50人になろうと、指揮者がいるんだから、うまく指揮さえすれば、見事に簡単にできるはずなんですよ。いまあなたはここでカルテットで演奏してといって、それを演奏しながら、こっちではトリオで演奏してと。

──それは集団即興っていうんじゃないかもしれませんね。

岡本 それがほんとうに即興になっていくんだろうけれど。

──要するに、60年代的な発想だと、集団即興にある種の全体性を求めたようなところがあったでしょう。グワーッてなるということが、必ずしも否定的なことではなくて、自分たちの共同性を獲得するための方法だったというような。

岡本 だけどさ、それは具体的に誰のことをさしているの。いっぱいいましたよね。たとえば、サンラーのアーケストラを「集団即興演奏」というのか。

──部分的にはあったかも。

岡本 ですよね。だから、思うんだけど、「即興」という言葉を使うこと自体にもう無理があるんですよね。

Miya あと、もうひとつつけ加えるならば、Tokyo Improvisers Orchestra というのは、即興のオーケストラではなくて、即興ができる人が集まっているオーケストラなんです。

岡本 即興ができる人たちが集まって、譜面をやることだってあるかもしれない。

Miya あー、そうそう。

岡本 だからニーノ・ロータの曲だけやりましょうということだってあるし、セロニアス・モンクの曲だけやりましょうと、それも即興じゃなしに、譜面をばっちりやりましょうと。譜面を使ってもいいわけだから。なんでもありなんだから。だから、インプロヴァイザーズが集まっているオーケストラなんですよ。即興をやろうという話が、最初からあるわけじゃない。ただ即興演奏家だから即興をやってもいいんだけれどもというスタンスなんです。

Miya 希輔さんのとらえかた、私はすごくいいなと思うんです。この間のリハのときも、すごくいいなと思った。ひとりひとり指揮者をやると、指揮をするという行為だけで、まずいっぱいいっぱいになるんですよね。やったことのない経験だから。希輔さんはこういうふうにしたいんだと最初にみなさんにお話しして、実際にそれを試すことをやって、ワークショップというのはそういうことをする場だからすごくいいなと思ったんですけれど、LIOでは、リハーサルする場所がなくて、本番前の一時間ぐらいしかできないんですけれど、ただやっぱり経験はあるので、お金をとってパフォーマンスするだけのクオリティのものはできるんだけど、毎回なにか新しいことを試すんですよ。それで、人によってはほんとうに譜面を持ってくる人もいた。今日はこれとこれとこれの音を使う場面を作りたいからといってそれを配って、一回やってしまったら、それを毎回やらなければいけないということではなくて、今日はこういうことを試してみたいと、次はそれを発展させてこういうことをやってみたいと、いろいろなことを試す場であったりしますね。

岡本 どんどん新しくなっていかなくちゃダメなんですよね。その場所で毎回同じだったらもうやっている意味ないんで。指揮をやる前に、頭のなかで妄想のようにいろんなことを考えるんですよ。あの人こうやったらどうなの、この人こうやったらどうなの、ダンサーがこう動いたら面白いんじゃないのとか、もういろんなことを考えるんだけど、実際にその人たちの前に立つと、それは違うということに気づくんですよ。妄想と現実とのギャップ。ほんとうにこんなに違うんだと。だけど、この人たちにやってもらいたいことがなければ、もうその前に指揮者として立っている意味がないわけだから、それが即興ですよね。出てくる音が即興なのではなくて、その人たちといっしょにいてなにかしようとすること自体が即興だと思う。

Miya うんうんうん。

──それでは最後に、次回の公演に向けての言葉をいただけますか?

Miya 一回目は面白かったんだけれど、二回目、三回目はすごく重要なポイントであるなと思っています。TIOっていうのは、来て、見ていただかないとわからないタイプのものだと思うし、ほんとうに体感してほしい音楽なので、とにかく、ぜひ来てくださいということをいいたいです。

岡本 やっぱり継続することが大事だと思うんですよね。どんな形でもいいから継続して、ずっといってきたような環境をコツコツと作りあげていく。それが5年かかるのか、10年かかるのかわからないけど。ずっと続けていくことが大事だと思っているので、ぜひいろんな人に参加してもらいたいし、聴いてもらいたい。



 【写真クレジット】
  Top: Anna Kaluza(Sax), Robert Wuerz(Sax), Miya(Flute) at Berlin    
  Middles: TIO
  Bottom: P.R.E.C., Paulo Chagas(Oboé, as), Paulo Curado(Flute, Sax), João Pedro 
       Viegas(Clarinet), Luís Vicente(Trumpet), Fernando Simões(Trombone), Eduardo 
       Chagas(Trombone), Paulo Duarte(Guitar), Maresuke Okamoto(contracello), Miguel 
       Falcão(Contrabass), Monsieur Trinité(Percussion, Objects), Pedro Santo(Drums), 
       Espectáculo de promoção ao MIA 2012 - 3º, Encontro de Música Improvisada
       de Atouguia da Baleia


 ■ The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
   ── Miya・岡本希輔 ダブルインタヴュー
 【PART 4】語りなおされる「即興」

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The Tokyo Improvisers Orchestra
2nd Concert
日時: 2012年7月16日(月・祝)
会場: 東京/中野「野方区民ホール」
(東京都中野区野方5-3-1)
開場: 7:00p.m.、開演: 8:00p.m.
料金/予約: ¥2,000、当日: ¥2,500、学生: ¥1,500
問合せ: TEL.03-6804-6675(Team Can-On)
E-mail: team.can-on@miya-music.com

【The Tokyo Improvisers Orchestra】
violin: 島田英明 中垣真衣子 小塚 泰
cello: 岡本希輔 contrabass: カイドーユタカ Pearl Alexander
flute: Miya bamboo flute: Terry Day
oboe, English horn: entee reeds: 堀切信志 森 順治 山田 光
trumpet: 横山祐太 金子雄生 trombone: 古池寿浩
guitar: 臼井康浩 細田茂美 吉本裕美子
electronics: 高橋英明 drums: 荒井康太
percussion: 松本ちはや percussion, vo: ノブナガケン
piano: 荻野 都 照内央晴 voice: 蜂谷真紀
reading: 永山亜紀子 dance: 木野彩子 佐渡島明浩

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The Tokyo Improvisers Orchestra



The Tokyo Improvisers Orchestra を語る PART 3



The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
── Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー ──



PART 3 プラットフォームとしてのTIO


──そうしますと、岡本さんにとっては、即興演奏家のアソシエーションのようなものを世界的に作ることがオーケストラのイメージなんですか? それとも、オーケストラ・ミュージックに特化するような演奏をしてみたいということが中心になるんでしょうか?

岡本 それはトータルなことなんですよね。たとえば、自分が指揮してオーケストラをやりたいかというと、じつは自分はあまりそういうのだけをやりたいわけではありません。だけど、集団即興演奏にはとても興味があって、それをやりたいというのはもちろんあるんですよ。だけど組織は作りたくない。というのは、組織を作りはじめると、もっと違うことになってきちゃうんですよね。だから組織はできるだけ作りたくないけれど、たとえば、この店があるからここで演奏できるみたいなように、TIOがあるからソロとかデュオでできるような、環境づくりみたいのはやりたいと思っている。

──それは組織じゃないの?

Miya プラットフォームですよ。

岡本 「組織」という明確な形を作りたくありません。だからこの先TIOをやるとき、たとえば、幹事みたいなものを5人か6人くらい決めて、あなたは会計係ねとか、あなたは次の公演のプログラムを作るときにコンサート・マスターをやってねとか、意思を統一するような話合いを持つ時間がとれれば、それはそれで面白いかもしれないけれど、それをやりはじめたらいまいわれたアソシエーションみたいになっていく。NPOとか、なんかそういうものになっていってしまうでしょう。自分はそれを避けたいんですよね。それは演奏家として一番危ない道だと思う。個人の演奏家はそういうことをすべきではないと自分は思う。政治に関わるべきではないとも思うし。

Miya 私はプラットフォームであるべきだと思ってて、オープンなんだけど、それでも誰でもOKというわけではないんですよ。技術がある人でないとだめだという基準は、私は守らなければいけないと思っているんだけど、風通しがいいということがすごく重要だと思いますね。TIOという名前がちゃんと軌道に乗ったら、もう私はいなくてもいいと。

岡本 そうなんだよね。それが不思議でしょ。俺も、次回俺は参加しませんでアリなんですよ。Miya さんと俺は参加しませんでアリなんですよ。たまたま誰か、あなた指揮やりたいなら、次のコンサート自体をやってね。メンバーも自分で集めてやってね。TIOって名前じゃなくてもいいんじゃないの。だけどTIOって名前を使いたいならTIOでやってね。それでもし別なところに行きたいのなら行ってもかまわないし。自分たちはこれでなんか有名になりたいとか、そういうのまるっきりないんですよね。ぜんぜん興味がない。そういう音楽シーンのなかでなんかこうひとつのムーブメントを作って有名になろうみたいな、そういう興味はないから。そこがなんかこのふたりが似ているところなのね。

Miya そうですね。ただ、有名になりたいわけじゃないというのはわかるんだけど、やはりお客さんには来てもらわないといけないし、収益もあげないといけない、もう500円でもいいんですよ、30人で500円だったらそれだけでけっこう大きな金額になるんで、そういう意識をみんなで持つことはやってもいいかもしれない。

岡本 最初から言っているように、フライヤーを配ってお客さんきてねっていうことは大事なんだよ。もっと自分の音楽のことを考える時間があってもいいんじゃないかなって思うんだけどね。ただ、やりたい気持ちはわかるんですよ。やればやるほど自分も変わっていけるから。ウチで100日一生懸命に練習してできないものが、三日続けてライブやったらできちゃったりするんですよね。即興は技術じゃないから。

Miya やり方もありますしね。バランスをとってやればいいわけだから。でも、おっしゃっていること、私は意味があると思うんだけれどね。そこに関しては模索の段階かな。TIOのこれからの方向性のことで、理想としては、もう会場を固定して、そこで年に何回とか決めてしまってやればいいんだけど、やっぱり私たちの考えにあうところじゃないとやっても意味がないと思うし、そんなところはそう簡単には見つからないですね。

岡本 まあ、TIOって意外とまだ何にもないんですよ、じつは。

──出来事をこれから起こすわけですから。それで春に一回やったわけだから、それに対する思いだけでいまはじゅうぶんだと思いますよ。

岡本 いまね、面白いんですよ。オーケストラのリハーサルでは、いま全員が指揮をやっているんですよ。実際の本番で誰がやるかじゃなくて、全員がとにかく交代でやる。みんなで指揮する。それがすごい面白いの。見事に違うんですね。決めごとっていうのは指揮法だけ。たとえば、こうやったら長い音とか、こうやったら短い音とか、そういったのが20個ぐらいあるだけなので、それはもちろん使ってもいいよと。だけど自分の勝手な指揮を決めてもいい。だから自分がやるともう喋っちゃう。ベラベラ喋っちゃう。いまあなたがやって、いまはあなたがやってとか、いまこんな音楽を演奏してとか喋るんだけど、それもぜんぶアリ。

Miya 伝わればOKという。指揮者がなにを言ってるのかわからなかったら、こっちは勝手にやるっていうオプションもあるんだけど、基本的にみんな指揮者のやろうとしていることの意図を汲もうとするんだなっていうのが、ひとりひとり指揮をやってみた結果の感想です。面白いです。私もできるかぎりこたえたいし、自分が演奏していなくても面白い。指揮者がなにかやってて、あの人はこういうふうにこたえようとしているんだなとか、そういうのを見ているだけでも面白い。

岡本 みんな指揮をやりはじめるときにね、こんな音楽をやりたいってことをもう持ってるんですよ。それがインプロヴァイザーのすごいところなんですよね。ただ指揮をやってみたいじゃなくて、こんな音楽をやりたいって、もう10人やらせたら10人がそれぞれに持ってる。それで、たとえ指揮が下手でも、自分の頭のなかにある音楽を再現しようとする。それがすごいですよね。みんなプロなのはそこですよ。(【PART 4】につづく)



 【写真クレジット】
  Top: Denitsa Mineva(violin), Andrea Sanzvela(viola), Maresuke Okamoto(contrabass), 
  Rieko Okuda(piano), Antti Virtaranta(contrabass), Tristan Honsinger(cello), Wolfgang
  Georgsdorf(voice), April 10th, 2012, KussKuss Küche, Berlin
  Bottom: TIO


 ■ The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
  ── Miya・岡本希輔 ダブルインタヴュー
 【PART 3】プラットフォームとしてのTIO

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The Tokyo Improvisers Orchestra

The Tokyo Improvisers Orchestra を語る PART 2



The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
── Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー ──




PART 2 オーケストラがめざすもの


岡本 過去の事例から考えても、オーケストラはみんな拒否したがるんですよね。わーって音を出して、それでとにかく大騒ぎになって終わる。はっきり言ってつまんない。だから自分が書いたメールは、そうじゃないようなことがやりたいんだっていうことを書いて送ったんですね。それがたまたま自分の予想よりたくさん来てくれちゃったうえに、Miya さんがストリングス・チームをゲットしてしまったので、それでいっきに40人という大所帯になっちゃった。

Miya 希輔さんが選んでくださったメンバーは、筋金入りっていうか、即興演奏をずっとされてきた方がやはり多くて、私も出会うチャンスがなかったような人たちが多かったですね。オーケストラをやる目的のひとつとして、希輔さんがおっしゃったように、仲間うちだけでかたまるのではなくて、プラットホームとして作りたいという気持ちがあるので、いろんな分野のなかで、即興に対してオープンな気持ちを持っている人を入れたいという気持ちが強かった。じつはジャズ・ミュージシャンにはまだひとりも声をかけてなくて、かけたいという気持ちはあるんだけど。

岡本 いやあ、そうなんだよね。だからそのいまの部分、共通のコンセンサスみたいのがあるから、逆に合わないところもいっぱいあるんですよね。俺が呼びたい人は、この人はおそらく呼びたくないだろうなとか、もっとサクソフォンを増やして、バーッと音が大きくなるような音楽もやってみたいとか、いろんなことがあるんだけれど、いまのところ、メンバーのひとりひとりにどう思うって聞きはじめちゃったら、もう収拾がつかない。もう100人いれば100人違うことを言うから。会議するわけにもいかないし。集まって練習するのだって大変なのに、意思をまとめるなんてとてもできない。誰を指揮者にするとか、どんな音楽をやるとか、それはもう、私たちふたりでぜんぶ決めてしまう。それはもう独善的に決めてしまうというのを、もうしわけないけど少しの間やらしてくれと。
 ただし、他のオーケストラと違うのは、あなたに20分間の指揮をやってもらいます。その20分間はあなたが好きにやっていい。オーケストラの構成は基本的にはアコースティック中心なのですが、それはもう大前提であって、あなたが指揮をするときは、それをぜんぶ破ってしまってもかまわないという取り決めがあるんですね。だから指揮者にはどんな細かい命令も、やり方の指示も、いっさいしない。

Miya 指揮も、実際にやってみるといろいろと気づくところがあるんだけれど、やっぱり指揮をするときのテクニックが、すごく必要だなと思うんです。それもみんなで作っていきたいし、演奏者は最終カードを持っていて、それはなかなか勇気がないと使えないカードなんだけど、「指揮を拒否する」というカードも持っているんですよ。

岡本 ソロをとれといわれても拒否できたり、こういうのをやってといっても、いや、それは俺の音じゃない、俺はそれやりたくないというのも、ぜんぶアリなんですよ。逆に、勝手に弾いてしまっても、勝手に音を出してもいい決まりになっている。でも、さらにそれを指揮者がうるさいっていってもいい決まりにもなっている。だからぜんぶアリなんです。ただ、自分が第一回TIOをやって失敗したと思うのは、ほんとにちゃんとよく聴ける人ばっかりを集めたことが裏目に出て、あまりに静かできれいな音楽を作りすぎてしまったというのが、いまちょっと反省点としてあるのね。

Miya おっしゃることよくわかります。メンバーが即興演奏家だから、ワーッと自分のことを主張するかと思いきや、すごく協調性が高いなと思いましたね。

岡本 自分では仲のいい人だけを集めないようにしようと思ったけど、やっぱりそうなっちゃったんでしょうね。何人かのミュージシャンには、もう頭下げてお願いした人もいるんですよ。だけどそのなかには、やりたくないっていう人も何人かはいて、もちろん公演日に外国にいってるからできないとか、アドバイスだけはできるけど、自分はいまそういうことはやりたくないとか、そういう人も含めてですけど。もう頭を下げて、とにかくあなただけはどうしても参加してもらいたいといったけど、参加してくれなかった人がふたりだけいます。それはすごく寂しいことでした。それはもうしょうがないですよ。いっしょにやるって意識がないのに、やってもらってもしょうがないし。
 自分たちのやっていることを世界に門戸を広げて主張していく。なんていうのかな、ひとりひとりの、俺は、俺はじゃなくて、いま日本でこんなすごいことができるんだぞっていうのを、まず世界にアピールしたいし聴いてもらいたい。それがその、実際にやってみたら、ドイツでも同じようなことをやっているし、ポルトガルでもイギリスでもやっているし、ペテルスブルグでもやっている。齋藤徹さんにも相談したんですが、齋藤徹さんはすごく相談にのってくれて、アドバイスくれたり、指揮法のリストを送ってくれたり、あるいは自分がドイツでやったオーケストラのDVDを送ってくれたりとか、すごく手伝ってくれて、そこから世界中で同じようなことを、ものすごい数やっているのがわかったんですよね。国を超えて同じことをやっているという仲間意識みたいなもの、それがすごく大きくなってきたのが嬉しいっていうか。そうすると、自然とこう行ったり来たりする。そういうのをどんどん広げてやっていきたい。だから自分も最近どんどんヨーロッパに行くのは、それが理由なんです。
 フライヤーを作って、どこかに束で置いておいても意味がないんで、誰か、この人はという人にじかに手渡して、こんなことやっているんで来てくださいねっていうのがフライヤーだと思うんです。そのためにポルトガルまでいって、こんなことやってますというようにTIOのフライヤーを見せる。来週やるから、あなた来れないかもしれないけれど、いつか来てね、いつか演奏で来てねって。ドイツへ行っても同じことをやって。それで向こうの人と仲よくなって、それも誰でもいいってわけじゃないですよ。もうゴマンと演奏家はいるから。いっしょにやってみないとわかんないこともあるし。

──確認しますと、世界中でというのは、世界中にインプロヴァイザーがいるっていうことなのでしょうか、世界中にオーケストラがあるということなのでしょうか。

岡本 いや、もう日本も外国も垣根がない状態に持っていきたいんです。たとえば、ベルリンの演奏家が、日本にちょっと来て即興演奏やってみたいなって思ったときに、どうすればいいと思います。結局のところ、雑誌を騒がせているような、あるいはCDがよく売れているような有名な人を頼るしかないじゃないですか。だけどTIOがあったら、TIOにまずアクセスしてくれれば、TIOはまるっきりの非営利団体だから、たとえば、ビデオでもYouTubeでも音源でも演奏を聴かせてもらって、あなたこの人とやってみたらどうなのって紹介できるじゃないですか。私たちは門戸を広げて、いつでもどこでも、ちゃんとした人がちゃんとした組合わせで演奏できるような環境を作りたいだけなんですよね、基本的に。

Miya インプロヴァイズド・オーケストラは、私もいってみて気がついたんだけれど、ロンドンは13年の歴史があって、ベルリンは昔からあるヤツと、私が最近関わっているヤツがあるんだけれど、イギリスのなかでも、ロンドンだけじゃなくて、オックスフォードとかスコットランドとか、LIOとはぜんぜん関係のないいろんなところで勝手に起きているんですって。ヨーロッパの各地にも、私は直接には知らないんだけれど、スペインにもあると。だけど組織立ったものはないんですって。

岡本 そう。だから誰かひとりが頭になって、あれ向こうでやってるからこっちでもやってみようぜって集まってやって。<東京インプロヴァイザーズ・オーケストラ>って、前に藤井郷子さんたちがやっている(※註1)んですよ。藤井さんとか松本健一さんとか。新宿ピットインで。

Miya あ、そうそう。私も見た。あれはリーダーがいましたね。オーケストラの運営って、ほんとうに大変なんです。私もこの間よくよく考えてしまって、私は集団行動がなによりも苦手なんですよね。なんで私がこんなことやってんだろうなって思ったときに、ふと気づいたのが、希輔さんもそうだし、TIOも私利私欲で動いている人がひとりもいないんですよ。みなさんほんとに惜しみなく協力してくださるし、面白い音楽をやるためには、自分の技術とか、持っているものすべてをそこに惜しみなく提供して、守るんじゃなくて、オープンにしていこうという気持ちの人たちが集まってきてるから、私も自分にできることはなんでもやろうと思うんです。もちろんみなさん他の活動もあって、そのなかでやっていくことだから、比重は人によって違うし、一生懸命やるけど、これにばかりエネルギーをかけていられないところもあるし、バランスは人によって違うと思うんだけれど、長く続けていくために、ストレスにならないギリギリの範囲でやっていきたいなと思っているんです。

岡本 一生懸命、練習会場を予約してくれたり、フライヤーの文章を英訳してくれたり、意外に大変なことをやってくれるんですよね。いろんな人がいろんな形で協力してくれるから、お金かかってないですよ。TIOってコンサート会場借りるくらいで、練習場って、区の施設とか借りると3000円とか4000円くらいじゃないですか。

──お金はみんなで出しあうんですか?

岡本 いや。だって必要ないですもの。

Miya いやいや。それはぜんぶ最終的な収益から引いてるんだけど、この間40名でやって、会場費とかぜんぶ出して、ほんとうに小額ですけれど交通費程度は支払えたんですよね。それを聞くとみなさんほんとうにびっくりしますね。

岡本 プロだから。趣味でやってるんじゃないから、収益が出るようなところまでは持っていこうねって、みんなに言ってるんです。(【PART 3】につづく)


※ 註1)2005年11月29日、スコットランドのグラスゴーを拠点に活動するレイモンド・マクドナルドが、藤井郷子や田村夏樹との交流を通じて来日した際、新宿ピットインで持たれた一夜だけの大編成のオーケストラの名前が、 <Raymond MacDonald Tokyo Improvisers Orchestra>だった。グラスゴーでもマクドナルドが所属する<Glasgow Improvisers Orchestra>が長い活動をつづけており、渡英した藤井らがこれに参加している。

 【写真クレジット】
   Top: The Quartet, Klaus Kürvers(contrabass), Maresuke Okamoto(contracello), 
   Hui-Chun Lin(cello), Jean Michel Susini(violin), April 6th, 2012, Sowieso in Berlin
   Middle: TIO
   Bottom: Makoto Sato(Drums), Richard Comte (Guitar), Miya(Flute), at Paris 2011


 ■The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
  ──Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー
 【PART 2】オーケストラがめざすもの

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The Tokyo Improvisers Orchestra



The Tokyo Improvisers Orchestra を語る PART 1



The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
── Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー ──
取材・構成:北里義之
収録日時:2012年5月22日(火)
収録場所:大京町 喫茶茶会記


 今春、3月10日(土)に、イギリスから来日したサックス奏者のリカルド・テヘロを迎え、東京杉並区の浜田山会館で開催された<東京インプロヴァイザーズオーケストラ>(以下TIO)の旗揚げ公演は、複数の世代にまたがり、いろいろある音楽ジャンルのどの分野にあっても、即興演奏に挑戦する気持ちを持った40人ほどのミュージシャンが一堂に会する一大イベントだった。ブッチ・モリスのコンダクションのような先行例はあるものの、これだけ大がかりな即興オーケストラ公演は、しばらく日本で聴かれなかったものである。それだけではなく、オーケストラの公演スタイルはとっているものの、TIOは、リーダーのいる音楽集団というより、ひとつのプラットフォームとして立ち上げられた側面を持っている。ここでキーパーソンとなっているのが、オーケストラの初回公演にも参加したフルート奏者の Miya とコントラバス/チェロ奏者の岡本希輔だ。この夏に、やはりイギリスからテリー・デイを迎えておこなわれる第二回公演に先立ち、TIO発足の周辺や即興演奏の現在をめぐる話をおうかがいした。


♬♬♬



PART 1 TIOへの道のり


──TIOが立ち上がるまでのいきさつを教えてください。

岡本希輔(以下「岡本」) リカルド・テヘロさんが来日するという話になって、コンサート・ツアーをやろうと。そのときに、あの人は指揮をするのが得意なので、できれば日本のミュージシャンを指揮してみたいという話が最初にあったんです。私個人の話をすると、ソロはもう30年もやってきて、デュオというのもやってきた、トリオだカルテットだというのも別々にやってきたんです。ソロの企画はソロでやる、デュオの企画はデュオでやるというのでやってきたんですが、大人数の企画をやったことがなかったんです。大人数というのは失敗する例も多いし、面白くなくなるパターンもあるから、あまり手は出したくなかったんだけれど、指揮されたものだったらやってもいいかなってことが頭の片隅にありました。このときは、デュオとかトリオの企画がポンポンポンと二つ三つ決まって、最初はオーケストラをやろうって話じゃなかったんです。

Miya 私にはオーケストラをやりたい気持ちがずっとありました。野村誠さんという音楽療法のパイオニアの方がいらっしゃるんですけれど、作曲家でもあって、彼がさかんにワークショップをやっているんですね。それにすごく影響を受けたんです。しょうがいを持つ子どもたちや、普通の学校の子どもたちに即興を教えて、そこで曲を作るというプログラムをけっこう前からやっていて、それをビデオで見たときにすごいなあと思ったんです。2時間ぐらいで、とりあえず曲として聴けるクオリティの高いものを作っているんですよ。彼は作曲家という観点からやっているので、方法もあってやるんだけど、すごく面白いものでした。これがひとつ。
 2010年にロンドンに行く機会があって、そこでロンドン・インプロヴァイザーズ・オーケストラと出会って、すごく面白いと思いました。そのオーケストラにいけば、面白いことをやっている東京じゅうの人と知り合えるというような、まあ、ロンドンでもそういう機能を果たしているので、東京でもそういうのを作りたいなあと、帰国してからもずっと思っていたんです。どうしたらいいかぜんぜんわからなかったんですが、今年の夏ぐらいまでにできたらと思って、野村さんに相談しにいったんです。野村さんは、そういうテクニックや準備のやり方も知っている人なので。オーケストラをやりたいんだけれど、どうしたらいいと思いますかって聞くと、どこかの地域に拠点を決めて、そこで毎月インプロのワークショップを続けてやっていって、その延長線上にオーケストラをやればいいんじゃないかってアドバイスをくれたんです。なるほどなあと思いました。私のイメージは、希輔さんに出会うまではそれほど日本の即興演奏家を知らなかったので、自分の知っているジャズのなかでも即興寄りの人たち、バーッと名前の出ている人たちを集めて、オーケストラをやろうかなって思ってたんです。山��直人(やまぎし・なおと ※註1)さんにも相談したんですが、山��(やまぎし)さんは、どうせやるんだったら即興で脈々とやっている人を入れたほうがいいと、リストを書いてくれたんです。それがあとで希輔さんが声をかけた人とほとんど重なったんでよかったなと思ったんだけど。
 そういう構想はずっとあって、東京でオーケストラをやりたいってということを、私はロンドンでもずっと言ってたんです。東京に来たらやれるからっていって。

岡本 脈々とね。

Miya そう。リカルドはそれをよくも悪くも本気にして、オーケストラをやるんだったら指揮をしたいという、そういう流れになったんです。それで希輔さんにオーケストラをやりたいってメールをしたんですけれど、そのときも私はそんなに大規模なことは想像してなくて、最初は10人ぐらいの規模でここの茶会記でやろうといってたんです。希輔さんに声をかけたら、いまいったみたいないきさつで、面白いと思っていただけて、そっから私が思っていたのの100倍ぐらいのスピードで進んだんだけど、希輔さんがバーッてみなさんに声をかけてくださったんです。私たちも、初めてやることだから、そんなに反応があるって思わなかったんだけれど、最初にメールを出した人のほぼ全員から返事がありました。

岡本 12月2日の朝、5時ぐらいに布団のなかで、あっと思いついて、こんなオーケストラをやってみたいんだけど参加してくれますかみたいなメールの文章を書いて、Miya さんにこれでおうかがいをたてたらどうでしょうかって提案して、それで自分の知っているインプロヴァイザーのなかの25人くらいにバーッとメールを送ったんです。娘がたまたまその日の朝いっしょにいたので、「お父さんいまこんなオーケストラをやろうと思ってんだけど、どんな人にメールを送ったらいい?」って子どもに聞いたんです。「お父さん、どういうオーケストラがやりたいの? 友だちで仲よくやりたいオーケストラなの。切磋琢磨してやっていくようなオーケストラにしたいの」っていう。そこで自分の知っている数多くの演奏家の人たちのなかから、いったい誰を選べば良いかってすごく考えたんです。仲よしを呼びはじめたらきりがないんで、娘がいうのに「お父さん、仲よしでやるんじゃないほうがいいよ」って。それで今回は、共演者の音を聴くのが上手な人っていうので呼ぶことにして、それで25人にメールを出したんです。だから交流のあまり深くなかった人も当然入っているし、おそらく参加してくれないだろうなって思った人ももちろんいるし、ただ一点、共演者の音を聴くのが上手な人に基準をしぼってメールを出した。そしたらその25人がほとんど参加してくれました。

Miya 私は最初は、小規模でやろうって話だったから、ひとりずつメールしていきましょうねって、言ったつもりだったんです。そしたら、いつの間にか希輔さんが25人に一斉送信でメール出して、しかもみなさんすごく反応がよくて、速攻で返事くださって、えーっ、どうしようどうしようと思って。(【PART 2】につづく)



 ※註1:「やまぎし」の「ぎし」の字が表記不能。山編に斥を添える。

 【写真クレジット】
 ■ Top: Terry Day (Bambo Flute), David Leahy (Bass), Benedict Taylor (Viola), Miya(Flute)
  at London 2010
 ■ Bottom: Jacques Pochat(sax), Hugues Vincent(cello), Maresuke Okamoto(contrabass),
  April 1st 2012, La Guillotine in Montreuil


 ■The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
  ── Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー
 【PART 1】TIOへの道のり

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