2012年6月22日金曜日

The Tokyo Improvisers Orchestra を語る PART 1



The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
── Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー ──
取材・構成:北里義之
収録日時:2012年5月22日(火)
収録場所:大京町 喫茶茶会記


 今春、3月10日(土)に、イギリスから来日したサックス奏者のリカルド・テヘロを迎え、東京杉並区の浜田山会館で開催された<東京インプロヴァイザーズオーケストラ>(以下TIO)の旗揚げ公演は、複数の世代にまたがり、いろいろある音楽ジャンルのどの分野にあっても、即興演奏に挑戦する気持ちを持った40人ほどのミュージシャンが一堂に会する一大イベントだった。ブッチ・モリスのコンダクションのような先行例はあるものの、これだけ大がかりな即興オーケストラ公演は、しばらく日本で聴かれなかったものである。それだけではなく、オーケストラの公演スタイルはとっているものの、TIOは、リーダーのいる音楽集団というより、ひとつのプラットフォームとして立ち上げられた側面を持っている。ここでキーパーソンとなっているのが、オーケストラの初回公演にも参加したフルート奏者の Miya とコントラバス/チェロ奏者の岡本希輔だ。この夏に、やはりイギリスからテリー・デイを迎えておこなわれる第二回公演に先立ち、TIO発足の周辺や即興演奏の現在をめぐる話をおうかがいした。


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PART 1 TIOへの道のり


──TIOが立ち上がるまでのいきさつを教えてください。

岡本希輔(以下「岡本」) リカルド・テヘロさんが来日するという話になって、コンサート・ツアーをやろうと。そのときに、あの人は指揮をするのが得意なので、できれば日本のミュージシャンを指揮してみたいという話が最初にあったんです。私個人の話をすると、ソロはもう30年もやってきて、デュオというのもやってきた、トリオだカルテットだというのも別々にやってきたんです。ソロの企画はソロでやる、デュオの企画はデュオでやるというのでやってきたんですが、大人数の企画をやったことがなかったんです。大人数というのは失敗する例も多いし、面白くなくなるパターンもあるから、あまり手は出したくなかったんだけれど、指揮されたものだったらやってもいいかなってことが頭の片隅にありました。このときは、デュオとかトリオの企画がポンポンポンと二つ三つ決まって、最初はオーケストラをやろうって話じゃなかったんです。

Miya 私にはオーケストラをやりたい気持ちがずっとありました。野村誠さんという音楽療法のパイオニアの方がいらっしゃるんですけれど、作曲家でもあって、彼がさかんにワークショップをやっているんですね。それにすごく影響を受けたんです。しょうがいを持つ子どもたちや、普通の学校の子どもたちに即興を教えて、そこで曲を作るというプログラムをけっこう前からやっていて、それをビデオで見たときにすごいなあと思ったんです。2時間ぐらいで、とりあえず曲として聴けるクオリティの高いものを作っているんですよ。彼は作曲家という観点からやっているので、方法もあってやるんだけど、すごく面白いものでした。これがひとつ。
 2010年にロンドンに行く機会があって、そこでロンドン・インプロヴァイザーズ・オーケストラと出会って、すごく面白いと思いました。そのオーケストラにいけば、面白いことをやっている東京じゅうの人と知り合えるというような、まあ、ロンドンでもそういう機能を果たしているので、東京でもそういうのを作りたいなあと、帰国してからもずっと思っていたんです。どうしたらいいかぜんぜんわからなかったんですが、今年の夏ぐらいまでにできたらと思って、野村さんに相談しにいったんです。野村さんは、そういうテクニックや準備のやり方も知っている人なので。オーケストラをやりたいんだけれど、どうしたらいいと思いますかって聞くと、どこかの地域に拠点を決めて、そこで毎月インプロのワークショップを続けてやっていって、その延長線上にオーケストラをやればいいんじゃないかってアドバイスをくれたんです。なるほどなあと思いました。私のイメージは、希輔さんに出会うまではそれほど日本の即興演奏家を知らなかったので、自分の知っているジャズのなかでも即興寄りの人たち、バーッと名前の出ている人たちを集めて、オーケストラをやろうかなって思ってたんです。山��直人(やまぎし・なおと ※註1)さんにも相談したんですが、山��(やまぎし)さんは、どうせやるんだったら即興で脈々とやっている人を入れたほうがいいと、リストを書いてくれたんです。それがあとで希輔さんが声をかけた人とほとんど重なったんでよかったなと思ったんだけど。
 そういう構想はずっとあって、東京でオーケストラをやりたいってということを、私はロンドンでもずっと言ってたんです。東京に来たらやれるからっていって。

岡本 脈々とね。

Miya そう。リカルドはそれをよくも悪くも本気にして、オーケストラをやるんだったら指揮をしたいという、そういう流れになったんです。それで希輔さんにオーケストラをやりたいってメールをしたんですけれど、そのときも私はそんなに大規模なことは想像してなくて、最初は10人ぐらいの規模でここの茶会記でやろうといってたんです。希輔さんに声をかけたら、いまいったみたいないきさつで、面白いと思っていただけて、そっから私が思っていたのの100倍ぐらいのスピードで進んだんだけど、希輔さんがバーッてみなさんに声をかけてくださったんです。私たちも、初めてやることだから、そんなに反応があるって思わなかったんだけれど、最初にメールを出した人のほぼ全員から返事がありました。

岡本 12月2日の朝、5時ぐらいに布団のなかで、あっと思いついて、こんなオーケストラをやってみたいんだけど参加してくれますかみたいなメールの文章を書いて、Miya さんにこれでおうかがいをたてたらどうでしょうかって提案して、それで自分の知っているインプロヴァイザーのなかの25人くらいにバーッとメールを送ったんです。娘がたまたまその日の朝いっしょにいたので、「お父さんいまこんなオーケストラをやろうと思ってんだけど、どんな人にメールを送ったらいい?」って子どもに聞いたんです。「お父さん、どういうオーケストラがやりたいの? 友だちで仲よくやりたいオーケストラなの。切磋琢磨してやっていくようなオーケストラにしたいの」っていう。そこで自分の知っている数多くの演奏家の人たちのなかから、いったい誰を選べば良いかってすごく考えたんです。仲よしを呼びはじめたらきりがないんで、娘がいうのに「お父さん、仲よしでやるんじゃないほうがいいよ」って。それで今回は、共演者の音を聴くのが上手な人っていうので呼ぶことにして、それで25人にメールを出したんです。だから交流のあまり深くなかった人も当然入っているし、おそらく参加してくれないだろうなって思った人ももちろんいるし、ただ一点、共演者の音を聴くのが上手な人に基準をしぼってメールを出した。そしたらその25人がほとんど参加してくれました。

Miya 私は最初は、小規模でやろうって話だったから、ひとりずつメールしていきましょうねって、言ったつもりだったんです。そしたら、いつの間にか希輔さんが25人に一斉送信でメール出して、しかもみなさんすごく反応がよくて、速攻で返事くださって、えーっ、どうしようどうしようと思って。(【PART 2】につづく)



 ※註1:「やまぎし」の「ぎし」の字が表記不能。山編に斥を添える。

 【写真クレジット】
 ■ Top: Terry Day (Bambo Flute), David Leahy (Bass), Benedict Taylor (Viola), Miya(Flute)
  at London 2010
 ■ Bottom: Jacques Pochat(sax), Hugues Vincent(cello), Maresuke Okamoto(contrabass),
  April 1st 2012, La Guillotine in Montreuil


 ■The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
  ── Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー
 【PART 1】TIOへの道のり

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The Tokyo Improvisers Orchestra