The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
── Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー ──
PART 3 プラットフォームとしてのTIO
──そうしますと、岡本さんにとっては、即興演奏家のアソシエーションのようなものを世界的に作ることがオーケストラのイメージなんですか? それとも、オーケストラ・ミュージックに特化するような演奏をしてみたいということが中心になるんでしょうか?
岡本 それはトータルなことなんですよね。たとえば、自分が指揮してオーケストラをやりたいかというと、じつは自分はあまりそういうのだけをやりたいわけではありません。だけど、集団即興演奏にはとても興味があって、それをやりたいというのはもちろんあるんですよ。だけど組織は作りたくない。というのは、組織を作りはじめると、もっと違うことになってきちゃうんですよね。だから組織はできるだけ作りたくないけれど、たとえば、この店があるからここで演奏できるみたいなように、TIOがあるからソロとかデュオでできるような、環境づくりみたいのはやりたいと思っている。
──それは組織じゃないの?
Miya プラットフォームですよ。
岡本 「組織」という明確な形を作りたくありません。だからこの先TIOをやるとき、たとえば、幹事みたいなものを5人か6人くらい決めて、あなたは会計係ねとか、あなたは次の公演のプログラムを作るときにコンサート・マスターをやってねとか、意思を統一するような話合いを持つ時間がとれれば、それはそれで面白いかもしれないけれど、それをやりはじめたらいまいわれたアソシエーションみたいになっていく。NPOとか、なんかそういうものになっていってしまうでしょう。自分はそれを避けたいんですよね。それは演奏家として一番危ない道だと思う。個人の演奏家はそういうことをすべきではないと自分は思う。政治に関わるべきではないとも思うし。
Miya 私はプラットフォームであるべきだと思ってて、オープンなんだけど、それでも誰でもOKというわけではないんですよ。技術がある人でないとだめだという基準は、私は守らなければいけないと思っているんだけど、風通しがいいということがすごく重要だと思いますね。TIOという名前がちゃんと軌道に乗ったら、もう私はいなくてもいいと。
岡本 そうなんだよね。それが不思議でしょ。俺も、次回俺は参加しませんでアリなんですよ。Miya さんと俺は参加しませんでアリなんですよ。たまたま誰か、あなた指揮やりたいなら、次のコンサート自体をやってね。メンバーも自分で集めてやってね。TIOって名前じゃなくてもいいんじゃないの。だけどTIOって名前を使いたいならTIOでやってね。それでもし別なところに行きたいのなら行ってもかまわないし。自分たちはこれでなんか有名になりたいとか、そういうのまるっきりないんですよね。ぜんぜん興味がない。そういう音楽シーンのなかでなんかこうひとつのムーブメントを作って有名になろうみたいな、そういう興味はないから。そこがなんかこのふたりが似ているところなのね。
Miya そうですね。ただ、有名になりたいわけじゃないというのはわかるんだけど、やはりお客さんには来てもらわないといけないし、収益もあげないといけない、もう500円でもいいんですよ、30人で500円だったらそれだけでけっこう大きな金額になるんで、そういう意識をみんなで持つことはやってもいいかもしれない。
岡本 最初から言っているように、フライヤーを配ってお客さんきてねっていうことは大事なんだよ。もっと自分の音楽のことを考える時間があってもいいんじゃないかなって思うんだけどね。ただ、やりたい気持ちはわかるんですよ。やればやるほど自分も変わっていけるから。ウチで100日一生懸命に練習してできないものが、三日続けてライブやったらできちゃったりするんですよね。即興は技術じゃないから。
Miya やり方もありますしね。バランスをとってやればいいわけだから。でも、おっしゃっていること、私は意味があると思うんだけれどね。そこに関しては模索の段階かな。TIOのこれからの方向性のことで、理想としては、もう会場を固定して、そこで年に何回とか決めてしまってやればいいんだけど、やっぱり私たちの考えにあうところじゃないとやっても意味がないと思うし、そんなところはそう簡単には見つからないですね。
岡本 まあ、TIOって意外とまだ何にもないんですよ、じつは。
──出来事をこれから起こすわけですから。それで春に一回やったわけだから、それに対する思いだけでいまはじゅうぶんだと思いますよ。
岡本 いまね、面白いんですよ。オーケストラのリハーサルでは、いま全員が指揮をやっているんですよ。実際の本番で誰がやるかじゃなくて、全員がとにかく交代でやる。みんなで指揮する。それがすごい面白いの。見事に違うんですね。決めごとっていうのは指揮法だけ。たとえば、こうやったら長い音とか、こうやったら短い音とか、そういったのが20個ぐらいあるだけなので、それはもちろん使ってもいいよと。だけど自分の勝手な指揮を決めてもいい。だから自分がやるともう喋っちゃう。ベラベラ喋っちゃう。いまあなたがやって、いまはあなたがやってとか、いまこんな音楽を演奏してとか喋るんだけど、それもぜんぶアリ。
Miya 伝わればOKという。指揮者がなにを言ってるのかわからなかったら、こっちは勝手にやるっていうオプションもあるんだけど、基本的にみんな指揮者のやろうとしていることの意図を汲もうとするんだなっていうのが、ひとりひとり指揮をやってみた結果の感想です。面白いです。私もできるかぎりこたえたいし、自分が演奏していなくても面白い。指揮者がなにかやってて、あの人はこういうふうにこたえようとしているんだなとか、そういうのを見ているだけでも面白い。
岡本 みんな指揮をやりはじめるときにね、こんな音楽をやりたいってことをもう持ってるんですよ。それがインプロヴァイザーのすごいところなんですよね。ただ指揮をやってみたいじゃなくて、こんな音楽をやりたいって、もう10人やらせたら10人がそれぞれに持ってる。それで、たとえ指揮が下手でも、自分の頭のなかにある音楽を再現しようとする。それがすごいですよね。みんなプロなのはそこですよ。(【PART 4】につづく)
【写真クレジット】
■ Top: Denitsa Mineva(violin), Andrea Sanzvela(viola), Maresuke Okamoto(contrabass),
Rieko Okuda(piano), Antti Virtaranta(contrabass), Tristan Honsinger(cello), Wolfgang
Georgsdorf(voice), April 10th, 2012, KussKuss Küche, Berlin
■ Bottom: TIO
■ The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
── Miya・岡本希輔 ダブルインタヴュー
【PART 3】プラットフォームとしてのTIO
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