2011年12月26日月曜日

宵(酔い)どれ黒海周遊ジャズツアー 九番目の航海

左から泉秀樹、岡島豊樹、片岡文明の諸氏


宵(酔い)どれ黒海周遊ジャズツアー
第9回ウィンター・ヴァケーション篇:イタリア特集第1回
── SUDから来た男とイタリア・フリーの流れ ──
会場: 吉祥寺「サウンド・カフェ・ズミ」
(東京都武蔵野市御殿山 1-2-3 キヨノビル7F)
開演: 2011年12月25日(日)5:00p.m.~(3時間ほどを予定)
料金: 資料代 500円+ドリンク注文(¥700~)
添乗員: 片岡文明、岡島豊樹(「ジャズ・ブラート」主宰)
主催: サウンド・カフェ・ズミ


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 中欧から東欧、さらにはスラヴ圏にかけて広がるユーラシア大陸のジャズを追いつづけるトヨツキーこと岡島豊樹が、「添乗員」兼「お酌係」をあいつとめ、西ヨーロッパのアヴァンギャルドだけではとても語りつくせない、多彩な世界のジャズを紹介するシリーズ「宵(酔い)どれ黒海周遊ジャズツアー」が好調だ。換気扇にひるがえる万国旗のもと、年末に開かれた第9回目のジャズツアー「ウィンター・ヴァケーション篇:イタリア特集第1回」には、ゲストに “ブンメイ堂” こと片岡文明氏(音盤コレクターである氏にとっては、今回が初のディスクガイド経験となるとのこと)を迎え、氏が所蔵する貴重なアナログ盤の数々によってイタリア・フリージャズの歴史を回顧する「SUDから来た男とイタリア・フリーの流れ」が開催された。今回は、ジョルジオ・ガスリーニやマリオ・スキアーノなどの第一世代、アンドレア・チェンタッツォやカルロ・アクティス・ダートらの第二世代をあつかいながら、1960年代から70年代にかけての動きを駆け足で追った。

 冒頭、本ツアーのチーフ・アテンダントである岡島豊樹は、イタリアにおけるフリージャズの大まかな流れを解説しながら、その存在を世界にアピールした象徴的な出来事として、イタリアン・インスタービレ・オーケストラの結成に触れ、ECMからリリースされた『ヨーロッパの空』を紹介した。「アメリカの空」を作曲したオーネット・コールマンがライナーを寄せたことでよく知られるアルバムだ。原初的なジャズがそうであったように、トヨツキーが持論にしているジャズ生誕の地オデッサも、文化的な混淆のなかから創造的なものが芽生えてくる場所の名前であり、さらには、イタリア半島が突き出た地中海の文化圏も、そのような文化混淆のなかから新たな感覚をつかみ出してくる場所の名前なのである。アメリカの空ならぬヨーロッパの空に反転して映し出されたサウンドの地勢学、すべての人間が等しく大地をはって生きる運命をもつという庶民観、文化的な地域主義に風穴をあけ、異質なものを橋渡ししていく装置(ドゥルーズ的に「音楽機械」と呼んでもかまわない)としてのジャズ、そのようなものが転生したジャズの姿(清水俊彦)として語られていた。

 当日かけられたアルバムは以下の通り。

(1)Italian Instabile Orchestra『Skies Of Europe』(ECM, 1994年5月)
(2)Giorgio Gaslini『12 Canzoni d'amore Italiane』(1964年)
(3)Giorgio Gaslini『Nuovi Sentimenti』(RCA, 1966年)
(4)Mario Schiano『Sud』(TomOrrow, 1973年)
(5)Mario Schiano & Giorgio Gaslini『Jazz A Confronto 8』(Horo, 1974年)
(6)Marcello Melis『The New Village On The Left』
(Black Saint, 1974年&76年)  
  ※サルジニア民謡とジャズ。おそらく編集で重ねられたもの。
(7)Enrico Rava『Jazz A Confronto』(Horo, 1974年)
(8)Guido Mazzon『Gruppo Contemporaneo』(PDU, 1974年)
  ※ここからイタリア・フリー第二世代の台頭を刻印するアルバム群。
(9)Gaetano Liguori Idea Trio『I Signori della Guella』(PDU, 1975年)
(10)Andrea Centazzo『Fragmantos』(PDU, 1974年)
(11)O.M.C.I./Renato Geremia『Contro』(L'Orchestra, 1975年)
  ※O.M.C.I.=Organico di Musica Creativa e Improvvisata
(12)Carlo Actis Dato『Art Studio』(Drums Ed.Mus., 1977年)
(13)Giorgio Gaslini『Free Actions』(Dischi della Quercia, 1977年)
  ※参加メンバーであるジャンルイジ・トロヴェージ(cl)の演奏を聴く。
(14)Eugenio Colombo『I Virtuosi di Cave』(Red, 1977年)
(15)ICP Orchestra『Live Soncino』(ICP, 1979年)
  ※クレモナ公演の際、メンゲルベルクが現地のミュージシャンと特別編成のICPオー
   ケストラを組んだときの演奏。
(16)Mario Schiano『Test』(Red, 1977年)
  ※ラストを飾るのは、ビリー・ホリデイのこぶしを思わせる巨匠の歌声。

 片岡文明が担当した本編の音盤紹介は、郷土意識が強く、その土地土地のトラッドを重視することの多いイタリアの即興シーンを、各地域ごとにまとめるのではなく、一本に歴史化できるものとして仮想された(フリージャズを含む)ジャズ史を世代ごとに画すことで整理していた。音盤をかける時間はなかったが、ジャズとイタリアの左翼運動とのダイレクトな関わりにも触れられた。合衆国にボブ・ディランらがいたように、この時期にはイタリアにも大衆歌謡の運動が起こっており、そこでのジャズのふるまい方、あるいはプログレなどとの影響関係も、個人的には気になるところである。いずれもトラッドが深く関わっている。しかしながら、まともに扱えば、このあたりは簡単な紹介ではすみそうにない。そのような声の要素を含み、イタリアのジャズ演奏には、西ヨーロッパの前衛音楽にはない色彩感がある。たとえシチリア島の音楽を扱っていなくても、味わいの深いこの色彩感こそ、イタリアが地中海に突き出した半島であることの証明なのだろう。

 1980年代から現代までのイタリア・フリーをあつかう次回のツアーは、2012年1月の出航になるとのことである。

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■ 吉祥寺サウンド・カフェ・ズミ http://www.dzumi.jp/