2014年3月12日水曜日

おちょこ+木村由@イマココニイルコト


イマココニイルコト
日時: 2014年3月11日(火)
会場: 東京/阿佐ヶ谷「Yellow Vision」
(東京都杉並区阿佐ヶ谷北2-2-2 阿佐谷北2丁目ビルB1)
開場: 7:00p.m.、開演: 7:30p.m.
料金: ¥1,500+drink order
出演: 第一部:愛染恭介(guitar, voice)
第二部:おちょこ(voice)+木村由(dance)
第三部:国分寺エクスペリエンス
おちょこ(voice)、ゆきを(guitar, chorus)
新海高広(el-bass)、清水達生(drums)
ゲスト:森順治(sax)、今井蒼泉(華道家・龍生派)
予約・問合せ: TEL.03-6794-8814(Yellow Vision)


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 今年で結成26年目を迎えるロックバンド国分寺エクスペリエンス(以下「エクペリ」と略称)が中心となり、3.11三周年の日に特別プログラムを組むイヴェント「イマココニイルコト」が、阿佐ヶ谷のイエローヴィジョンで開催された。愛染恭介のギター弾き語りや、ギタリストゆきをとは旧知の仲というサックスの森順治をゲストに迎えたエクペリの演奏があり、その冒頭では、メンバーがインスト演奏するなか、華道家の今井蒼泉(龍生派)が生け花パフォーマンスを披露した。企画段階で、打楽器の長沢哲とダンサーの木村由による「風の行方 砂の囁き」コンビにもライヴへの参加が打診されたが、残念ながら実現にいたらず、そのかわり、即興をするようになって2年というエクペリの歌手おちょこと木村由が初共演する好カードが組まれた。即興セッションということをおいても、ダンスと声の組合わせは、器楽演奏とは違い、声が言葉に関わることなどから、ダンスがイメージや物語性に引きずられやすいこともあり、むずかしいとされている(ようである)。その一方で、菊地びよの最近の公演などに見られるように、みずから声を出しながら、あるいは共演者の声とともに切り開いていく身体は、ダンスにおいても未開拓の領域となっているように思われる。

 (私が見たかぎりでの)木村由の活動に即してみると、小唄という伝統芸能の世界からきた柳家小春との共演、本田ヨシ子/イツロウのコンビとシリーズ化している「絶光OTEMOYAN」でのパフォーマンス、河崎純とのセッション(2013926日、音や金時)で出会った徳久ウィリアムというように、これまでにも(即興)ヴォイスとの共演はいくつかおこなわれている。それらはいずれも、歌と演奏、朗読と演奏のような安定した関係性のなかでのダンスではなく、即興ダンスが声と身体の間にどんな橋を架けられるのかという問いかけを、暗に前提とするようなものだった。とはいえ、木村由のダンスは、ヴォイスだからといって特別なことをするわけではなく、声そのものというより、むしろそうした声を支えている身体のありように対して、あるいは、声が描き出す固有の音楽世界の広がりに対して、踊りをぶつけているように思われる。もちろん声(の表現)は、言葉の要素をおくとしても、器楽演奏以上に身体と直結したサウンドとしてあり、そうであるがゆえに、演奏者にとっても、また聴き手にとっても、客観的に聴くことのできないたくさんの領域を抱えている。この意味では、本田ヨシ子やおちょこが使用しているエフェクター群は、そうした声をいったんに出すことで操作可能なものにする(客観化する)ための装置といえるかもしれない。

 おちょこの即興ヴォイスは、巻上公一であれフィル・ミントンであれ、すでによく知られている演奏スタイルのヴァリエーションとしてあるものではなく、まったくオリジナルに、身体の奥深くにマグマ溜まりのように滞留している大きなエネルギーを解き放つため、深みへ、さらなる深みへと、釣り糸のように声を垂らしていく作業のように思える。その意味では、歌手としてオリジナル曲を歌っているバンド活動とは、まったく異なる声の使い方といえるだろう。木村由との30分弱のパフォーマンスでは、エフェクター類を使用して声を異物化する方向に進み、ギター弾き語りとパワフルなロックというプログラムのなかで、異次元体験とでもいうべき非日常の時間/空間を切り開いてみせた。細長いオレンジ色の仮面をかぶり、最初の立ち位置をほとんど動かず、ひとつところでの立ち座りをくりかえして踊った木村由。かたや、ステージ下手からダンスを凝視しながら、声やサウンドを厳選して演奏したおちょこは、即興のソロ・パフォーマンスだとか、ギターの加藤崇之や、コントラバスのカイドーユタカとのデュオなどでは聴けない身体的な深みから音を引き出していた。金属ボウルを指ではじいて音を出すいつもの演奏も、この晩は、まるで宗教儀式を司る鉦のように響いた。

 立ち位置の移動がないダンスは、いうまでもなく、ステージがせまいという場所の制約を逆手にとったものである。オレンジの仮面をかぶった木村のアブストラクトな動きが、深い身体の井戸から水を汲みあげてくるようなおちょこのヴォイスと、対照的なあらわれをしていたことは事実であるが、木村のトレードマークになっている「ちゃぶ台ダンス」にも見られるように、ダンスの上下動が、結果的に、(身体への)下降の感覚をもたらすという点では、ふたりの出会いが可能にする世界に沿うようなパフォーマンスになっていたといえる。このことは、オレンジの仮面をつけたこと、あるいは、両手で仮面をはさみ、身体を泳ぐようにねじ曲げてムンクの「叫び」を叫んだ印象的な場面以上に、ダンスの骨格を支える大きな要素だったと思う。彼女の即興セッションのなかでは、天井から照らす一本のスポットの下で踊った、チェロの森重靖宗との初共演(2013628日、喫茶茶会記)を思い起こさせるものだった。試みのセッションだったにも関わらず、この日のふたりは、森重と共演したときより、さらに深い場所にまで下降していった。3.11の日がそうさせたのか、おちょこのヴォイスがそうさせたのか、木村の探究がさらに深まったことの証しなのか、はたまた女の決闘がもたらす特別な要素があったのか、いまはよくわからない。活動の継続性のなかで確認していく他はないだろう。



【次回】木村 由(dance)+ おちょこ(voice)  
2014年4月26日(土)日野「Soul K」  
※他に、I GUESS、ジェロニMOND、フィードバックオン、の3組が出演  

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