深谷正子 ダンスの犬 ALL IS FULL:
動体観察 2daysシリーズ[第6回]
■
極私的ダンスシリーズ
深谷正子
『入射角がずれる』その2
日時:2024年10月22日(火)
開場: 6:30p.m.、開演: 7:00p.m.
ゲストダンサーシリーズ
『音と身体』
出演: 山㟁直人(打楽器)
やましん(ソプラノサックス)
冨士栄秀也(ヴォイス)
日時:2024年10月23日(水)
開場: 6:30p.m.、開演: 7:00p.m.
会場: 六本木ストライプハウスギャラリー・スペースD
(東京都港区六本木5-10-33)
料金/各日: ¥3,500、両日: ¥5,000
照明: 玉内公一
音響: サエグサユキオ
舞台監督: 津田犬太郎
会場受付: 玉内集子、曽我類子、友井川由衣
写真提供: 平尾秀明
問合せ: 090-1661-8045
■
過去のワークショップやダンス公演で共演経験のある男性演奏家3人をゲスト・プレイヤーに迎えた「動体観察」の2日目は、主催の深谷正子が、本シリーズの課題として、演奏家である3人に動きやしぐさのタスクを与えて作った“振付”の場面をパフォーマンスをはさんで前半と後半に配置、中間部分で楽器を使った自由な即興セッションが展開するという、両論併記的な「音と身体」の試みがおこなわれた。公演全体の流れもしっかり考えられていて、公演冒頭、ホリゾント前に並んだ3人が歩き出し、とまっては身体の向きを変える動きから、部屋の片隅へと疾走するより大きな動きへ、さらには右肘に左手で触れるしぐさをしたあとクラウチング・スタートのポーズをとる身ぶりを、三者三様にアレンジを加えつつ反復し、最後には上手の桟に寄りかかって動きをいったんとめてから、楽器を手にする場面へと移行する。この動き出しの場面は、そのあと即興演奏に引き継がれる各自のソロとして演出され、3人それぞれが異質な音楽性を発揮する音楽パフォーマンスも、音楽的に相手の領域に踏みこむことなくソロ/ソロ/ソロの並立形式によって演奏──冨士栄が2人の共演者それぞれに接近して身体的に間を取り持つような配慮を見せてはいたが──されていた。
音楽的なクライマックスは、山㟁がゴムでドラムの皮を擦り低音を出しながらステージを回遊していく、そのサウンドに巻きこまれるようにして他の2人がヴォイスでシンクロナイズした瞬間に訪れた。ホリゾント前に立ち並ぶ3人。このときホーメイ的な発声法(モンゴルの伝統的な歌唱法)をとったやましんのヴォイスは、冨士栄のアモフルな声の表出とは別のスタイルだったが、ここで初めて関係性が開かれるという出来事が起こった。音楽の頂点を経てからはじまる後半部分は、この声のシンクロナイズを動きに転写するコンタクトダンスといえるようなもので、3人が相方の背中を取りあって押し倒すゲーム的パフォーマンスが展開していった。ダンス的な訓練を経ていない身体によって踊られるコンタクトダンスは一向にダンス的ではなく、プロレスの取っ組み合いのようだった。予想外のなりゆきに観客席は大きな笑いに包まれた。ふたたびホリゾント前に並んだ3人は、ホリゾント壁をたたいて音を出しはじめ、「アイウエオ、カキクケコ」とくりかえす冨士栄に、ソプラノを離れたやましんも唱和、やがて3人そろって仰向けに横になり、床をずってステージ中央へと出ていくところで暗転となった。出会いのその先は……というわけであろう。全体は身体によって関係を作るという物語に貫かれていた。
タムドラムを一台引きずりながらステージを歩きまわり演奏した山㟁直人は、タムの底についているワイヤーを長く引き出して音を出すなど、あえて広い空間を使うことで共演者の動きとニアミスを起こすという偶然性を狙ったようだった。日頃あまり見ないスタイルでの演奏。身体の動きと演奏が不即不離の関係にあるサウンド・インプロヴィゼーションのプレイヤーだが、トリオがそれぞれに平面的な領域を動いてパフォーマンスした本公演では、存在に訴える持ち前の音楽的な深みは犠牲になり、サウンド・インスタレーションの色合いが前面に出たように思う。ソプラノサックスを演奏したやましんは、様式性を重んじる演奏家のようで、伝統的なフリー・インプロヴィゼーションのよさを体現する正統的な演奏家といえる。共演者の音楽に深く侵入することなく自身の領域を守り、タンギングを多用した短いフレーズによって演奏を構成していた。ヴォイスの冨士栄秀也は、ヴォイス・パフォーマンスのなかでは、ストックされたヴォキャブラリーによって演奏を展開するのではなく、その時々の身体表出を導き出すような声によってパフォーマンスする。生声だけでなくアンプとマイクも使用しながら演奏した本セッションでは、与えられた動きのタスクをアレンジして動いたり、さかんに立ち位置を変えることで状況に変化を呼びこむ展開によって、偉大な振付家の前で借りてきた猫状態にならないような工夫を重ねていた。「音と身体」の異色公演は、こうした3人の異質の音楽性を逆手にとった深谷のアイディアも存分に生かされたトリオ・セッションとなった。■
(北里義之)
動体観察 2daysシリーズ
0 件のコメント:
新しいコメントは書き込めません。