照内央晴+木村 由 DUO
照リ極マレバ木ヨリコボルル vol.2
日時: 2013年5月31日(金)
会場: 東京/荻窪「クレモニアホール」
(東京都杉並区荻窪5-22-7)
開場: 7:30p.m.,開演: 7:45p.m.
料金: ¥2,000
出演: 照内央晴(piano) 木村 由(dance)
会場問合せ: TEL. 03-3392-1077(クレモニアホール)
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通算すると今回が五度目となるピアニスト照内央晴とダンサー木村由の共演のなかで、グランドピアノがある荻窪クレモニアホールを会場にしたデュオ公演「照リ極マレバ木ヨリコボルル」は、じゅうぶんな仕込み時間がとれないながらも、おたがいの持ち味をフルに発揮できる環境のなかで全力をつくすガチンコ勝負に最適という点で、このデュオにとって理想的なものとなっている。昨年暮れにおこなわれた前回の公演では、細長いクレモニアホールを縦に使って、奥の壁前にピアノを設置し、観客席のうしろに立ち見コーナーが作れるくらいの余裕をもって折り畳み椅子が並べられたため、肝心のパフォーマンス空間が、ピアノの周囲に押しこめられたような感じになったのだが、ホールを横に使った今回は、ピアノの前後にスペースが大きく開くことで、自由度がより大きくなっただけでなく、ピアノを大きく取りかこんで半円形に並べられた一列の観客席は、椅子どうしが密集していないところから、ステージと観客席の間に見えない壁を作ってしまう劇場の空間構成を脱して、見るものと見られるものがひとつの場を共有するなかの緊張感を生むことになった。集団性に守られて、別室の暗がりからパフォーマンスをのぞくという一方通行の視線ではなく、観客の身体そのものがさらされることになることからくる緊張感。
演奏家とダンサーが一対一で対するように、パフォーマーと観客も一対一で対するという感覚が生まれたのは、会場を横に使うことで、距離感や皮膚感が変化したからだと思うが、そのことの意味は大きく、前回の公演で前面に出ていた、音楽とダンスがふたつの焦点を作るパフォーマンスの楕円構造を、観客を含め、すべてを身体的な関係に結びなおすことで打ち破ることになったのではないかと思う。比喩としてではなく、この場所では、ピアニストもまたひとりの身体表現者であることを、観客はじゅうぶんに感じ取ることができたように思う。前回の公演では、上手・下手それぞれの床面に置かれた投光器が、ピアノやピアニストの影を壁に投げかけ、強い光のなかに浮かびあがる木村のダンスを、ドイツ表現主義映画から抜け出してきたノスフェラトゥのように見せていたのであるが、今回も、照明コンセプトは前回を踏襲して、下手側の床面に置かれた投光器が、長くのびたピアノの影を壁に投影するものだった。投光器からもっとも遠い上手側の壁を、時間的な出発点(空間的な入口)とし、投光器の光源そのもの、あるいは投光器の前あたりを時間的な到着点(空間的な出口)にするというのは、木村由がもっとも慣れ親しんでいる空間構成である。
共演回数を重ねるにしたがい、相方の顔が見えてきたのだろう、変化はデュオの演奏態度にもあらわれ、この日の公演では、おたがいが積極的にパフォーマンスをしかけていくやり方が成立するようになっていた。木村の衣装は、丈の長い濃紺の冬物ワンピース、白いソックスに黒いパンプスというモノクロームのいでたちに、赤い縁飾りのついたカンカン帽というあざやかなアクセントをつけたものだったが、木村はこの帽子を演奏中の照内にかぶせ、しばらくあとで、今度は照内が木村にかぶせ返すというやりとりをした。これは相方のしていることを邪魔することなくこちらのなにかを引き渡すという、この晩のデュオの身体的な交感を象徴していたと思う。似たようなことは長沢哲=木村由の二度目の即興セッションでも見られたが、こちらのデュオの場合、身体的交感はもっと遊戯的なものに思われる。たとえば、床に這いつくばって手にした帽子を(手裏剣のように)とばす、二度にわたりピアノの下の床をクロスした方向で這う、椅子のうえで伸びをして長押に触る、照内の背後から肩に触れるというような木村のダンスは、これまで見たことのなかったもので、いずれも思い切ったことのできる照内とのデュオならではの遊戯牲の発露というべきものになっていた。
なかでも印象深かったのは、ステージ中央からピアノ下の床を這って壁側に出た木村が、ピアノ椅子と背中あわせにつけられたもうひとつの椅子につかまり、ゆっくりとした動作でピアニストをまわりこむと、演奏中の照内に背後から亡霊のように迫り、右手を伸ばしてその肩に触れるという場面だった。ピアノ椅子の背後に開けた領域は、床に置かれた投光器のさらに外側にあたり、いってみれば楽屋口、階段下のようなもの、もっと直接的には、柳の下にあたる敷居的空間となっており、亡霊的なるものが出現する中間領域なのであった。そこはデュオの初共演の際、やはり照内の背後に椅子が置かれた記憶を喚起する、時間的な過去の領域にもなっていた。そこに亡霊が出現したわけである。照内の肩に触れたあとの木村は、そのままピアノ椅子の端に腰かけ、ピアニストに肩をもたせかけるようにして椅子からずり落ちると、猛烈な勢いでピアノを弾きはじめた照内を残していったんステージ裾に消えていったが、最後に再登場して、パフォーマンスの開始地点にまで戻ると、そこでひと舞いしてこの晩の公演を閉じた。積極的なしかけあいが見られたこの晩のデュオ演奏を、最後の瞬間まで徹底するみごとなクロージングだったと思う。■
※「照リ極マレバ木ヨリコボルル」という公演タイトルは
北原白秋の詩「薔薇二曲」からとられた。
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