2011年11月30日水曜日

ESP(本)応援祭 第十二回

ガイド役の泉秀樹氏とイベント主催者の渡邊未帆氏

ESP(本)応援祭
第12回「ベース&ドラム奏者特集 Part 1」
会場: 吉祥寺「サウンド・カフェ・ズミ」
(東京都武蔵野市御殿山 1-2-3 キヨノビル7F)
開演: 2011年11月26日(土)4:00p.m.~(3時間ほどを予定)
料金: 資料代 500円+ドリンク注文(¥700~)
講師: 泉 秀樹 サポーター: 片岡文明
主催: 渡邊未帆


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 今年になってスタートした吉祥寺ズミのオリジナル連続講座「ESP(本)応援祭」も、10ヶ月の間に12回と、ほぼ毎月のペースで順調に回を重ね、今回ベーシストやドラマーを扱うところまできて、いよいよ大詰めを迎えつつある。2008年いっぱい衛星デジタル放送された全27回のシリーズ番組「Free Musicの旅」(このときのコンビも泉秀樹と渡邊未帆)を、ESPに特化して引き継ぐ形をとりながら、ドン・チェリーという、重要度に比して日本ではあまり評価されることのないミュージシャンの軌跡を、ESPの枠とは別に扱うことで補うなどして、今日の音楽誌ではまったくとりあげられることのない、ジャズの重要な歴史にスポットをあてたシリーズといえるだろう。出来事を可能なかぎり史料的な側面から再構成することに徹し、ニュージャズ/フリージャズの今日的意義というような批評的テーマについては、次の世代を担う聴き手にバトンタッチしたいというのが、講義のなかでくりかえし語られた音盤紹介の趣旨であり、また吉祥寺ズミの存在理由でもある。

 「ESP(本)応援祭」がおもな対象としている1960年代とは、まったく別様のメディア環境におかれ、雑多にも精密にもなりうるような細分化された状態にある私たちのサウンド環境、あるいは聴取環境において、ガイド役の講師が語ろうとしている歴史的記憶は、記憶としての意味を失い、単なる情報へと頽落しているように思われる。時代が悪いといってしまえばそれまでだが、結局のところ、運動は運動のなかでしか遺産相続人を見つけ出すことができないし、現在の日本に、そのための社会的条件が整っているかどうかは、あるともないとも言うことができない。つまり、出来事が起こってみなくてはわからない。これはおそらく、そもそも批評が出せるような種類の回答ではなく、まさしく批評に先行する現実にしか出せない回答なのではないかと思う。

 第12回「ベース&ドラム奏者特集」は、重要なドラマーの紹介だけで時間を使い切り、ベーシストは次回に持ち越された。とりあげられたのは、サニー・マレイ、ミルフォード・グレイヴス、ロジャー “モンテゴ・ジョー” サンダースなど。当日かけられたアルバムは以下の通り。

(1)Gil Evans『Into The Hot』(Impulse, 1961年10月)
  ※セシル・テイラーをフィーチャーした演奏におけるパルス以前のマレイを聴く。
(2)Cecil Taylor『Live at The Café Monmartre』(Dedut, 1962年11月)
(3)Ornette Coleman『Town Hall 1962』(ESP-1006, 1962年12月)
(4)Albert Ayler『Spiritual Unity』(ESP-1002, 1964年7月)
(5)Sunny Murray『Sunny Murray』(ESP-1032, 1966年7月)
(6)Sunny Murray『Sonny's Time Now』(Jihad, 1965年11月)
  ※Jihadはアミリ・バラカの個人レーベル。
(7)Milford Graves『Percussion Ensemble with Sunny Morgan』
                          (ESP-1015, 1965年7月)
(8)Montego Joe『Arriba!』(Prestige, 1964年5月/65年5月)
(9)Miriam Makeba『Makeba Sings!』(RCA, 1965年)
  ※(8)(9)ともにミルフォード・グレイヴス初期のセッションワーク。
(10)Don Pullen & Milford Graves『At Yale U.』(PG, 1966年4月)
(11)Milford Graves/Don Pullen『Nommo』(SRP, 1966年4月)
  ※(10)と同日のイエール大学での演奏。
(12)Albert Ayler『Holy Ghost』(Revenant, 1967年6月-7月)
  ※ニューポート音楽祭でアイラー・グループに参加したグレイヴスの演奏。
(13)Pharoah Sanders『Tauhid』(Impulse, 1966年11月)
(14)Albert Ayler『Stockholm, Berlin 1966』(Hat Hut, 1966年11月)
  ※(13)(14)で日本の印象を記した曲「Japan」の聴きくらべ。
(15)Sonny Sharrock『Black Woman』(Vortex, 1968年10月/69年5月)
  ※グレイヴスが参加したアルバム。
(16)Montego Joe HAR YOU Percussion Group
           『Song From The Ghetto Youth』(ESP-1067, ???年)


 グレイヴス関連とはいえ、いたって陽気でスタイリッシュなモンテゴ・ジョーのラテン・パーカッションを別にすると、ビートからパルスへといわれるリズムの(感じ方の)変化によって、タイムキーブする役割から解放されたミュージシャンたちが、即興演奏そのものをどのように自由にしていったかを、実際の演奏を聴くことで追体験してみるという内容の講義だった。その他にも、トランジション・レーベルを創立したトム・ウィルソンや、北欧スウェーデンのベングト・フィリップ・ノルドシュトロムといったプロデューサーたちの仲介者としての役割、一時期セシル・テイラー・グループでいっしょだったサニー・マレイとアルバート・アイラーの関係などについても触れられた。

 次回の「ベース&ドラム奏者特集 Part 2」は12月23日(金)に開催予定。

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■ 吉祥寺サウンド・カフェ・ズミ http://www.dzumi.jp/