高原朝彦10弦g ソロ
中村秀則12弦g ソロ
日時: 2012年8月31日(金)
会場: 東京/高円寺「グッドマン」
(東京都杉並区高円寺南3-58-17 プラザUSA 201)
開場: 7:00p.m.、開演: 8:00p.m.
料金: ¥1,600+order(¥400~)
出演: 高原朝彦(10string guitar) 野村あゆみ(dance)
中村秀則(12string guitar)
問合せ: TEL.090-9395-3576(高円寺グッドマン)
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10弦ギターによるソロ演奏は、高原朝彦にとって音楽活動のベースになってきたものだが、いまもソロ演奏の拠点となっている高円寺グッドマンでの定例公演を聴いた。五月に開かれた大泉学園インエフでのソロより開放的だったのは、インエフ初出演という事情の他に、やはりここが高原の古巣だからだろう。古くからの盟友である12弦ギターの中村秀則が対バンを務め、(グッドマンにおけるギターソロの定番スタイルになっているという)パートナーでありまたダンサーである野村あゆみが、10分ほどデュオで高原と共演するという贅沢なメニューだった。構成は以下の通り。(1)中村秀則ソロ(休憩)、(2)高原朝彦ソロ(休憩)、(3)中村秀則ソロ(休憩)、(4)高原朝彦&野村あゆみデュオ、(5)高原朝彦ソロ[楽曲を演奏]、(6)高原朝彦&中村秀則デュオ。即興演奏をしながら全身を激しく動かす高原と、ギターを構えたらひとつの姿勢を崩すことのほとんどない中村が、動と静の対照的なパフォーマンスを展開すれば、瞬間瞬間をつかまえて即興的な展開に身をまかせる高原と、狭いグッドマンのスペースに立つだけで存在感を示すことのできる野村の身体的なありようも、すぐれて対照的なものだった。
12弦ギターによる中村秀則のソロは、おもてだって楽曲が弾かれることのない演奏だったが、オリジナルな即興語法をもつというのではなく、演奏者のイメージのなかで、つねになにがしかの楽想が鳴り響いているような演奏だったと思う。特に二回目のソロ演奏では、冒頭で富樫雅彦の「ヴァレンシア」を思わせるスペイン風のメロディーが登場したり、途中でボサノバ風になったりした。楽器につかまっているだけ、手を添えるだけという、心を空にした、迫るところのない中村の演奏によって、12弦ギターならではの夢幻的なサウンドは、演奏の終結点を予想させない、まるで朝夕の山里に霧が立ちこめるような、深々とした奥行きのある世界を響かせた。サウンドに何枚ものヴェールがかかっているような雰囲気は、ECMの世界観にも通じるだろうか。固有の身体の表出、感情解放、瞬間をとらえようとするスピード感など、モダンな美学を一身に背負う即興演奏から距離を置きながら、ひとり大きなストライドでのっしのっしと歩いているようなパフォーマンス。弦に触れるだけの、ミニマルなエレクトロニクス・ノイズや物音も登場するが、無心にたゆたうサウンドは、ノイズ・ミュージックのような明確な方向性をもつことはない。あくまでもギターの器楽性に踏みとどまって、楽器を音響発生装置に変えることはなかった。
10分という短い時間のなかで、ダンスの野村あゆみは、深紅のカーテン前にどっしりと立つということを基本に、上半身や両腕を使ってダイナミックな動きを作り出してみせた。周知の通り、高円寺グッドマンは極小スペースのため、ミュージシャンとダンサーが並び立つだけでステージは満杯になり、場所をとらない音楽演奏ならまだしも、ダンサーがオリジナルに空間構成してみせる余地はほとんどない。ましてこの場で即興パフォーマンスにチャレンジしている野村は、事前の仕込みもせず、客前にどっしりと立つところからどこまでいけるかを、即興的な動きでたしかめているようであった。上半身をのけぞらせ、両手をあげ、片手をあげ、横を向き、身体をひねってみせるなどして、この場所を身体的なるもので飽和させる過程を “演奏” したように思う。かたや静止した彼女の存在からたちのぼってくる気のようなもの、静止する身体を支える巨大なエネルギーが、(奇妙な言い方になるが)身体の静止によってはじめて感じられるダンスとでもいうようなものを幻想させた。場に根が生えたようなありようは、度重なる公演によって、高円寺グッドマンに彼女の身体が住みこむようになったからなのだろう。共演者の高原は、インプロヴァイザーらしく、独立した表現者がこの場所の狭さに慣れ切ってしまうことを心配していたが、現代の身体表現には、<触れる>という根源的な行為を可能にするような環境が必要なのも事実と思う。野村にとってのグッドマンは、木村由のちゃぶ台のようなものといえるかもしれない。
ミニマルに細分されたサウンドで演奏のギリギリまで加速度をあげていき、それでも放出しきれないエネルギーは、激しく動きまわるパフォーマンスや、思わず漏れ出てしまう声となって流れ出ていくという、いたってノイジーなあらわれをするのが高原朝彦のソロ演奏だが、後半のセットでは、十八番になっている「グリーンスリーブス」やオリジナルの「Micro Rain」など、高原のセンチメンタルな部分が前面に出てくる楽曲を演奏したり、野村あゆみとのダンス・セッションでは、偶然出たハウリング音を利用して、エレクトロニクス音楽を思わせるアブストラクトな演奏をしたり、調弦方法の違う10弦ギターと12弦ギターの共演では、静と動の対比がボケとツッコミの関係性に転化したりと、すでに何度も経験しているセットなのだろうが、経験豊かな高原の演奏がもっている多彩な側面を、うまく集約したステージ構成をしていた。それだけではない。高原は楽曲の解説をするMCのなかで、30年というはるかな昔、栃木の山奥で「百姓の真似事」をした経験について語ったのだが、ひとりの演奏家として、彼はこれまでどのような経歴をたどってきたのであろうか。その快活な人柄ともども、人間的な面でも多くの魅力を放つミュージシャンであると思う。■
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