黒田京子: ピアノソロ公開レコーディング
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以下は1991年という大昔の話。湯河原にある大成瓢吉・節子ご夫妻の個人美術館「空中散歩館」は、ご夫妻の作品が常設された、天井の高い、自然の光や鳥の声までが入ってくる開放的な空間だった。美術館は不定期に即興演奏のライヴ会場になっており、しかるべき音楽の縁から、黒田京子単独のデビューアルバムを製作する際、ここでピアノ・ソロを録音することになった。録音エンジニアをいまは亡き川崎克己が担当し、美術館のピアノ調律にあたったのが、このときからピアニストと長い親交を結ぶことになる調律師の辻秀夫だった。あの録音から20年あまり、初心に帰る時期にあることを感じた黒田京子の背中を押して、二枚目のソロ・アルバム録音へと向かわせたのは、ピアノ調律を通して黒田の音楽を熟知している彼だった。調律師という旧来のイメージを超え、ピアノの生き字引というべき楽器に対する豊富な知識と経験は、音楽関係者の間で深く信望され、都内のライヴ会場にある多くのピアノが彼のケアを受けている。
2012年11月1日(木)、辻秀夫のアレンジのもと、江戸川区西小岩にある五階建ての「オルフェウスビル」に入る天井の高いレコーディング・スタジオで、午後から録音が開始された。使用されたのはヤマハのセミ・コンサート・ピアノだが、辻マジックによって、音はまるでヤマハの音ではなくなっている。その日のうちに11曲を録り終えた時点で、夜には20人ほどの観客を入れたスタジオ・コンサートが開かれた。観客のあるなしでどれだけ音が変わるかを試してみようというのである。会場には黒田京子の活動に共鳴する人々が大勢つめかけた。演奏は一時間ほどだったが、企画意図はあたって、ピアノのサウンドはまるで違うものになったとのこと。「Inharmonicity」「ホルトノキ」「向日葵の終わり」「暗闇を抱く君に」「春炎」など、ライヴでおなじみの曲やできたてほやほやの曲が、高い凝縮度で演奏されていった。MCのなかで黒田は、こうしてふりかえってみると、自分は絵画から音楽的なインスピレーションを受けることがとても多いようだと語った。収録後は録音ブースに移動して、粗録りの段階のものではあったが、いま収録された音がどのように再生されるのか聴いてみるという、録音スタジオならではの趣向もあった。リリース時期などの詳細は未定だが、今月中に、この日の録音をふまえたピアノソロのライヴが予定されている。■
【黒田京子ピアノソロ|ライヴ】
2012年11月23日(金)大泉学園インエフ