2012年11月13日火曜日

【CD】新井陽子: night clouds




新井陽子 piano solo
night clouds
kotoriya kobo|no serial number|CD-R
曲目: 1. cloud 1 (11:03)、2. cloud 2 (3:38)、3. cloud 3 (3:46)
4. cloud 4 (5:11)、5. cloud 5 (10:03)、6. cloud 6 (6:36)
演奏: 新井陽子(piano)solo
録音: 2012年9月21日/新宿大京町「喫茶茶会記」でのライヴ演奏



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 新井陽子の最新ピアノソロ演奏集『night clouds』は、前作のソロ演奏集『water mirror』(2009年)が、音の粒だちまでもリアルに聴かせるスタジオ録音だったのにくらべ、201210月におこなわれた欧州ツアーの直前、ピアニストが喫茶茶会記で主催している「焙煎bar ようこ」シリーズのライヴ演奏を再構成したものである。当日のライヴは、第一部と第二部でがらりと構成を変える演奏だったが、本盤にはそのままの順番が収録されたわけではなく、いくつかに切り分けた演奏をモンタージュしなおすことで、アルバム全体の統一をはかっている。最近は、異色セッションで新たな音楽の領域を切り開こうとしている新井陽子だが、ピアノソロの原点に帰って取り組んだひさしぶりのピアノソロで手ごたえをつかんだらしく、近々にソロ・パフォーマンスをシリーズ公演化する予定とのこと。雲を撮影したジャケット写真も新井本人のもので、白を基調にした『water mirror』と明暗の対照性を際立たせながらも、二枚のアルバムを並べてみると、構図的に似通う双子感覚にあふれたものとなっている。

 「水」や「雲」にちなんだタイトルが、無心のままに流れゆく自然界の動きを、「鏡」のようにピアノ演奏に映してみたいという、印象派に通じる感性を表現したものである一方、楽想といった音楽的イメージに寄りかかることのない新井陽子の即興演奏は、身体の、あるいは指の運動性と、音そのものが持っている運動性との間で交わされるフィジカルな対話でもある。後者の意味では、ニュージャズ時代のセシル・テイラーが示し、一般的に「リズムの解放」と呼ばれたようなピアノ革命の原点からダイレクトに水脈が引かれたものでもあるだろう。イメージを迂回して、身体の運動性を楽器に直結させる彼らの演奏は、ピアノという西洋楽器を一種の運動変換装置に読みかえたもの(脱構築したもの)といえるだろうが、そうすることで演奏家の身体は、あれこれの人間的な情念からくる過剰さから身を引き離し、タイトルがいう「水」や「雲」のようなもの、すなわち、あるがままの自然界の動きに連なるものとして提示されることになる。目の前でピアノ演奏する女性を、「水」や「雲」のように感じるのはむずかしいだろうが、おそらくこれは、即興演奏する多くのピアニストにとって、めざすべきひとつの到達点になっているのではないだろうか。



※本盤はライヴ会場で手売りされているCD-Rで、11月13日現在、新井陽子の公式サイトでは通販アイテムにあがっていません。遠距離から購入希望される場合は、下記のサイトにアクセスされ、詳細をメールでお問いあわせください。


  【関連記事|新井陽子】
   「焙煎bar ようこ vol.4: piano soltude」(2012-09-15)
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