2012年11月23日金曜日

KENDRAKA来日公演2012



KENDRAKA
feat.MIYA and BENEDICT
日時: 2012年11月21日(水)
会場: 東京/新宿「喫茶茶会記」
(東京都新宿区大京町2-4 1F)
開場: 7:00p.m.、開演: 7:30p.m.
料金/前売: ¥2,500、当日: ¥3,000、学生: ¥2,000(飲物付)
出演: KENDRAKA: バンピィ Mainak Nag Chowdhury(5 string bass)
ニシャド Nishad Pandey(guitar) ガブ Gaurab Chatterjee(ds, perc)
Miya(flute) ベネディクト・テイラー(viola)
予約・問合せ: TEL.03-3351-7904(喫茶茶会記)



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 フルート奏者の Miya と、彼女が英国留学中にロンドン・インプロヴァイザーズ・オーケストラで知りあったヴィオラ奏者ベネディクト・テイラーがゲスト参加するインド音楽のトリオ “KENDRAKA” の日本ツアーがスタートした。三つの日本公演は、インドのレーベル “Rooh Music” から、来年一月に DVD でリリース予定のドキュメンタリー映画『Root Map』の撮影と製作を目的に、三週間にわたっておこなわれるインド~マレーシア~日本ツアーの一環で、インターナショナルに開かれつつあるアジアの新しいネットワークを、音楽交流の現場を通じて記録するものになりそうである。プレイヤーたちのプラットホームをめざすTIO(Tokyo Improvisers Orchestra)との関係は、自由な即興演奏による国際的なネットワークという点にポイントがあり、欧米対日本という二項対立図式のなかに押しこめられがちな私たちにとって、多様性を生み出すアジア内部での音楽ネットワーキングは、これからますます重要になっていくように思われる。KENDRAKA の滞在期間中に、東京外国語大学でTIOのデモンストレーションを兼ねたワークショップが開催されるが、これにメンバーが参加するのも、音楽の潮目を大きく変えていこうとする試みと受け取ることができる。

 喫茶茶会記で開催された初日の公演では、フリースタイルの即興セッションを最後におこなうという趣向があった。インドのコルカタ(カルカッタ)を拠点に活動し、伝統音楽のラーガや変拍子によって演奏する KENDRAKA のメンバーにとって、これは自分たちのスタイルの外に出て即興することを意味する。伝統の枠組みをはずし、いつもとは攻守をかえた演奏を試みてみようというわけである。これはモダン・トラディショナルの境界線の(さらなる)引きなおしといえるだろうか。そうしたねらいを秘めたコンサートの構成は、第一部:Miya+テイラー、第二部:KENDRAKA、第三部:KENDRAKA+Miya+テイラーと三部に分けられた。第二部のトリオ演奏は、「即興」といっても、彼らになじみのあるインド伝統音楽の枠内でのパフォーマンスとなり、タンブーラ奏者のかわりに、通奏低音(ドローン)を出すエレクトロニクス・ボックスが使われた。リーダーのバンピィ(通称)が Miya の通訳で MC をしている間も、このボックスはドローンをずっと出しつづけていた。「インド音楽はひとつの中心音のまわりに構築される」のだという。インド音楽特有のコブシもいれた五弦ベースのファットなサウンドでソロをとるのは、作曲者でもあるバンピィで、曲のテーマやリフを担当するギターのニシャドは、与えられた短いソロパートで、ジャズ的なフレーズを奏でた。すべてがリーダーの采配による演奏は、ワンマンバンドといっていいのだろう。フレージングもバンピィのほうがはるかに多彩で、場面の構築力があるところから、最後の即興セッションも、Miya、テイラー、バンピィを中心に進むことになったと思う。

 第一部で演奏した Miya とベネディクト・テイラーのデュオは、聴こえるか聴こえないかというくらいの微弱音を出すところからスタート、気息音だけの響きや、サイン波のように聴こえる高音を出すなどして細かなノイズをつなげていった Miya に対して、テイラーは弦をはじき、弓でそっと触れ、さらには演奏が単調にならないようにポルタメントで細かいこぶしを作りながら、演奏の速度を落とすことなく、次第に音数や音量をあげていった。辛抱して前半をノイズ・サウンドだけでキープした Miya が、テイラーの加速度に拮抗するような急速調のフレーズに移行すると、演奏は一気にヒートアップする。クライマックスのあとで音が鎮静しても、一度沸騰点に達したスピードは落ちることなく、これが音楽を支える若々しさというものなのだろう、デュオは音だけでなく、全身をぶつけるようにして激しく動かしながら、何度もダイナミックな動きに没入していく。真っ白に燃焼する二本のラインがからまりあい、全速力で光跡を描いていく演奏は、それ自身のバイオリズムをもって脈動し、楽しげな対話を交わしながら疾走していくのであった。テイラーの演奏は、多彩なサウンドパレットを縦横無尽にくりだすものであり、次から次へととどまるところがない。英国ということでは、サウンド万華鏡をくりひろげるサックスのジョン・ブッチャーと同時代を生きる弦楽奏者であることを感じさせた。

 クインテットによる即興演奏は、一般的に、演奏者の数が多くて混沌を招き寄せるリスクが高いものとされているが、ここではさらに、文化的な背景の違いや即興演奏の習熟度が加わって、ジャズによくある無礼講のセッションというより、むずかしい応用問題を解くような感じになったと思う。即興する衝動を自身の内側に持つ Miya やテイラーのフリー・インプロヴィゼーションと、インド音楽をベースにした即興演奏、すなわち、自分の外側にある流れにチューニングしていく KENDRAKA のアドリブ演奏が合体したところには、即興演奏の歴史でいうなら、フリージャズからフリー・インプロヴィゼーションに移行していく時期にあらわれたことが回帰していたと思う。というのも、セッションの前半は、複数のソリストに残りのメンバーが合わせていく演奏となり、後半は、ドローンのようなニシャドのリフに乗って、複数のソロが展開する演奏になったからである。後半の演奏では、ゆったりとたゆたうリズムと、そのはるか上空を高速度で飛んでいくソロの対比があざやかであった。アンコールでは、クインテット編成で KENDRAKA の楽曲が短く演奏されたが、これを聴くと、セッションの後半は、その場で組み立てられた楽曲(「新曲」というべきだろうか。Instant Composition)に乗っての演奏だったかもしれない。こうした即興セッションをツアーの冒頭に置いた Miya の意気と冒険心やよしである。





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