meadow - JAPAN TOUR 2012
at Star Pine's Cafe Tokyo
日時: 2012年11月9日(金)
会場: 東京/吉祥寺「スター・パインズ・カフェ」
(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-20-16-B1)
開場: 6:00p.m.、開演: 7:00p.m.
料金/前売: ¥5,000+order、当日: ¥5,500+order
学割: ¥3,600+order
出演: meadow: ジョン・テイラー(piano)
トーレ・ブルンボルグ(alto sax) トーマス・ストレーネン(drums)
opening duo: 巻上公一(voice) 佐藤芳明(accordion)
予約・問合せ: TEL.0422-23-2251(Star Pine's Cafe)
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ここ数年、ノルウェーの打楽器奏者トーマス・ストレーネンとヴォイスの巻上公一の親交をベースに、草の根の音楽交流が続けられている。これまでにキーボードのストーレ・ストーレッケンと組んだ北欧デュオ “ハムクラッシュ Humcrush”(2009年、 2010年)や、トランペットのニルス・ペッター・モルヴェルをフィーチャーしたサックス奏者イアン・バラミーとのユニット “FOOD”(2012年)の来日公演などを実現している。ノルウェー・コネクションの第三弾は、1970年代にノーマ・ウィンストンやケニー・ホイーラーと結成した “アジムス Azimuth” の活動などで広く知られる英国のピアノ奏者ジョン・テイラー(今年70歳になるとのこと)と、ノルウェーのサックス奏者トーレ・ブルンボルグからなるユニット “メドウ meadow” の来日公演である。ストレーネンのユニットには、ベースのかわりにサックスが入るという特徴があり、それがなおいっそう彼のドラミングを自由なものにすると同時に、サックスを叫び声やノイズ発生装置として使うのではなく、丹精に練りあげられたメロディに乗って彼方からやってくる声の通路にすることで、私たちの記憶の底に堆積しているとても古い感情を触発しようとしている。感傷的で、哀愁を漂わせるメロディには、たしかに人の気持ちを癒す効果もあるだろうが、トリオの音楽は、そうした通俗性に染まったものではない。むしろ換骨奪胎されたケルト音楽のようなものとして感じられる。
そうしたストレーネンが、北欧的なクールネスと親密な声の空間を共存させる “アジムス” を率いていたジョン・テイラーに白羽の矢を立てたのは、ごく自然のなりゆきだったろう。この音楽空間の親密さについて、ツアーの幕開けとなった吉祥寺スター・パインズ・カフェの公演では、マイクを立てない完全アコースティックの環境が準備され、ドラム・セッティングをできるだけピアノに接近させ、トリオがおたがいの演奏を注意深く聴きあい、ダイレクトな身体的応答を返すことのできるサークルをステージ上に作りあげていた。今年の春に来日した “FOOD” が、エレクトロニクスの層を何枚も重ねていたのと真逆のありようは、ことのほか印象的だった。意識的に選択されたアコースティックな環境のなかで、メンバーを接近させて演奏をおこなうというスタイルは、ジョン・ゾーンや大友良英も試みていたものだ。これは親密さであるとか、盟約によって結ばれた結社的な関係の演出でもあると思うが、より実践的には、どんな音楽に対しても機械的にマイクを立てるような習慣から離れてみることが重要なのだと思われる。というのも、そのことで演奏者も聴き手も、自動化されていた耳のありようから、いったん引き離されるからである。そのような親密圏を確保したうえで、ストレーネンのドラミングは、ときに菜箸のように細いスティックを使って、打楽器類をなでるようにたたき、パチパチと爆ぜる火の粉のように小さなサウンドを張りめぐらせていく。
ジャズ・ビジネスの王道であるピアノ・トリオのスタイルを踏襲するようでいながら、“メドウ” がしていることは、むしろその逆に、ピアノ・トリオを再定義してみせるようなことではないかと思われる。ジャズの約束事をなにひとつ動かさないようでいながら、すべてのものの置かれている位置を(それとわからないように)少しずつずらしていくといった音楽戦略は、ストレーネンならではのミクロ政治学がなせる業であろう。縫い目のない天女の羽衣を編みあげていくような繊細な演奏は、フォービートのような定型化されたリズム構造に寄りかかった演奏からではなく、サウンドとサウンドを注意深く触れあわせていくような、至近距離においてとらえられた音像によってもたらされている。そのためサウンドのアンサンブルは空間性に富んだものとなり、リズム的には、いわばあちこちが穴だらけのものとなっている。音楽形式や音の形ではなく、感覚そのものをデザインするという、インプロヴィゼーションの世界で起こっている大きな変化が、一般的な聴きやすさを持った “メドウ” の演奏にもおなじように刻印されているところに、彼らのジャズ演奏の現代性があるのではないだろうか。■
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