2024年6月23日日曜日

深谷正子: 動体観察 2daysシリーズ[第2回]極私的ダンス『エゴという名の表出』


深谷正子 ダンスの犬 ALL IS FULL: 

動体観察 2daysシリーズ[第2回]

極私的ダンスシリーズ

深谷正子『エゴという名の表出』

日時:2024年6月22日(土)

開場: 3:30p.m.、開演: 4:00p.m.


ゲストダンサーシリーズ

深谷正子(作・演出)『月の下の因数分解』

出演: 梅澤妃美、三浦宏予、秦真紀子

日時:2024年6月23日(日)

開場: 3:30p.m.、開演: 4:00p.m.


会場: 六本木ストライプハウスギャラリー・スペースD

(東京都港区六本木5-10-33)

料金/各日: ¥3,500、両日: ¥5,000

照明: 玉内公一

音響: サエグサユキオ

舞台監督: 津田犬太郎

会場受付: 玉内集子、曽我類子、友井川由衣

写真提供: 平尾秀明

問合せ: 090-1661-8045


 2023年11月から2024年4月にかけての半年間、毎月22日に八丁堀「七針」でマンスリー公演されていた深谷正子ソロ「カサブタ」シリーズを受けてスタートした本シリーズは、長らく深谷公演を支えてきて気心の知れたスタッフ陣を引き継ぎながら、新たに2デイズ公演の体裁をとり、第1日目には引きつづき深谷の極私的ダンスを、2日目には若い人との交流のなかから選ばれた他者の身体に「ソロダンス」を振付けるという構成で12月まで継続していく企画である。将来的には群舞も視野に入っているだろうか、いずれも深谷にとってはライフワークというべきクリエーション・スタイルだ。

 八丁堀から六本木へ、七針からスペースDへの移行は、極小スペースにおいて観客が観客でいられなくなる身体感覚への巻きこみを条件にしていた「極私的ダンス」にとって大きな条件の変化となる。ストライプハウスの各スペースは、螺旋状にとぐろを巻いた階段によってつながれているのだが、階下の踊り場に受付を設置、いったん下の部屋に入ってからもうひとつ別の内階段であがっていくスペースDは、部屋の内装が焼け焦げたように真っ黒だったり、正面ホリゾントにある窓が塞がれて暗転中に光が漏れていたりするところから屋根裏の印象が強い造作で、それは実際そうなのだと思われる。七針のステージと比較すると2倍の広さはあり、じっと立っているだけで空間に身体が満ちてくる七針からすると、視線が自動的に身体細部をフォーカスしてくれるということにはならない。言い方を変えるなら、身体感覚だけで出来事を起こすというより、そこにある種の虚構が必要になっているということだと思う。もしかすると他者の身体にソロを振付けるというアイディアは、スペースDの存在あっての発想なのかもしれない。

 スペースD版「極私的ダンス」の第二弾は『エゴという名の表出』とタイトルされた。当パン掲載の深谷のテクストには「一人で生きるポジションから、二人で生きるを選択、そして4人で生きるを選択、子供との生活。しかしいつも自己の強いエゴで、踊り続けてきた。このエゴこそ消せない自分の生きている確認作業の基である。」とある。ほとんど口癖のようにして出てくる深谷の表現者の業という自己認識こそが、彼女の踊る理由である。そこには強い自己批評がある。

 『エゴという名の表出』を支えたのは、たくさんのビニール袋に入れたレモングラスの葉を腹に抱え、妊婦のようにして歩きまわり踊るという演出であった。異様に腹の突き出たデコボコした身体の形は、かつて七針で公演された『垂直思考 Ba Ba Bi』(2014年)で腹にトマトを抱えたときのイメージと連結するものだ。さらに腹のなかの生命体は、妊娠9ヶ月でステージを務めた実娘の玉内集子(2015年4月、明大前キッドアイラックアートホール)と「表現者の業」でよりダイレクトに連結されている。庭に生えていたというレモングラスの葉は、踊り手が公演の後半で次々にビニール袋を破り、あたりに散らばしていくとともにレモンに似た強烈な匂いで観客を包んでいった。会場に散乱していた椅子の一脚にレモングラスを配する行為は生け花そのものだったが、それ以前に、自然育成している草花を摘んでアート化する感覚は彼女の生活習慣としてあり、わざわざそのようにことわらなくても日常とステージは地続きになっている。ステージに身体をたたきつけるようにして起こる痛みやぬめりの感覚、そうした荒治療で観客の身体感覚を目覚めさせ出来事に巻きこんでいくという深谷の「極私的ダンス」における強烈さは、本公演ではレモングラスの匂いに置き換えられ、料理にも通じるより家庭的なイメージに落ち着いた。最後の葉を左手につかんだままポーズすると、突き出した手が震えるという場面のあと、ステージ中央に照明用に立てられた2本のポールの片方を持って足を絡めたところでは、まさか深谷のポールダンスが!と期待されたが、もちろんそんな面白いことが起こることはなかった。思うにこれは他者へのソロの振付とあわせ2日間のセットで観るべきプロジェクトになっているのかもしれない。あらためて考えてみたい。(北里義之)



深谷正子 ダンスの犬 ALL IS FULL: 

動体観察 2daysシリーズ