長沢 哲+木村 由+須郷史人
2 drums and a dance
日時: 2013年7月27日(土)
会場: 東京/岩本町「ギャラリーサージ」
(東京都千代田区岩本町2-7-13 渡辺ビル1F)
開場: 5:30p.m.、開演: 6:00p.m.
料金: ¥2,000(終演後に同会場にて参加自由の交流会)
出演: 長沢 哲(drums) 須郷史人(drums)
木村 由(dance)
予約・問合せ: TEL.03-3303-7256(蟲/太田)
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神田岩本町にあるオフィス街の一角に居を構えるギャラリーサージは、路地裏に面した壁の全面がガラス張りになった20畳ほどのスペースである。一般の音楽ファンには馴染みの薄い場所だろうが、ダンサーの木村由にとって、2011年の春、tamatoy project(秦真紀子、吉本裕美子)が企画したイヴェント「Irreversible Chance Meeting」でチェロの入間川正美と出会い、即興演奏家との共演に深く入りこむきっかけとなった連続公演「不機嫌な二人」をおこなった因縁の場所である。都会のオフィス街の一角、人通りや自動車の往来もある路地裏と地続きになっているので、公演中には、ガラス越しに見え聴こえするパフォーマンスに通行人が人だかりをつくる。この開放的な空間で、シリーズ公演「Fragments」でドラム競演(4月21日)した長沢哲と須郷史人が、ダンスの木村由とあいまみえるトリオ・セッションがおこなわれた。木村由の公演歴に即してみると、トリオの即興セッションは、本田ヨシ子/イツロウのコンビと共演する「絶光 OTEMOYAN」シリーズや、阿佐ヶ谷イエロービジョンで「音舞奏踊地点」(2月8日)を開催したおり、照内央晴+石原謙+木村由、本田ヨシ子+長沢哲+木村由という2組のセットで演奏したのにつづき、これが5本目ということになる。
本田ヨシ子/イツロウのコンビによる安定感のある演奏のなかに、しずしずと足を踏み入れていく「絶光 OTEMOYAN」、イエロービジョンのステージが狭いため、ダンスのための動線が確保できないなかでおこなわれた「音舞奏踊地点」と、それぞれの条件を引き受けながらおこなわれた公演に対し、演奏者の影を壁に投影するという、木村ならではの照明プランを全面的に採用したギャラリーサージ公演は、<デュオ+デュオ+デュオ>という明快な論理構造を持っていた。ギャラリーの出入口となるガラス扉前から引かれた対角線をダンスの動線とし、この対角線の両面をなす壁前にふたりのドラマーを配し、下手の長沢哲には下手側の足もとから、上手の須郷史人には上手側の足もとからライトをあて、長くのびた影を壁に投影しながら中央部分でクロスさせる。もう一本、対角線上を動くダンサーを正面から照らし出すライトが、やや下向きかげんで床置きされ、ダンスの開始点(対角線奥のコーナー)と終着点(対角線上にあるライト前)を光の波動で連結する。さらに、それぞれの光は乱反射して、中央で重なりあう複数の影とは別に、濃く薄く、別々の方角からかたどられた演奏家やダンサーの三種類の影を壁面に投影して、錯綜した文様を描き出す。こうした影のダンスを、デュオ構造をはみだすものの暗示と受けとってもいいだろう。
逆にいえば、「2 drums and a dance」というタイトルがそれとなく告げるように、本公演におけるトリオ演奏は、余白の部分(タイトルでは「and」の部分)におかれたといえる。「影」や「余白」という言葉であらわされる空間感覚は、木村の表現の重要な質感をなしており、とりあえずダンスの専有事項と思われるものであるが、そればかりでなく、このトリオ演奏のありようそのものをも大きく規定することになったと思う。たとえば、ここでフリー・インプロヴィゼーションの<ソロ+ソロ+ソロ>形式を採用することも可能だったろう。もしそうしたならば、演奏内容はまったく違ったものになったはずだが、それはそうならなかった。個々のパフォーマンスを越えたところにあるもの、複数のデュオ演奏が重なり、ずれをみせるときに垣間見える境界的な場所からやってくる気配のようなものに、パフォーマンスが収斂していく。これが木村の世界を「亡霊的」と呼ぶ理由である。<即興演奏+即興ダンス>という明快なテーマは、デュオからトリオになることで一挙に複雑化するが、「2 drums and a dance」公演では、この木村美学が複雑さの度合いをさらに増していたように思われる。
墨絵の世界をサウンドの濃淡で描きだす長沢哲のドラミングは、木村の亡霊感覚にこたえる奥行きそのものとして出現するが、須郷史人のドラミングは、人を踊らせるためのリズムと即物的な音色から構成されるもので、ある平面をどこまでも滑走していくように演奏される。伸縮自在の気配のような長沢のドラミングに対して、須郷の演奏を、ドラムマシーンの自動車に乗って移動していくようなものといったらいいだろうか。もっとわかりやすくいうなら、須郷の即興演奏は、オーソドックスなドラム演奏の感覚を保ったままでおこなわれる。質の違うふたりのドラマーに挟撃され、対角線のラインを前後しながらダンスを展開していく木村由は、ゆっくりとした細かな動きの積み重ねと、ダイナミックに素早く動くシークエンスを交互にくり出しながら、ふたりのドラマーによってつくられるサウンドの谷間を綱渡りしていく感じでパフォーマンスしていた。ふたつのデュオの間を架橋しようとしたのは、メンバーのふたりとそれぞれに共演経験があり、セッションのなかで奥行きのある演奏とない演奏を自在に往還することのできた長沢だったのではないだろうか。こうしたなりゆきは、須郷と木村が、デュオ演奏によっておたがいのありようを詰めていない段階で共演したことからくる必然的な結果だったように思う。■
【関連記事|絶光 OTEMOYAN|音舞奏踊地点】
「絶光 OTEMOYAN」(2013-01-19)
「音舞奏踊地点@阿佐ヶ谷イエロービジョン」(2013-02-09)
【公演動画】
「2 drums and a dance / Tetsu Nagasawa + Yu Kimura + Fumito Sugo」
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