2011年10月11日火曜日

ペーター・ブロッツマン・トリオ 2010(1)

Heavyweights  |  左から、佐藤允彦、森山威男、ブロッツマン


Peter Brötzmann 2 Days: Super Trios
Heavyweights
日時: 2010年12月22日(月)
会場: 東京/新宿「ピットイン」
(東京都新宿区新宿2-12-4 アコード新宿 B1F)
開場:7:30p.m.開演:8:00p.m.
料金/前売: ¥4,000、当日¥4,500(飲物付)
出演: ペーター・ブロッツマン(sax, cl)
佐藤允彦(p) 森山威男(ds)
予約・問合せ: TEL.03-3354-2024(新宿ピットイン)


♬♬♬



 新宿ピットインで開かれたペーター・ブロッツマン・ツー・デイズ公演は、二年前に初共演を果たした佐藤允彦と森山威男からなるトリオ “ヘヴィーウェイツ” と、灰野敬二とジム・オルークという、対照的なふたりのパフォーマーを迎えた実験的トリオによる、性格の異なるふたつのスーパー・トリオを聴かせるプログラムだった。このところ毎年やってくる台風のように来日公演が定期化し、当初セッション的だったプログラムの組み方も、より繊細な音作りへとむかう体勢が整ったのか、次第にグループ指向へと性格が移り変わっているように思われる。

 “ヘヴィーウェイツ” トリオは、重量級のフリージャズ、横綱級のフリージャズといったニュアンスで、がっぷり四つに組んだ横綱の三者が、前後半を通してよどみなく変化しつづける高度なインプロヴィゼーション・ミュージックを展開するというもの。日本人の耳は、共演者の演奏のとても細かい部分を聴いており、しかも自己主張よりアンサンブルを重視するので、ブロッツマンの演奏のちょっとした変化にも即座に反応し、そこからまったく新たな展開を作りあげていく。

 佐藤允彦、森山威男ともにそうしたことができる演奏家なので、トリオ・ミュージックは、ものすごく速くなったり遅くなったり、広々としたりぎゅっと締まったり、自由奔放に姿を変えていく生きもののようであった。原色のサウンドが、最後まで一貫して流れつづけるといったフリージャズの骨太なイメージを確保しながら、対話は自由奔放、サウンドのエネルギーを一滴も損なうことなく、すべての音楽的な衝動を解放しつくすといった名演奏が生まれた。演奏していたブロッツマンは、さぞや楽しかったのではないかと思われる。

 なかでもユニークだったのは、メンバー紹介のとき、大向こうから、待ってましたとばかりに、「森山っ!」と歌舞伎ふうの声がかかる森山威男の、大衆演劇的な愛され方だった。この晩の主役だったブロッツマンとくらべても遜色のない熱気が、客席からいっきに押し寄せる。まるでそれにこたえるかのように、ステージ上の森山威男は、演奏の勘所がやってくると、観客席にむかって、まるで歌舞伎の大見得を切るような派手なドラミングをしてみせる。こんなドラミングをする演奏家は、世界広しといえどもどこにもいないだろう。共演者に対しすべきことをすべてした後で、観客席に対しておこなうスペシャル・サービスのようなもの。自分たちの気持ちに、こんなふうに酬いてくれるステージ上のミュージシャンに、人々は声援を送らないではいられない。

 ここにどこまでもクールで、理知的な佐藤允彦がいることが、このトリオならではの絶妙なバランス感覚を生みだしていた。ブロッツマンと森山のインタープレイを真正面から受けとめながら、クラスターというよりアブストラクトなコードを使って音の流れの間を漂うような演奏し、ブロッツマンとソロを交換したかと思うと、さらにそこにどんなヴァリエーションを加えていけばいいかを瞬時に判断していくといった演奏。

 この晩にかぎっていえば、ステージと観客席の一体感は、森山威男の存在に負うところが大きいだろう。つまり、それはたぶんに山下洋輔トリオ的なフリージャズになっていたことを意味するのだが、場面によってブロッツマンと佐藤の演奏が前面に出るとき、そこにはまったく異なった風景がくりひろげられていく。そうしたトリオのオリジナリティーに配慮してか、森山はうまく出入りを調節していた。この意味でも、横綱三人がステージにのぼるヘヴィーウェイツは、真のスーパー・トリオと言えるのではないだろうか。



[初出:mixi 2010-11-26「ペーター・ブロッツマン・トリオ(1)」]

-------------------------------------------------------------------------------

直前のお知らせとなりましたが、今年も、イディオレクト(マーク・ラパポート)主催で、恒例のペーター・ブロッツマン来日が実現、13日(木)から日本ツアーがスタートします。生誕70周年という記念の年に、おなじみのポール・ニルセン・ラヴ、これが初来日という長い活動歴をもつチェロ奏者のフレッド・ロンバーグ・ホルムらによるトリオ編成で、横浜、東京、千葉などで公演をもちます。日本サイドのゲストも、灰野敬二、大友良英、八木美知依、本田珠也、ジム・オルーク、坂田明、佐藤允彦といったおなじみの面々。関連企画として、公園通りクラシックスでは、ジム・オルークとロンバーグ・ホルムのデュオ公演も開催されます。(チラシ画像をクリックすると大きなバージョンで印刷情報が読み取れます)

-------------------------------------------------------------------------------