2011年10月22日土曜日

日本⇔トルコ:わたりゆく音2


Sound Migration
<日本⇔トルコ:わたりゆく音>
日時: 2011年2月14日(月)
会場: 神奈川/横浜「神奈川県民ホール・小ホール」
(神奈川県横浜市中区下山町3-1)
開場: 7:00p.m.,開演:7:30p.m.
料金/前売: ¥2,500、当日: ¥3,000(全席自由)
出演: 国広和毅(vo, g, ds) サーデト・テュルキョズ(vo)
シェヴケト・アクンジュ(g) 河崎純(b)
美加理(dance)
問合せ: 神奈川県民ホール TEL.045-662-5901


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 以下で、12のシーンを順に追って記述していくことにしよう。

 国広和毅とテュルキョズがステージ前面に出て歌のかけあいをしながら、ステージでこれから起こることを語るシーン1<わたりゆく音: Sound Migration>と、河崎純が国広と交替してテュルキョズの歌とかけあいしたシーン2<結婚しない?: Want to get married?>は、ともに「Sound Migration」の前口上にあたり、作品への導入部となるような役割を果たしていた。これ以後も、歌のかけあいは、歌垣のように交互におこなわれるのではなく、ふたつ同時におこなわれた。私の場合、日本語しか理解できないために、テュルキョズの歌う異邦の歌が国広の歌とぶつかって聴こえてくることはないが、両方の言葉を理解する聴き手には、いったいどう響いたのだろうか。

 次のシーン3<からだがないから歌えない: I can't sing without a body>は、美加理をのぞく4人が定位置についてのオーバーチュア的な演奏。ステージ奥に着座したときのならびは、下手から上手にむかって、河崎純、テュルキョズ、国広和毅、アクンジュの順だが、大抵は広くスペースの開けられたステージ前方にまで出てきて立ったり、そこに椅子を置いてすわったりして、客席近くでのパフォーマンスがおこなわれた。会場の非常灯が消され、暗転すると、場内は漆黒の闇になった。これらはすべて、聴き手も、演者たちとおなじように、身体をフルに活用すべしとの、暗黙の要求であったように感じられた。

 バスドラとタムをならべて水平に置くという、レ・カン・ニンを連想させる風変わりなセッティングのドラムセットをたたきながら歌う国広をフィーチャーしたシーン4<コンピューターワーカーズ: Computer workers>には、アクンジュがギターを添えた。これと対照的に、ステージ前方でひざまずくテュルキョズが、彼女自身の「移動」を私語りするシーン5<移動する: Movement>では、最初、ひざまずくテュルキョズの前に仁王立ちした河崎が、歌手の前から横へ、横から後へと実際に楽器を移動させながらインプロヴァイズした。

私の両親は、東トルキスタンから歩いて険しい山脈を越え、パキスタンに逃れ、15年をかけてトルコに移動してきたの。カザフは「放浪の民」という意味なのよ。 
(サーデト・テュルキョズ)  

 ふたりの歌手の歌は対照的なもので、テュルキョズの歌が、移動する身体の歴史を刻んだ濃厚なものであるとしたら、国広の歌は、言葉の意味が限りなく無化していくところに越境性が生じるような演劇的アプローチをとっていた。シーン5のあと、歌は再度国広に戻り、シーン6<俺→ワシ: I → Eagle>では、アクンジュと河崎が演奏を添えた。歌はブルース調のものだったが、国広の声は、人生の荒波にもまれて思わず出たうめき声というような、生活臭をあふれさせたものではなかった。誰に近い声質かといえば、もう少し声が高く女性的ではあるのだが、奄美の島唄から出発した中孝介あたりを連想させられる。シーン6の後半にはテュルキョズも参加して、ツーヴォイスとなった。

 シーン7<大人が子供の真似をしてみる: Adults imitate children>は、長いワンステージの舞台をふたつに割る幕間的パフォーマンスで、舞台前方に楽器をもって座った河崎純の周囲にパフォーマーが集まり、そろってオモチャで遊ぶような「子供の真似をしてみる」場面。ノイズ的演奏といえるだろうか。テュルキョズは遊ぶ子供たちの背後で歌い、ここで初めて登場した美加理は、男たちの顔をふいて母親的な役所をこなしていた。

 つづくシーン8<土: Soil>は、子供たちの背後から舞台前面の椅子に移動したテュルキョズと、静かにステージに立った美加理による女ふたりのパフォーマンス。国広のテクストをテュルキョズが歌う。「どう歌うかは私にもわからない」という歌は、即興的なものであったらしい。純白のチマチョゴリといった感じの衣装を着用した美加理は、右手に錫杖のような棒をもち、両手を水平にひろげて、旋回舞踊のようにゆっくりと回転した。能楽を思わせる美加理の動きの静かさは、純白の衣装ともども、舞台に強いアクセントをいれるように印象的に輝いていた。

 テュルキョズが去った舞台前面の椅子に、ギターをかかえた国広が交替ですわり、弾き語りをはじめるシーン9<石: Stone>では、背後の定位置に立った河崎が、静かなアルコ・サウンドを奏でていた。ゆっくりとした動きのテンポを崩さない美加理が、シーン9が進行するなかで静かに退場すると、かわってアクンジュのギターが入ってくる。国広の歌を間にはさみ、シーン10<触媒: Catalysts>で展開される河崎とアクンジュの即興演奏の準備が、それとなくはじまっている。






※写真は(1)公演が終了したあとで撮影した県民小ホールのロビーの様子。(2)格子状になったガラスからのぞく吹き抜けのエントランスホールの天井部分を、正面玄関の外に立って見あげたところ。(3)県民ホールの広場に立つ街灯にくくりつけられた「第18回神奈川国際芸術フェスティバル」の幟。



[初出:mixi 2011-02-16「Sound Migration2」]

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Sound Migration http://www.parc-jc.org/j/2010/sm/