2011年10月18日火曜日

BrötzFest 2011(1)


BrötzFest 2011
ペーター・ブロッツマン生誕70周年記念
日時: 2011年10月14日(金)~16日(日)
会場: 東京/新宿「ピットイン」
(東京都新宿区新宿2-12-4 アコード新宿 B1F)
開場: 7:30p.m.,開演: 8:00p.m.
料金/前売: ¥4,500、当日¥5,000(飲物付)
出演: ペーター・ブロッツマン(sax, cl)
フレッド・ロンバーグ・ホルム(cello, g)ポール・ニルセン・ラヴ(ds)
14日: 灰野敬二(g, vo) 大友良英(g)
15日: ジム・オルーク(g) 八木美知依(21絃箏, 17絃箏)
16日: 坂田明(sax, cl) 佐藤允彦(p) 
予約・問合せ: TEL.03-3354-2024(新宿ピットイン)


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 ペーター・ブロッツマン生誕70周年を記念しての日本ツアーは、ツアー期間中に、新宿ピットイン3デイズ枠を利用しての<ブロッツフェス2011>を開催した。来日するたびにドラミングの鋭さを増しつづけているポール・ニルセン・ラヴや、1997年にスタートしたシカゴ・テンテットの創立メンバーで、これが初来日となるチェロ奏者フレッド・ロンバーグ・ホルムらによるトリオをコア・メンバーとし、生誕70周年を祝うにふさわしい日本人ゲストを日替わりでふたりずつ迎えるという<ブロッツフェス 2011>の構成は、デュオからクインテットまでの自在な編成で、ブロッツマンの多面性を引き出すような好企画だった。


 初日は4セット、ブロッツマン・トリオ、トリオ+大友良英、トリオ+灰野敬二、アンコールにブロッツマン+灰野敬二のデュオ、中日は3セット、トリオ+ジム・オルーク、トリオ+八木美知依、そしてアンコールが全員参加のクインテット、オルークは後方に立って演奏した。最終日は4セットで、ブロッツマン+佐藤允彦、トリオ+坂田明、全員参加のクインテット、アンコールにブロッツマン+坂田明+佐藤允彦のトリオという、スリーデイズを通しで聴いても飽きさせない変化に富んだアンサンブルを用意するだけでなく、三日間の各日が、ゲストによる雰囲気の違いを際立たせるようなものでもあった。

 フリージャズというスタイルは、集団即興の長い歴史とともに、いまや成熟した音楽となり、しかもなお、スタイルとしての完成をめざすことのない過程を生きる音楽、つねに来るべき音楽として、どんな異質なサウンドも受容してしまう強靭な生命力を宿している。そこでなら灰野敬二が放出する強度のある音塊も、たおやかで繊細な響きを奏でる八木美知依の絃のノイズも、あるべき場所を与えられるのである。

 チェロの他に4弦エレキギターを持ち替えで弾いたり、足下に置かれたエフェクター類を使ってエレクトリックなノイズを出すなどしていたロンバーグ・ホルムは、ありていに言えば、隙間を埋めるような演奏をしていたのだが、集団即興においてパルスの直進性が前面に躍り出るフリージャズを、さらに多方向に開き柔軟なものにするため、大きく貢献していた。特に、大友良英、灰野敬二、ジム・オルークといったギタリストたちとの共演では、ブロッツマンが必ずといっていいほど楽器を演奏する手を止め、エレクトロニクスだけのシーンを作るのであるが、そのときのロンバーグ・ホルムの存在はとても重要なもので、ゲストを迎えての演奏の流れに、一定のパターンが感じられたほどだった。

 ギターノイズであれヴォイスであれ、リズムに解消されない音塊を瞬間ごとにつむぎ出していく灰野敬二は、そそり立つ壁のように堅固なトリオの演奏から、身を引きはがしながら、同時に身体ごとぶつかっていく。また、このようなフリージャズを演奏する場合、しばしば音数を少なくして対極を描き出すことの多い大友良英は、<ブロッツフェス>ではノイズ・ギタリストとしての原点に回帰し、トリオと拮抗するサウンドを生み出していた。特に、細部が際立つ美しいギター音、フィードバックを使ってリズム陣をコントロールするような場面が、瞬間的なものではあったものの、とても印象的だった。そして、ロンバーグ・ホルムの盟友であるジム・オルークは、エッジのきいた鋭い切れ味のギターで、トリオの集団即興にオルークならではのなまめかしい艶を与えたのである。

 ステージ上のメンバー構成において重要と思われたのは、上手にトリオのサークルが(閉じて)位置したことであり、ゲストはその輪の外に──あるいは下手に──位置して演奏することになった点である。ピアノの佐藤允彦や、二面の箏を往復して演奏した八木美知依は、楽器の大きさからいってこのようにならざるを得ないが、3人のギタリストもすべてがステージの下手に位置した。ただひとり例外だったのがサックスの坂田明で、彼はブロッツマンとフロント・ラインを構成し、ふたり並び立つようにして演奏したのである。このような場所の固定性による演奏の固定性を回避するには、ブロッツマンがゲスト奏者にソロを渡すというだけではたぶん不十分で、<ブロッツフェス 2011>で実際にそうしたように、コア・メンバーの枠を外して、ゲスト奏者とデュオやトリオを作るというのが、不可欠の要素ではなかったかと思う。

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新宿ピットイン http://www.pit-inn.com/