2011年9月11日日曜日

天狗の薄衣──天狗と狐と兎と和尚とキャプテン0


 ループラインを舞台にしたシリーズ<天狗と狐>の最終公演は、レギュラー・メンバーである杉本拓と宇波拓の他に、参加者全員をニックネームで呼んだ「兎と和尚とキャプテン」をゲストを迎えたインスタレーション・タイプのハプニングだった。ちなみに、「兎」はこの日野兎の着ぐるみをつけて登場した佳村萠のこと、「和尚」は坊主頭の坂本拓也のこと、「キャプテン」は背の高い秋山徹次のことである。

 福島原発のチャイナ・シンドロームを誘発した東北関東大震災への配慮だろうか、この晩のライヴは、客入れの時間から照明を落とし、すべてが暗いなかで進行していく節電公演で、地階に下り、ループラインの扉を開けた観客は、最初から暗闇になった会場を、唯一そこだけにローソクがともった受付カウンターまで、たどり着かなくてはならなかった。宇波拓によって積みあげられた、いくつもの段ボール箱の塔がいまにも崩れ落ちそうで、観客の足もとを危うくさせる。インスタレーションと呼ぶにはあまりにも奇想天外のシチュエーションは、ループラインをよく利用する人間でも戸惑うほどだから、初めて来た観客や、過去に数回だけ来たことがあるという程度の観客は、さぞや面食らったことだろう。

 受付カウンターの椅子には、野兎の着ぐるみをつけた佳村萠が、兎の耳を長いローソクの火に焼き焦がさんばかりに近づけ、なにか作業をしながら座っていた。彼女を見た誰もが、兎の耳を見とがめて「危ないですよ」と声をかける。あちこちに段ボールの塔が立っているので、いつもは客席になっている場所に座ってもステージが見通せず、いったいどこに座ったらいいのかよくわからない。特に説明はなかったが、会場全体がインスタレーション・スペースになっているので、どこでも好きな場所にいていいということのようであった。

 いつもならステージになっているスペースの中央に横たえられた段ボールのうえには、小さなローソクが乗っており、一番奥の壁の暗がりには、マイクを一本用意し、丸テーブルに腰かけた秋山徹次が座っている。楽器のかわりに本やシンバルを用意している。むかって上手寄りの壁には、透明なゴミ袋をビニール合羽のように頭からかぶったうえから、いつもの山高帽をかぶるといういでたちの杉本拓が店をひろげ、手もとの懐中電灯をたよりに、テクスト・リーディングをする。なんの本を読んでいるのか、暗闇でタイトルなどはわからなかったが、思想書に類するもののようであった。

 壊したり組みかえたりと、さかんに段ボールの世話を焼きながら立ち働いていた宇波拓は、そばにいた観客にさかんに話しかける。トイレにむかう通路の床に立ち塞がるようにべったりと座った禿頭の坂本拓也は、コンクリートの床のうえに赤・青・緑の電球をならべ、定期的に色をスイッチするのと並行させて、床のうえに、角材・発泡スチロール製の棒・トイレットペーパーの芯などを使って抽象的な形を描き出していた。

 これらのことが、始まりも終わりもない状態のまま、視界のきかない暗闇のなか、相互に無関係のまま進行していくのである。

 兎の佳村萠は、パフォーマンスの途中で受付カウンターを離れてステージ奥に移ったり、微風のような歌(声)を空気ににじませるようなことをしていたが、全体がいよいよやることがなくなり、室内の空気がよどみはじめるころ、何人かの観客と連れ立って外に散歩に出かけたりした。こうした趣向も、過去の<天狗と狐>公演で実験ずみのものなのだろうか。



[初出:mixi 2011-03-26「天狗の薄衣」]

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■天狗と狐と兎と和尚とキャプテン
 日時: 2011年3月25日(金)
 会場: 東京/千駄ヶ谷「ループライン」
  (東京都渋谷区千駄ヶ谷1-21-6 第3越智会計ビルB1)
 開場: p.m.7:30、開演: p.m.8:00
 料金: ¥2,200+order/25日26日通し券: ¥3,500+2orders
 出演: 杉本拓、宇波拓、佳村萠、坂本拓也、秋山徹次
 予約・問合せ: TEL.03-5411-1312(ループライン)