2011年9月24日土曜日

ESP(本)応援祭 第七回

本講座の講師である泉秀樹氏とイベント主催者の渡邊未帆氏

 吉祥寺ズミのシリーズ講演「ESP(本)応援祭」は、6月12日(日)の「ピアニスト特集 Part 1」につづき、6月26日(日)に Part 2 が開かれ、ニュージャズ最初期を彩ったピアニストのなか、前回、時間切れで触れることができなかったラン・ブレイク、ローウェル・ダヴィッドソン、バートン・グリーン、ピーター・レマー、ドン・ピューレンなどの活動を、各アーチストのESP盤がリリースされた前後の時期に焦点をあわせて総点検することとなった。

 かけられたアルバムは、(1)ジーン・リー&ラン・ブレイク『The Newest Sound Around』(RCA Records, 1961年11月)、(2)ラン・ブレイク『Plays Solo Piano』(ESP 1011、1965年5月)、(3)ローウェル・ダヴィッドソン『 Lowell Davidson Trio』(ESP 1012, 1965年6月)、(4)バートン・グリーン他『The Free Form Improvisation Ensemble』(Cadenca Jazz, 1964年4月)、(5)バートン・グリーン『Burton Greene Quartet』(ESP 1024、1965年12月)、(6)アルバート・アイラー・ボックスセット『Holy Gost』から、グリーンがグループのリーダーとなった演奏「untitled」(1966年2月)、(7)バートン・グリーン・トリオ『On Tour』(1966年4-5月)、(8)ピーター・レマー『Local Colour』(1966年)、(9)V.A.『ESP Sampler』からアンドレイ・ボズネセンスキーによるロシア詩の朗読「The Lovebook Record」/サンプラーに残るだけで、実際にはリリースされなかった詩朗読の断片、(10)ジュゼッピ・ローガン『Giusseppi Logan Quartet』(1964年10月)、(11)ミルフォード・グレイヴス&ドン・ピューレン『In Concert at Yale University Vol.1』(SRR 286、1966年4月)の11枚。

 なかでも、これまで日本では知られていなかったことで、英国で活躍していたレマーがESP盤をリリースすることになった経緯について、バリー・マイルス著『London Calling』(Atlantic Books, 2010)などの新資料から、ESPレーベルのプロデューサーであるバーナード・ストルーマンの実弟スティーヴ・ストールマンが渡英し、<スポンタニアス・アンダーグラウンド>というライヴ・シリーズを開催して人材発掘するなかから登場してきたピアニストだったことが、若手のジャズ研究家・工藤遥の調査であきらかになった。

 またラン・ブレイクの項では、最初期にデュオを組んで欧州ツアーもおこなった歌手(彼女自身は「ヴォイス」を自称する)ジーン・リーの活動が取りあげられ、やはり実験的歌唱で知られるノルウェー出身の歌手カーリン・クロッグに与えた影響や、マル・ウォルドロンと来日して、広島原爆の犠牲者を追悼するライヴを行なったことなどにも触れられた。

 さらにバートン・グリーンの項では、グリーンに対するリロイ・ジョーンズの論評を紹介した植草甚一のエッセイ「『バートン・グリーン事件』とニューズ・ウィーク誌の前衛ジャズメンめぐり」(『スイング・ジャーナル』1967年2月号)がとりあげられ、これが日本におけるバートン・グリーン受容に決定的なマイナス評価を与えることになったということが指摘された。このことは、マスメディアとジャズ評論家がひとつの(あるいは、たったひとつの)言説装置としてあり、なにがしかの権力を配分しながら、音楽、特にジャズのような輸入音楽の評価に、いまのようなネット社会とは比較できないくらいの大きな影響力を持っていた時代があったことを意味している。

 ひるがえって、現代の聴き手に求められるのは、音楽家自身の発言も含め、あらゆる言説に対するメディア・リテラシーの能力ということになるだろうし、こうしたメディア環境の激変は、音楽批評そのものの質をも変えるものとして作用している。<ESP(本)応援祭>シリーズのスタイルが、批評を媒介しない、批評以前の、データベース的なものであることも、ゆえなしとしない。次回の<ESP(本)応援祭>は7月末の日曜日にサン・ラー特集を予定。
























[初出:mixi 2011-06-27「ESP(本)応援祭 第七回」]

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