2011年9月24日土曜日

ESP(本)応援祭 第六回

ESP-1021『Closer』1965年5月20日&12月18日(12日説もあり)録音

 6月12日(日)吉祥寺ズミでシリーズ講演「ESP(本)応援祭」の第六回「ピアニスト特集 Part 1」が開催された。全体では、ポール・ブレイ、ボブ・ジェームス、ラン・ブレイク、ローウェル・ダヴィッドソン、バートン・グリーン、ピーター・レマーなどが取りあげられる予定で、前半の講義である今回は、長い活動歴をもつ重要ミュージシャンであることはもちろんのこと、アリゴ・カペレッティ著『Paul Bley──The Logic Of Chance』(Vehicle Press, 2004)などが刊行され、資料も豊富にそろっている重鎮のポール・ブレイについて、その最初期の活動をESPを中心に再構成する解説が中心となった。

 かけられたアルバムは、ソニー・ロリンズ『Tokyo 1963』(RLR Records, 1963年9月)、ポール・ブレイ・クインテット『Turning Point』(I.A.I., 1964年3月)、ポール・ブレイ『Barrage』(ESP, 1964年10月)、ザ・ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ『Communication』(Fontana, 1965年12月)など。

 この時期のポール・ブレイは、カーラ・ブレイを作曲家として高く評価していたことで知られるが、私生活においても、カーラ・ブレイからアーネット・ピーコックへと恋愛遍歴を重ねている。扱いに繊細さが求められるテーマではあるものの、そして従来のジャズ批評が、決して扱ったことがないテーマではあるものの、カーラ・ブレイ自身が、女性作曲家というみずからの立ち位置が、男性優位社会だったジャズの世界でこうむらざるを得なかった生きにくさについてはっきりと発言しているところから、三面記事的な扱いにならないよう、ニュージャズ/フリージャズにおけるジェンダー問題を、はっきりと意識して議論すべきではないかと思う(このテーマは、クレズマー音楽をジェンダー問題とクロスさせて論じた平井玄のシンポジウム発言にも垣間見られていた)。

 史料的データを整理していく<ESP(本)応援祭>シリーズの枠組をはみだしてしまうことはじゅうぶんに承知しているが、シリーズ講演の主催者が渡邊未帆というところから、批評以前の研究にとどまるものであれ、特に意識的であっていいポイントのように思われた。旧来のジャズ言説の制度性を越えるこうした試みは、ジャズがアカデミックな音楽研究の対象となっている海外においてはおこなわれているものの、日本では、「ジャズとエロス」というような、きわめて曖昧な規定しか受けていないのが実情である。

 またCITレーベルその他に数多くのポピュラー・アルバムを録音しているボブ・ジェームスは、これが時代の風というものだろうか、出発当初、アヴァンギャルドな表現にも手を染めており、その演奏の一端がESPに残されている。ボブ・ジェームス処女作『Bold Conceptions』(Mercury, 1962年8月)、ボブ・ジェームス『Explosions』(ESP 1009, 1965年5月)などで聴かれる演奏には、打楽器奏者のロバート・ポザー(後のクレイグ・ポザー)が参加しており、初期のボブ・ジェームスの演奏は、むしろこのポザーの前衛性、あるいはESP盤に参加しているロバート・アシュリー、ゴードン・ムンマらがもっていた、いわれるところの  “エクスペリメンタル・ポップ” な方向性が前面に出たものであろうとのことである。次回に持ち越された「ピアニスト特集 」の後半は、6月26日(日)に開催予定。■











[初出:mixi 2011-06-19「ESP(本)応援祭 第六回」]

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