2024年7月5日金曜日

第16回シアターX国際舞台芸術祭2024[11日目]: アートマイム塾/足立七瀬/舞踊集団モダンディーズ


第16回シアターX国際舞台芸術祭2024
「地球惑星人として、いま」

【11日目】



シアターX アートマイム塾

『分光器』"spectrometer"

作・演出: JIDAI

出演: 高永育海、西田ヤス枝、橋本庸子、藤井えつこ、

本杉淳悟、山口陽二郎、山崎有晴

足立七瀬

『Just Fit』

舞踊集団モダンディーズ

『壁と空』"Wall and sky"

振付: 中村隆彦

出演: 石井 登、菅原鷹志、竹井一仁、中村隆彦、

ナルシソ・メディナ、水内宏之、あすかなおこ、阿部麻依子


日時:2024年7月4日(土)

開場: 6:30p.m.、開演: 7:00p.m.

会場: 両国シアターX

(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)

料金: 前売り/当日: ¥1,000

舞台監督: 宇佐美雅司

照明: 曽我 傑、宇野敦子

音響: 柏 環樹、鳥居慎吾、川村和央

主催: シアターX


  シアターXが主宰する「本物の俳優修行」シリーズには、歌舞伎や一人芝居研究会といった演劇関係のワークショップとならんで、ポーランドのステファン・ニジャウコフスキによって完成された“アートマイム”のクラスが開かれている。塾長を務めるJIDAIが作・演出した作品『分光器』は、7人の塾生がステージで群舞を構成してみるショーイング的性格のパフォーマンスである。全体の流れは、立ち位置を動かずにステージに身体を立たせることからスタート、複数のメンバーで群舞形式を作ったり、メンバーのなかのひとりをフィーチャーして集団性に意味を持たせたり、ステージ上での歩行を入れながらしぐさをしたり、ジャンプや4つんばいになるなど、複数のしぐさを組み合わせながら身体の動きを作っていくという具合で、日常性を離れる動きの要素を加えつつ、次第に複雑化していくタスクを個々人がこなしていく内容だった。

 足立七瀬の『Just Fit』は、服を脱いだり着たりする身ぶりだけを使って振付けられたユニークな作品。上着を脱ぐとき/着るときに上に向かう動きになり、ズボンを脱ぐとき/はくときに下に向かう動きになる。無限につづくのではないかと不安をかき立てる反復は、足立みずから「動きが幾重にも重なっていく様が、溢れかえる選択肢への絶望となっていく」というように、パフォーマンスは次第にシジフォスの神話のような劫罰の様相を呈してくる。立っているだけで展開のない動きは、清水知恵『Trans/Formation』(6月27日|10日目)とよく似た縛りだが、どちらもミニマルな形式にダンスを整序するのではなく、演出的な部分を極力排することによって、身体をダンサーの「存在」の位相で問題にしようとしている点で共通しているように思われる。衣服の着脱は、ピナ・バウシュ作品のように実際に全裸になる場合と比較すると、実際の全裸が、日常的な動きを問題にするのとは違って、ダンスを超えてしまうような出来事を起こすことがテーマになっていることに気がつく。

 舞踊集団モダンディーズの作風は、中村隆彦の振付作品を目にする機会が多いが、グループ名が「モダンダンス」と「ダンディズム」の造語になっているところから想像されるように、コンセプチュアルな動機を感じさせる特殊なものといえるように思う。その特殊性は紅白のドレスに身を包んだ2人の女性と黒づくめの5人の男性陣が描き出す絵画のような『壁と空』においても遺憾なく発揮された。エレガントなダンスの夜会を連想させる設定のなかで、男たちの群舞はまるで個性を喪失したサラリーマン集団のように特徴を失い、つねに群としてスタイリッシュに動きまわる一方、男女の関係性を連想させるような物語的な展開をリードするばかりでなく、横になった椅子にすわりながら床上に寝そべったり、高い脚立に昇ったり、椅子にすわる男の膝に乗るなど、フラッパーな逸脱行為をしてみせるのはつねにドレッシーな衣装の女性たちなのだ。この非対称の関係性には、ダンディズムを単なる格好のよさとしてではなく、男という不自由な存在を拘束しているジェンダーバイアスという(自己)批判すら感じてしまう。(北里義之)


【第16回シアターX国際舞台芸術祭2024|プログラム詳細】

 ☞http://www.theaterx.jp/24/images/IDTF2024.pdf


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