2024年7月21日日曜日

第16回シアターX国際舞台芸術祭2024[19/20日目]: 皆藤千香子『HOPE』2デイズ

 

第16回シアターX国際舞台芸術祭2024
「地球惑星人として、いま」

【19/20日目】

皆藤千香子『HOPE』2 days



皆藤千香子

『HOPE』

コンセプト・振付: 皆藤千香子

ダンス: クリスティーン・シュスター、

ヤシャ・フィーシュテート、アントニオ・ステラ

照明: 濱 協奏

衣装: 磯貝朗子

音楽: オリバー・ベドルフ

写真提供: 近藤真左典


日時:2024年7月19日(金)

開場: 6:30p.m.、開演: 7:00p.m.

日時:2024年7月20日(土)

開場: 1:30p.m.、開演: 2:00p.m.

会場: 両国シアターX

(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)

料金: 前売り/当日: ¥1,000

舞台監督: 宇佐美雅司

照明: 曽我 傑、宇野敦子

音響: 柏 環樹、鳥居慎吾、川村和央

主催: シアターX



 デュッセルドルフを拠点に欧州で活動するダンサー/振付家の皆藤千香子が、本年度もドイツから新作『HOPE』を携えて参加した。出演ダンサーは、過去3回のフェス参加で日本でもすっかりおなじみとなったメンバーで、ケルン音楽大学ダンス科出身のクリスティン・シュスター、ハンブルク出身でパフォーミングアーツで有名な大学連合ダンスセンターで振付の修士号を取得しているヤシャ・フィーシュテット、そしてパレルモ私立劇場で活動したあとフォルクガング・タンツ・ストゥーディオにやってきたアントニオ・ステラの面々。過去に来日の機会をとらえて観ることのできた皆藤作品は、いずれもグルーヴ感のあるいわゆるダンスらしいダンスではなく、抽象的なコンセプトのあるパフォーマンスの印象に近いものだった。皆藤自身が語るところによれば、すべての動きがダンスと呼ばれる可能性のあるドイツのダンス環境で重要視されるのは、むしろこのコンセプトであり、作品を感覚的に受け取ることより理屈が優先される傾向が強いとのこと。

 その顕著な一例としてあげられるのが、昨年の本芸術祭で公演された『奈良のある日の朝』(2023年6月)という安倍晋三暗殺事件を扱った作品だろう。要人の暗殺という日本社会に与えた影響の大きさにくらべ、政治的なテーマを扱うことがほぼないといっていい我が国のダンス界では、おそらく誰ひとりとして考えつきそうもないこのテーマ選択に、度肝を抜かれたものだった。今回の作品は「希望」というもっと抽象的なテーマをめぐってのクリエーションで、作品にはオブジェのようにステージに配置される身体と身体を結ぶブリコラージュ装置が登場した。「希望の原理」を構成するこの装置は、観客席上手側をつぶして長々と置かれた三叉パイプのようなもので、機械といってもどんなものにも似てはいない。息や声といった身体の即物性に依拠した「希望の原理」として、ダンサーたちの関係性を駆動していく後半のマシナリーな場面は、どこかで『流刑地にて』(1914年)のようなカフカの小説に通じていくニュアンスをかもし出していた。


 作品の前半部分で、ダンサーたちは、後ろ向きにステージを歩きまわりながら、床に散乱するオブジェ──重りを布で包んでてるてる坊主のように首根っこを結んだもので、ステージ上に逆さに置かれている──をひとつふたつ摘んでは、肩越しに背後に投げる動きをくりかえしていく。うしろを見ないようにしてバックしていくダンサーがニアミスする場合でも、コンタクトダンスや群舞にはならず、おたがいの腕をとりあっては脇にのけるようにして身体と身体はかりそめの接触しかしない。出会いは生じないのである。公演前半ではこの動きが延々とつづいてダンスはミニマリズムの様相を呈していく。後発するステラは観客に向かって英語で語りかけ、作品を携えて世界を旅する彼らの日々を、日々の反復を「60日間、このように地球を一周し、波とともに上下する。」「さあもう一度はじめよう。」と、希望のようなものを語ってから作品のなかに入っていくのだった。


 これに対して、三叉パイプのような「希望の原理」が登場する後半は、スモークが霧のように立ちこめるなか、メンバー3人がアリーナに降りて、観客席の間を越えていきながら、中央で連結されたパイプに声や息を吹きこむことで、内面のアンサンブルを生産していく場面が展開した。そこにあるのは心的な物語ではなく、生物の気息があるだけという身体の使い方。こうしたコンセプチュアルなありようにもかかわらず、『HOPE』はこれまで観てきた皆藤作品のなかでも、特にダンス的な作品として感じられた。それは振付にたくさんの身ぶりが挟みこまれていたからではないかと思う。前屈して両手を前にまっすぐ伸ばしながら回転するシュスター。あげた両手を昆虫の触角のように細かくふるわせるフィーシュテート。手刀を切るステラ。それらの身ぶりは、単独であらわれては消えていくといったようなもので、ダンサー間の関係性を紡ぎ出すようなものではなかったが、後半部分で、尺八を吹くフィーシュテート、笛を鳴らすシュスターのありようともども、魅力的な響きを立てていた。即物的である動きが魅力的な色や形を持ったというようにして。そんなところにも「希望」は託されていたかもしれない。(北里義之)


【第16回シアターX国際舞台芸術祭2024|プログラム詳細】

http://www.theaterx.jp/24/images/IDTF2024.pdf

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