2024年7月1日月曜日

第16回シアターX国際舞台芸術祭2024[9/10日目]: ニナ・ディプラ2デイズ



第16回シアターX国際舞台芸術祭2024
「地球惑星人として、いま」

【9/10日目】

ニナ・ディプラ2デイズ

Nina DIPLA 2 days



石黒節子

『曼荼羅の門』パートII 〜限界を超えた今〜

"Mandala Gate"─Now I've surpassed my limits─

森美香代

『ほどけゆく記憶』

"Memories unraveling"

ニナ・ディプラ

(ギリシャ/フランス)Nina DIPLA

『Bon Voyage  Kalo Taxidi』

日時:2024年6月26日(火)

開場: 6:30p.m.、開演: 7:00p.m.

会場: 両国シアターX

(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)

料金: 前売り/当日: ¥1,000


山田いづみ

『愚かな みみず』

"Stupid worm"

ドローイング: 田村登留、音楽: 宗 誠一郎

Dance Monster

『Garden』

出演: 安藤 瞳、安藤 陽、中村綺布代、

三保谷香織、美保谷珠、古賀 豊(演出)

清水知恵

『Trans/Formation』

ニナ・ディプラ

(ギリシャ/フランス)Nina DIPLA

『Bon Voyage  Kalo Taxidi』

日時:2024年6月30日(日)

開場: 2:00p.m.、開演: 2:30p.m.

日時:2024年6月26日(火)

開場: 6:30p.m.、開演: 7:00p.m.

会場: 両国シアターX

(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)

料金: 前売り/当日: ¥1,000

舞台監督: 宇佐美雅司

照明: 曽我 傑、宇野敦子

音響: 柏 環樹、鳥居慎吾、川村和央

主催: シアターX



 開催期間が長期間にわたる<第16回シアターX国際舞台芸術祭2024>もプログラムの半分を消化、折り返し地点となった9日目・10日目の演目は、ギリシャのテッサロニキ出身のダンサーでピナ・バウシュの『春の祭典』で踊ったことで知られるニナ・ディプラが登場。現在フランスに在住して活動する彼女は、本芸術祭に2013年から継続して参加しているお馴染みのダンサーで、2デイズ公演は彼女をトリにした2種のオムニバス公演となった。公演前に20分の休憩時間を取る構成も含め、内容的には同一だったので、最後にまとめて述べることとする。2デイズは、森美香代、山田いづみの大阪勢が参加したことでも注目された。

 (1)宇宙開発事業団から企画を持ちこまれ、石黒節子が構想した無重力状態のなかでのダンス「飛天プロジェクト」は、宇宙飛行士の若田光一によって宇宙ステーション内で実際に踊る(初演:2009年)ところまで発展したものだが、今回トリオで踊られた『曼荼羅の門』パートII ~限界を超えた今~は、このときの感情を作品化したもので、「地球惑星人」のテーマに真正面から“科学的に”こたえた作品だ。宇宙を体験した飛行士からは、しばしば神的な感情が報告されているが、公演前半、銀布の衣装に包まれたふたりがカラフルな照明に照らされながら牛頭馬頭が争うように踊るデュオと、後半に登場する石黒が金布の衣装に身を包み、まるでサン・ラーのジャズ・アーケストラに伴奏されるようにしてとぐろを巻くモンドな世界観が対照性を描き出す作品だった。

 (2)大阪組の森美香代による『ほどけゆく記憶』は、両手先をつないで円を作りながら踊ったり、片手ずつを床上におろして口元まですくうような動きをみせたり、前屈して両手をくるくるとまわすように動かすなど、スピーディーな両手の動きを休むことなくくりだしながら、物語的・演劇的な演出を排することで「宇宙の一隅に生まれた/砂の一粒のような大きさの私という存在」感をうかがわせた作品。クライマックスもなくダンサーは永遠に宇宙空間を遊泳している印象だったが、一瞬も止まることのなく踊られていったダンスは方法論的な美に貫かれていた。


ドローイング: 田村登留


 (3)芸術祭の総合チラシにもドローイングを提供している大阪の映像作家・田村登留が描いた巨大な顔のボールペン画を、ステージ中央のバトンに吊るした2枚のスクリーンに投影、顔の真ん中を破るようにしてスクリーン間のスリットから登場したダンサーが、異様なエネルギーを放つ顔に対峙しながら踊ったのが、これまた大阪勢の山田いづみによる『愚かな みみず』である。カタカタとなにかを振動させながら吹き荒ぶ強風のなか、強力な顔の他者性が観るものに身体的対峙を要求し、ダンサーは痙攣的な全身の動き、引きつったような身体、うしろから両手をよじられるような動きなどをみせてキリキリ舞いをした。卑小な自らの存在を問われているようでもあれば、あたかもそれが(けっしてそのように語られることのない)自画像であるかのようにも踊られた印象深いダンスだった。

 (4)劇作家つかこうへい(1948-2010)の演劇制作に関わっていた古賀豊が演出を担当した“Dance Monster”の『Garden』は、ふたりの子ども、ピクニックするように輪を作りながらそれぞれに踊る3人の女性、ひとり黒服に身を包み、人の輪の外に立って軋轢を引き起こす怪しい男からなるフィジカル・シアターの作品だった。自然の山林を破壊するメガ・ソーラーパネルの問題が扱われていて、セリフはなく、足元のグリーンの布をホリゾントまで押しやっていく男のしぐさに、物語の趣旨が託されていたように思う。後半になって子どもたちが再登場すると、たくさんのクレヨン画をステージ前に一列にならべていき、グリーンの布をもう一度ステージに敷くことで自然回帰の希望が語られた。藤井 風のJ-POP曲『ガーデン』(2022年)が作品のテーマソングになっていた。

 (5)大きな音楽世界をあとに残して他界した坂本龍一(1952-2023)が晩年にたどり着いた境地に迫った清水知恵の『Trans/Formation』は、「肉体が消滅しても、なお輝き続ける美しさとは何か。それは粒子と同調し、重力から解き放たれた時に浮かび上がる、瞬時の現象かもしれない。」という省察から、動きが停止してしまう瞬間をつないでいったようなすぐれて実験的なダンスを、最初に立った下手の立ち位置をまったく動くことなく、上体の上下動だけを入れて踊った。坂本の音楽はポスト・アンビエントとでも呼ぶのがふさわしいもので、演奏主体を離れ、響きそのものが生み出す余白の領域に身体感覚を拡大していく。清水が語るような「肉体の消滅」というより、形を失った身体の粒子状の拡散という印象だ。それがどこか俳句的な余白の美とつながっていくのが興味深い。

 (6)そして最後はニナ・ディプラの『Bon Voyage』である。ブルーの薄いヴェールを手に上手通路からステージに駆けあがった彼女は、布を頭からかぶって床にすわり、右手を下手にあげる動きをくりかえして布をはじき、アラビックな曲のスタートとともに両手を床につけ、五体投地するように床に身を伏せる動きをみせた。立ちあがっては、ブルーとイエローのヴェールを交代にかぶってステージを歩き、ホリゾントに向かってヴェールを開き閉じ、床に転倒しては左右に横転する動きをくりかえし踊った。途中から観客席に向かってギリシャ語、フランス語、英語などで語りかけるようになり、トラッドなワルツの曲が流れはじめる。故郷テッサロニキの歌だろうか。最後はステージ前に用意してあったパンデイロ(大型タンバリン)を恭しく手にとり、最初は音を出さずにマレットで打つ真似を、次にホリゾントまでさがって激しく連打するところからふたたびステージ前に戻り、楽器を元の位置に置くとそのうえに花束を乗せる儀式的しぐさで終幕となった。音楽をふんだんに使った自在な動きは、ギリシャにインスピレーションを得たイサドラ・ダンカンに還る趣きがあった。(北里義之)


【第16回シアターX国際舞台芸術祭2024|プログラム詳細】

 ☞http://www.theaterx.jp/24/images/IDTF2024.pdf


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