2024年7月8日月曜日

第16回シアターX国際舞台芸術祭2024[13日目]: 武井よしみち+ブルーボウルカンパニー'96/一色眞由美/キタムラアラタ

 


第16回シアターX国際舞台芸術祭2024
「地球惑星人として、いま」

【13日目】



武井よしみちブルーボウルカンパニー'96

『BPM76, or71 地球を歩く』

"walking on BPM76, 71"


一色眞由美

『原色のモメント』

"The momet in primitive colors"


キタムラアラタ Arata-Alicia Kitamura

『WIG(ウィグ)Wayfaring In Grieff(悲嘆に彷徨う)

出演: Arata-Alicia Kitamura/キタムラアラタ

(演出、パフォーマンス)、

花岡紫苑(俳優)、松本有理(ヴィオラ奏者)


日時:2024年7月7日(日)

開場: 2:00p.m.、開演: 2:30p.m.

会場: 両国シアターX

(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)

料金: 前売り/当日: ¥1,000

舞台監督: 宇佐美雅司

照明: 曽我 傑、宇野敦子

音響: 柏 環樹、鳥居慎吾、川村和央

主催: シアターX


 武井よしみち+ブルーボウルカンパニー'96名義の『BPM76, or71 地球を歩く』は、周知のように、「カンパニー」を名乗っていてもダンスの群舞作品ではなく、黒人ブルースのような、鼻歌のような英語歌を口ずさみながら一定速度で歩行していく形式を基本としておこなうソロ・パフォーマンスである。思えば長い年月のときどきに遭遇する彼の公演で、武井はいつもこんなふうに歩き、思考していた。ホモ・サピエンスとかホモ・ルーデンスとか、人間の定義はいろいろにあるが、「足が耕す表現の世界」を探究する武井の定義は、アフリカ大陸から世界に広がった「歩く人」ということになるのだろう。足が止まったところで別種のパフォーマンスがさしはさまれるが、今回はステージ中央で仁王立ちになり、かぶっていた帽子をとると、頭の先から「髪の毛」「眉毛」「鼻毛」「腋毛」「胸毛」というように手指を身体の下へと這わせつつ人毛の種類を言っていくものだった。最後の場面にもひねりがあり、観客の拍手にこたえて再登場、カチカチというメトロノーム音といっしょにアンコールのように歌い足踏みするという行為を何度もくりかえして終わらないのである。観客が喝采を送るなか、楽屋から「いつまでやってんだよ。おわりおわり」という声が響いて終演となった。歌や歩行に漂うそこはかとないユーモアやペーソスは、他のパフォーマンスでは味わうことのできないものである。

 1977年に一年間NY滞在してマーサ・グラハムのもとで学んだ一色眞由美の『原色のモメント』は、音楽なしのまま、ホリゾントとステージ前を往復しながら、ときに観客に片言で語りかけて踊る前半部と、藤井風のJ-POP曲『花』に乗ってダンスする後半部からなるシンプルな構成を持つ作品で、出会いをテーマに踊られたようであった。

 キタムラアラタ/Arata-Alicia Kitamuraのパフォーマンス作品WIG(ウィグ)Wayfaring In Grieff(悲嘆に彷徨う)』は、1826年に書かれたジェームス・モンゴメリーの宗教詩をベースに、2019年に高知県美術館で制作された作品をリメイクしたものとのこと。ひと抱えもあるような畳大の絵巻物がステージの中央に立てられ、蝙蝠傘をさしたり、トイピアノを弾いたりする花岡紫苑(JAMプロモーション)に手伝ってもらい、黙ったまま下手から上手へと巻きとっていく肉体労働のような行為が中心になっていた。啓示的な宗教詩の内容を、絵だけから理解するのは困難だが、ノルシュテインのような民衆説話的な画風は魅力にあふれ、観るものの感情に訴えかける大きな力を持っていた。巻物が破かれたりする後半は、松本有理のヴィオラ演奏とアリシアのヴァイオリンによるテーマの二重奏があったり、バケツに張られた水に頭をつっこんだアリシアが咳きこみ嗚咽をはじめるなど、直接的で身体的なパフォーマンスがダイナミックに展開して場を流動的にしていった。破かれた巻物類が林立するステージの様子は、爆撃を受けつづけ廃墟化したガザのようで、まさに現代版「ゲルニカ」を見る思いだった。(北里義之)


【第16回シアターX国際舞台芸術祭2024|プログラム詳細】

 ☞http://www.theaterx.jp/24/images/IDTF2024.pdf

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