【21日目|最終日】
クロージング・ガラ
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ケイタケイ+ラズ・ブレザー
『二人舞い〜渚』
作舞: ケイタケイ
出演: ラズ・ブレザー、ケイタケイ
天野裕子
『新作オペラ 少年オルフェ 予告編』
ピアノ: 天野裕子
語り: 宇佐美雅司
邦正美創作舞踊研究所
杉浦はるみ『審判の日』
演者: 國松きみ子
高﨑尚子『表裏一体』
演者: 高﨑尚子、笹田彰子
小笠原サチ子『追慕』
演者: 小笠原サチ子
本木歌奈子『口』
演者: 江原冨代、手塚雅子、本木歌奈子、小林眞理子、山本絵里子
池田直樹
『IDTF Special Gala』
構成・独唱: 池田直樹
ピアノ: 高木耀子
日時:2024年7月21日(日)
開場: 1:30p.m.、開演: 2:00p.m.
会場: 両国シアターX
(東京都墨田区両国2-10-14|tel.03-5624-1181)
料金: 前売り/当日: ¥1,000
舞台監督: 宇佐美雅司
照明: 曽我 傑、宇野敦子
音響: 柏 環樹、鳥居慎吾、川村和央
主催: シアターX
カナダからの来日が予定されていたジョスリーヌ・モンプティは、芸術祭の期間中に準備が間に合わず延期、11月に開催される「飛び石企画」でノルウェーの一人芝居『痕跡─スヴァールバル諸島』が来日公演するのにあわせて参加することになった。かわりに8月に本劇場で公演が予定されている天沼裕子の“子供といっしょに楽しめるオペラ”『少年オルフェ─乗り越えられない試練はない─』(原作: 米沢幸男)が、歌手の代わりに宇佐美雅司を語り手に迎えた「予告編」として公演された。転んでもただでは起きないというか、豊かな表現者たちの草の根ネットワークを生かして、クロージングが新たな出発点へと通じるシアターXらしい危機対処の手腕をみせた。
フェスティバルの顔になっているダンサー/振付家ケイタケイが、自身のダンス・カンパニー“ムービングアース・オリエントスフィア”のメンバーであるラズ・ブレザーとデュオで踊った『二人舞い~渚』は、手に手をとって朝の浜辺を散策するような情景を連想させる静かなダンスで、歩行のミニマリズムやユーモラスな味わいともども、モダンダンスの歴史に刻印された石井漠のデュエット作品『山を登る』(1925年)を連想させる作品となった。
天沼裕子が自身でピアノ演奏した『新作オペラ 少年オルフェ 予告編』は、作曲者の解説つきで新作オペラの代表曲を語り聞かせる内容で、ギリシャ神話の地獄めぐりでよく知られるオルフェウス神話を題材にしながら、宮沢賢治の童話を思わせる子どもたちの成長物語に翻案したジングシュピール(歌芝居)として舞台化した作品である。黒いスーツに身を包んだ宇佐美雅司の表情豊かなテクスト朗読が「少年オルフェ」の物語を彷彿とさせるなか、「裁判長のアリア」「忘却の詩」「メモリー花の歌」などが演奏された。
エンターテイメントのダンスではなく、自己表現と強く結びついたアートとして「創作舞踊」の礎を日本に築いた邦正美(1908-2007)は、モダンダンスの歴史を通じてよく知られているが、その業績をいまに伝える「邦正美創作舞踊研究所」の研究員が創作した小品集の公演は、生前に邦正美がシアターXの方向性を決定づけるのに助力を惜しまなかったことや、演劇史・舞踊史に配慮を怠らないシアターXならではの演目といえる。(1)杉浦はるみの『審判の日』は、茶色いゴブレット型の椅子の周囲をまわったり、立ちすわりしたりしながら踊っていくもので、椅子に頭をつけて懺悔するような姿勢がくりかえされ、いつかかならずやってくる「審判の日」の感情が表現された作品。(2)高﨑尚子の『表裏一体』は、デュエットを踊るふたりのダンサーの衣装が、前半分と後半分とで茶色と白色を貼りあわされたようになっていて、ふたりが色をあわせたりあわせなかったりするのがそのままダンスになっていく作品。グラフィカルに構成されたダンスが昭和モダニズムに直結していた。(3)小笠原サチ子がソロで踊った『追慕』は、ピコピコという“あたたかさを感じる”デジタル・ビートがテクノポップ時代の感性を懐古させる作品で、小豆色のロングドレスと波打つ手の動きにいいきれぬ思いが託されていた。(4)最後となった本木歌奈子の群舞作品『口』は、真紅の衣装に身を包んで両手を頭のうえに置き、大きく口を開けて群舞していく様子が、てるてる坊主の集団をみるようでどことはなしに奇怪な印象を与える作品だった。コンテンポラリーの作品で「グロテスク」という言葉を使うことはまずないが、この言葉にモダンの身体イメージがあることは確実で、ここにも邦正美の舞踊詩に潜在する表現主義的なるものに触れる部分があるように思う。
バス・バリトンの歌手・池田直樹が高木耀子のピアノ伴奏で歌ったオリジナル選曲シリーズは、ダンス公演の多かった芸術祭の最後を飾るにふさわしく、身ぶりが特徴的な楽曲にポイントが置かれたものだったが、歌手とはまんま俳優でもあるということを実証してみせたようなステージで、あふれる才能を惜しみなく歌に注ぎこみながら人生を謳歌している押し出しに感服させられた。なかでもモーツァルトのメロディーによる「阿倍仲麻呂」やドヴォルザークのメロディーによる「池袋デパート物語」など、著名な楽曲を使った替え歌シリーズは観客を大いに沸かせた。
最後の締めに実行委員の望月太左衛が登場すると、観客全員の唱和とともに三本締めで36日間に及ぶ会を閉じた。(北里義之)■
【第16回シアターX国際舞台芸術祭2024|プログラム詳細】
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