2012年3月27日火曜日

Bears' Factory vol.12 with 森 順治



Bears' Factory vol.12 with 森 順治
高原朝彦池上秀夫森 順治
日時: 2012年3月24日(土)
会場: 東京/阿佐ヶ谷「ヴィオロン」
(東京都杉並区阿佐谷北2-9-5)
開場: 7:00p.m.,開演: 7:30p.m.
料金: ¥1,000(飲物付)
出演: 高原朝彦(10string guitar) 池上秀夫(contrabass)
Guest: 森 順治(as, ss, fl)
問合せ: TEL.03-3336-6414(ヴィオロン)


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 高原朝彦と池上秀夫が共同企画する阿佐ヶ谷ヴィオロンのライヴ・シリーズ「ベアーズ・ファクトリー」の第12回公演に、第2回(2010年6月13日)の出演からほぼ二年ぶりで、サックス奏者の森順治が再登場した。ピアノの黒田京子、フレームドラムのノブナガケンらをゲストに迎えた最近のライヴでは、高原が真正面にあるオーディオの前に陣取り、池上は一段高くなった木製の回廊に立って弾いたが、この日はオーディオ前の森順治をふたりがはさむようにして位置し、高原は回廊のうえの椅子にすわり、池上は土間に立って演奏した。高原と池上の視線がおなじ高さになるような関係。これまでのことをいえば、むしろこちらのポジションで演奏するほうが多いとのこと。いずれも場所が狭いためになされる工夫だが、結果的に、トリオが至近距離で小さな輪を作るようにして向かいあい、共演者を目の前においてインプロヴィゼーションすることになり、そこから親密な音楽が生まれてくる。こうした音楽の親密さは、阿佐ヶ谷ヴィオロンのライヴの大きな魅力となっている。今日では、こうしたライヴに場所を提供している小さな店はたくさんあるだろうが、そのなかでもヴィオロンはとりわけ印象的な場所だと思う。

 それはたとえば、もしかすると、そのような人と人との親密な関係を求めているのが、この場所そのものかもしれないというような予想外のことからやってくる。様々な記憶をたたえた古びた家具調度品とともに、SP盤を聴く名曲喫茶の伝統をいまの時代に残そうとする阿佐ヶ谷ヴィオロンは、その配置からまるで教会の祭壇のように見えるオーディオ装置を中心に、現代では失われつつある人々の関係性を、どうにかしてつなぎとめようとしているかのように見えるからだ。考えすぎだろうか? こんなふうに固有の記憶とともにあるライヴ会場や、その建築構造が、しらずしらずのうちに演奏者に与える影響は、四谷にある喫茶茶会記にも共通していえるのではないかと思う。地下室のように窓のない喫茶茶会記は、扉を閉めれば密室状態となり、PA機材もないところから、ヴィオロンと同じように、あるいはヴィオロン以上に、密閉度の高い内的空間が形作られるからである。

 私が聴いたこれまでの公演とくらべると、この晩の演奏は、親密度がさらにあがったように感じられた。森順治との二度目のトリオだからだろうか。演奏者の相性のよさからだろうか。あるいはお互いを邪魔しないような楽器のバランスのよさからだろうか。そのどれもがありそうなことだが、それだけではなく、ピアノが回廊のうえに乗っていることから、また打楽器が少し広いスペースを必要とすることから採用された前2回のイレギュラーなポジションは、少しだけトリオの輪を乱して、聴き手の側に(半分だけ)演奏者の身体を開いたからではないかと思われる。インプロヴィゼーションの演奏を、演奏の外側にあって枠づけるポジションの問題は、ふだんあまり触れられることがないものの、とても重要な音楽の要素で、この場合、ホスト役のふたりが対面関係になっているか否かがキーポイントになっていると思う。この意味では、本シリーズを聴きはじめてから、私はおそらくこの日初めて「ベアーズ・ファクトリー」を聴いたはずである。ノイズを多用する高原のギター演奏、どっしりと重量感のある池上のコントラバス、そしてアブストラクトなメロディーを奏でる森の管楽器と、お互いに異質なサウンドが、ときおり高原の煽りに波打ちながら、それぞれの場所をうまく住みわけることで、アンサンブルに浮遊感を与えていく。

 ベアーズ・ファクトリーに森順治が加わったトリオ・インプロヴィゼーションは、それこそはじまりもおわりもない、はじまりがおわりであり、おわりがはじまりであるような演奏を展開した。激情でもなく、沈黙でもなく、すべてのものの中庸をいくような演奏。即興セッションは、高原が要望を出して、前後半のそれぞれに2曲ずつおこなわれた。第一部は、探りあうような出だしからスタート、しばらくすると、三つ巴になりながら混じりあうことなく、どんなに接近しても絡まりあうことのない不思議な糸のようにして浮遊感のあるアンサンブルが形成されていく。高原朝彦の10弦ギターにあらわれる破天荒なプリペアド・ノイズは、変態したハーモニーのようであり、池上秀夫のコントラバスにあらわれるジャズの記憶は、楽曲を強力に進行させ、森順治が演奏するサックスとフルートは、場面展開も多彩で、ときおり楽器をスイッチしながら、共演者ふたりの演奏の間を泳ぐように漂っていく。第二部では、前半にも増して、高原がノイジーなサウンドでアンサンブルを過激化していたのだが、最後の場面で、ギターの名曲「アルハンブラ宮殿の思い出」を引用、いかにも彼らしいやり方で演奏に意外性を与えていた。



【Bears' Factory|関連記事】                   ■「Bears' Factory Annex vol.5」(2012-02-27)          http://news-ombaroque.blogspot.jp/2012/02/bears-factory-annex-vol5.html      ■「Bears' Factory vol.11」(2012-01-23)          http://news-ombaroque.blogspot.jp/2012/01/bears-factory-vol11.html


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阿佐ヶ谷ヴィオロン