2012年3月22日木曜日

朴 在千+吉田隆一+佐藤えりか



Park JeChun 2012 Japan Tour
【副島輝人プロデュースの夜】
朴 在千吉田隆一佐藤えりか
日時: 2012年3月21日(水)
会場: 東京/入谷「なってるハウス」
(東京都台東区松が谷4-1-8 1F)
開場: 7:30p.m.、開演: 8:00p.m.
料金: ¥2,500+order
出演: 朴 在千(perc) 吉田隆一(brs, cl, fl, 口琴) 佐藤えりか(contrabass)
予約・問合せ: TEL.03-3847-2113(なってるハウス)


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 韓国フリーミュージックの創始者である姜泰煥の愛弟子として来日し、初めてその演奏に接してから、様々なシチュエーションで打楽器奏者・朴在千/パク・ジェチュンの演奏を聴いてきた。長いこと孤立無援を強いられていた韓国第一世代につづくミュージシャンの出現ということで、彼の存在は、その最初の登場の瞬間から、日本の関係者たちにも嘱望されるものだったのである。それぞれに特徴を出した佐藤允彦や大友良英とのデュオ(大友は、韓国公演した際に、あまりそうした資質があるとは思われない朴と、音響的なアプローチにも挑戦している)、パートナーであるピアニスト美妍/ミヨンとのポピュラーなジャズ・プログラム、そしてなかには詩人の吉増剛造や箏の八木美知依と共演した異色セットもあった。様々なタイプの音楽を経験して器用貧乏になることなく、朴在千はいつしか確乎とした彼自身の打楽スタイルを持つようになった。今回の来日ツアーでは、最終日に坂田明との初共演が控えている。合羽橋なってるハウスで開かれた初日のライヴには、サックス集団SXQへの参加や、自身のバンド “ブラックシープ” などで活躍するバリトンサックスの吉田隆一と、スガダイローの “秘宝館” などに参加しているコントラバスの佐藤えりかがゲスト出演した。吉田隆一は、バリトンの他に、クラリネットやフルート、さらに口琴などを用意(東北アジア音楽ネットワークへのオマージュ?)、第一部の冒頭でこれを使って演奏の導入部にした。

 切っ先鋭い剃刀パンチのように、リズムの中心を深くえぐって打ち出される強烈なドラミング、躍動する身体から放出される気持ちよいほどに透徹したピュアなサウンド、走り出したときの猛烈なスピード感、これらが一体となった朴在千のドラミングは、フリーフォームの演奏といっても、「パルス」と呼ばれるフリージャズ的なリズムの細分化からやってきたものではなく、パンソリのような韓国の伝統音楽で培われた固有のグルーブから生み出されてくるものだ。ドラムキットの構成に韓国の伝統楽器を入れるところに顕著だが、彼の演奏のベースには、土取利行のトーキング・ドラムとくらべられるような、2や3で割り切ることができない(西欧的でない)語りのリズムがあり、注意深く耳を傾けるなら、高速で展開されているドラミングの奥底に、ゆったりと振幅するバイオリズムのようなもの、盤石の呼吸法のようなものを感じ取ることができるのではないかと思う。それを「韓国的」といっていいのかどうか迷うところだが、朴在千の演奏は、リズムの切れ目や歌い方に(あるいは語り方に)、彼自身や共演者を鼓舞する声の出し方に、個人的な時間を超え、歴史的な時間のなかで磨かれてきた高い洗練度を感じさせるものがある。

 一年ぶりの「副島輝人プロデュースの夜」としておこなわれた、初日の合羽橋なってるハウス公演で、ゲスト奏者に迎えられた吉田隆一と佐藤えりかは、もちろんアンサンブル作りに不足のある相手ではなかったが、あくまでもジャズを演奏していた。集団即興がそのままフリージャズであるような意識のなかで演奏していた。その結果、ジャズ的な歌い方のパラフレーズ、パストラルな曲想の展開、お互いを駆り立てるようなホットな演奏といったものが、どこまでもクールな朴在千の演奏によって、強いコントラストを与えられることになったと思う。このことは、たとえば、1990年代に私たちが初めて韓国のシャーマン音楽に触れたとき、コントラバス奏者の齋藤徹が異国のリズムのなかにダイブしてゆき、サックス奏者の梅津和時がそれをジャズに接合するという対し方をしたことの相違を思い起こさせる。どちらの場合も、その場で即興的なアンサンブルが構成されることに変わりはなく、また朴在千がパルスのあるドラミングを拒絶しているわけでもなく、いずれにしても聴き手は、生命力にあふれた演奏を楽しむことができるのだが、こうした諸々の出来事を、朴在千がそれなりの結論を出した音楽上のアイデンティティのテーマにおいてみるとき、個別の達成はいろいろとあげられるものの、ジャズという音楽をいまもローカルに語りなおせていない私たちの問題が浮上してくるのではないかと思う。それは1980年代的な音楽的多様性の肯定のなかでは、解決されなかった問題だったといえるだろう。

 管楽器ならまだしも、強烈な打楽の音圧にベースが負けてしまう事態を回避して、ドラムヘッドを素手で叩いたり、シンバル類の細かな音を使うなどの気配りを示しながら、メンバーのひとりひとりにソロを回し、熱くくりひろげられたツーセットの即興セッション。過去に何度も見てきたように、ここでも朴在千は、聴いて、聴いて、聴きつくす人だった。共演者の一挙手一投足に全神経を集中するからこそ、アンサンブルの全体が精妙にコントロールされるという離れ業をしてみせたのである。



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   ■「朴 在千・佐藤允彦 DUO」(2012-03-29)
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なってるハウス