2012年7月2日月曜日

spaceone・6つの夜|第一夜



spaceone・6つの夜
Opening Special Event
「Live × Drawing  〜ライブ・バイ・ドローイング〜
即興演奏を描くドローイングワークショップ
第一夜:Opening Party「スペースにパワーを」
日時: 2012年7月1日(日)
会場: 東京/銀座「潦(にはたづみ)
(東京都中央区銀座7-12-7 高松建設ビル1F)
[マチネ]「Live × Drawing  〜ライブ・バイ・ドローイング〜」
キュレーター:シマジマサヒコ
開場: 2:30p.m.,開演: 3:00p.m.
[ソワレ]第一夜「スペースにパワーを」
キュレーター:松本健一
開場: 6:00p.m.~
料金: ¥2,000+飲食代
出演: [マチネ]藤井郷子(p)、高橋保行(tb)、Cal Lyall(g)
坂出雅海(b)、若杉大悟(ds)、村田直哉(turntable)
guest: Praha(dance)
[ソワレ]トーク:大熊ワタル、藤井郷子
演奏:マチネ出演者、大熊ワタル(cl)、井谷享志(ds)
松本健一(尺八)、中村 真(p)


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 アーティストが自由に表現できる場所をアーティストみずからの手で運営するという目的でスタートしたプロジェクト spaceone(発起人:藤井郷子、田村夏樹、松本健一、臼井康浩)が、やはり自由な表現の場を求めて昨年の10月から運営されている銀座七丁目の「Space 潦(にはたづみ)」(企画:中村真)に場所を借り、6日間の連続イベント「spaceone・6つの夜」を企画構成、7月1日(日)、記念すべき初日の幕を落とした。第一日目の演目は、マチネ公演で、シマジマサヒコ氏がキュレートを担当した「Live × Drawing ~ライブ・バイ・ドローイング~ 即興演奏を描くドローイングワークショップ」を、また夜に入ってからは、多くの関係者が参加してのオープニング・パーティー「スペースにパワーを」が開かれた。現在のところ、プロジェクト spaceone は、資本金が豊富にないこと、音出しが自由にできる環境が容易に見つからないことなどの悪条件が重なって、根拠地となる場所を探索中の段階だが、この spaceone 週間は、もし将来そのような場所が持てたとしたら、キュレーター会員のシステムを使って、さまざまな人に多様なプログラムを組んでもらい、現代人の眼鏡にかなうような多様な傾向を持った表現活動を紹介し、あるいはプロデュースし、さらには育てていくような運営をこんなふうにやっていくのだということを実地に見ることのできる、一種のデモンストレーション公演になっている。プロジェクトの綱領だけではイメージしにくい spaceone の内容が、こんなふうに示されるのはとてもわかりやすいし、それ以上に、すでに spaceone がはじまっていることを実感させる好企画だといえるだろう。

 以下、簡単に初日の経緯を追っておくと、冒頭でシマジ氏が簡単に経緯を説明した「ライブ・バイ・ドローイング」は、即興演奏を聴きながらその場で即興的に絵を描いていくというもので、これまで即興演奏を聴いたことのない参加者も加えてのワークショップだった。夜のパーティーに残られた女性の参加者が、トークの時間に発言を求められ、初めて即興演奏を聴いた感想を絵画的に表現していたのがとても印象深かった。描かれた絵は期間中、会場に展示されることになる。絵のモデル役をつとめた演奏は、前半と後半にわけられ、前半では、ふたつのトリオ(藤井郷子/Cal Lyall/高橋保行と村田直哉/若杉大悟/坂出雅海。後者にはゲストとしてベリーダンスのプラハが加わった)による比較的長めの即興演奏を、後半では、シマジ氏がメンバー選出をし、(1)高橋保行+坂出雅海、(2)藤井郷子+村田直哉、(3)Cal Lyall+若杉大悟、(4)Cal Lyall+高橋保行+村田直哉、(5)藤井郷子+高橋保行+坂出雅海、(6)高橋保行をのぞく全員、(7)坂出雅海+Cal Lyall、(8)若杉大悟+村田直哉+プラハ、(9)メンバー全員という、いろいろな組合わせで短い演奏をつなげていく構成がとられた。なかには絵には初心者という方もおられたが、演奏を聴くだけでなく積極的に参加されて、会場には絵心もスタイルもさまざまな絵がならんだ。アラブ風のコスチュームに身を包んだベリーダンスのインパクトは強く、絵の素材としてはもちろん、大きく開いた窓の外を通り過ぎる人々の関心を引きつけていた。

 夜に入ると、会場につながった厨房に出張ダイニングが開かれ、酒の肴や食べものが販売された。オープニングパーティーは田村夏樹氏の司会で進行し、マチネ公演に参加したミュージシャンが残って演奏した他に、第四夜に出演するドラムの井谷享志氏や、夜の部のキュレーターをつとめた松本健一氏が、予定になかった尺八演奏を「Space 潦(にはたづみ)」のプロデュースをしている中村真氏のピアノとのデュオで聴かせ、しめやかに、また格調高く初日の幕をおろした。こうしたなかで、パーティーの目玉となったのは、やはりシカラムータの大熊ワタル氏が駆けつけ、ゲスト・スピーカーとして藤井郷子氏との対談に臨んだトークであろう。ここで議論の細部にまで踏みこむことはかなわないが、spaceone にかける思いと現状の報告を受け、会場とのQ&Aのやりとりでは、場の運営ということを、音楽の方面からだけではなく、先入観をとりはらったいろいろな切り口で考えてみることや、音楽が専門家だけのものではなくなってきた社会事情、実際の物件だけではなく、交流そのものをひとつの場所として考えることもできるということ、そして最初から人がいないと決めつけるのではなく、肯定的な姿勢で臨むところから開けるものがたくさんあるのではないかという意見などが出された。音楽だけに限られない脱領域的な表現の多様性という点で、シマジマサヒコ氏がキュレートした初日の「ライブ・バイ・ドローイング」は、異分野の人の交流を促進する具体的な実践になっていたといえる。

 プロジェクト spaceone は発起人によって運営されるものだが、「6つの夜」のようなプログラムの多様性を確保するため、実現の過程において、将来的に、キュレーター会員を募るシステムを考えているようである。一言でいうなら、会員登録をすることで格安でオリジナルなプログラムが組めるというもので、この「6つの夜」でも、シマジマサヒコ、岡本希輔、三角みづ紀、航の諸氏をキュレーターとして迎えることで、spaceone 週間をバラエティのあるものにしている。かつてブーカルト・ヘネンがプログラムを組んでいたメールス国際ニュージャズ祭は、そこへいけば世界の音楽動向をつぶさに知ることができるという評判をとっていた。しかし現代日本のように、表現が細分化し、複数のジャンルにわたって交錯するようなありかたをしている社会では、どんなに優秀なプロデューサーをもってしても、聴くべき、見るべき表現のすべてをカバーしきれるものではない。情報の多様性と、消化しきれないほどの過大な分量が、かえって表現領域のパースペクティヴを見えにくいものにして、多様なるものの濃淡(価値の序列、優先順位といったもの)を判別不可能にしているからである。プロジェクト spaceone の試みは、もちろん拠点となるような場所がほしい、満足のいく表現をするために理想的な環境がほしいということもあるだろうが、それとともに、グループの活動を押しあげているもののなかには、見えにくくなった時代のパースペクティヴを、多様な人々の交流から浮きあがらせたいという欲求が隠されているように思われる。

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