2012年7月13日金曜日

The Tokyo Improvisers Orchestra 第2回公演迫る



フルートの Miya 
コントラバス/チェロの岡本希輔
ふたりがスタートさせたのは
即興演奏家たちのためのプラットフォーム
<東京インプロヴァイザーズ・オーケストラ>(TIO)
英国から来日中のテリー・デイをゲストに迎え
その第二回公演がおこなわれる


♬♬♬


 今年になってスタートしたこの即興オーケストラは、公演に向けて定期的にメンバーを集めたリハーサル・ワークショップを開いており、そのつど全員が顔を揃えられるわけではないにしても、コンダクションと呼ばれる「指揮される即興」の方法を中心とするオーケストラ音楽の作り方を周知したり、みずからコンダクションを試してみたり、公演に向けてのモチベーションを高めたり、日頃はなかなか機会のないメンバー相互の交流を密にしたりという、いくつもの重要な役割を果たしている。先月末の6月30日、来日直後のテリー・デイをメンバーに紹介するこの日、府中市朝日町にある東京外国語大学の大学会館で開かれたリハーサル・ワークショップの模様を見学させていただいた。日の暮れかかる夕方の4時から夜の8時にかけて、4時間もの長丁場ながら、ところどころで途中休憩をはさみつつ、みっちりとした合意形成の場が形作られていた。

 リハーサル・ワークショップは、大きくふたつの部分に分かれていて、最初のパートでは、講師役をつとめる entee が、基本的なハンドキューの示す意味と用法、またそのハンドキューを使ってオーケストラをどう鳴らすことができるかを、実際に演奏してみせる部分である。レクチャーの前に大音量のトゥッティ演奏がおこなわれ、entee が全体の音量バランスを調整する。その後で、ベーシックなものから高度なものへと説明は段階的に進むが、過去に使われたハンドキューのうち、これも大事ではないかということがメンバーから提案され、それもリハーサルのなかで再確認されるという意味では、とりあえずの講師はおかれているが、ありようはむしろ集団創造されるコンダクションとでもいうべきものになっていて、過去の権威化された指揮法をまるごと採用するといったものではなかった。即興演奏家たちが、自分たちの集団即興のために、約束事をその都度再構成していくようなフレキシブルなありかたをしている。このハンドキュー講義の間に、Miya に同道されたテリー・デイがやってきた。基礎的なハンドキューの確認作業のあと小休止、再開してから Miya が説明に立ち、メンバーの間から選ばれた指揮者が実際にコンダクションをしてみることになる。それぞれに集団即興のイメージを固め、必要ならば事前に自分の意図を解説するメールなどを送付し、さらにコンダクション前の説明とコンダクション後の意見交換を重ねていく。この日は、中垣真衣子(ヴァイオリン)、木野彩子(ダンス)、山田光(リード)、高橋英明(電子楽器)、テリー・デイの順番で進み、そして、ここからは次回に備えた練習ということで、時間いっぱいまで Miya、細田茂美(ギター)、カイドーユタカ(コントラバス)、entee が指揮に立った。

 ほとんどすべてのメンバーと初対面のテリー・デイは、空き時間を見つけては個々のメンバーに話しかける努力をし、ひとりひとりの名前を覚えることからオーケストラへの接近をスタートした。最初は、どのようなことが起こっているのか、リハーサルの進展を静観していたが、2時間ほどが過ぎるうち、山田光のコンダクションのときに、持参した鞄のなかから竹製の細い笛を取り出し、篳篥のような高い音で音出しをはじめた。その次に指揮に立った高橋英明が、コンダクションの過程でデイにソロをふるということもあり、少しずつオーケストラの集団性に慣れていったところで、彼が実際に指揮をしてみる番がやってきた。テリー・デイは、細かいハンドキューの約束事は使わず、自作の詩を朗読しながら、いわばそれを譜面がわりにして即興演奏をアレンジしていくというやりかたをしてみせた。パフォーマンス性にあふれたアクティヴな彼のコンダクションは、ちょうどひとりひとりの名前を覚えようとしてきた延長線上にあるかのように、メンバーとの間に一対一の関係性を求め、個々の演奏者の前まできては、詩の言葉に即興で応じるよう身振りするのである。そうしたソロの対話は全員による即興的トゥッティに何度も戻っていく。この部分は「指揮された即興」というより、むしろ一種のコール・アンド・レスポンスのように聴こえた。テリー・デイがメンバーにもたらした情熱と快活さは、またたく間に彼をメンバーの一員としたのである。

 銀座七丁目の「Space 潦(にはたづみ)」で開催された spaceone の音楽週間の第二夜で、岡本希輔がキュレートした「ドガの踊り子たち」(7月2日)もまた、TIOをプラットフォームにするプログラムのひとつだった。周辺の表現領域も視野に入れながら、ミュージシャンたちが自分たちの拠点となるような場所を持とうとするプロジェクト spaceone との交流は、TIOにとっても重要な出来事ではなかったかと思われる。テリー・デイ来日をきっかけに、ミュージシャンたちの間に緩やかなネットワークを作り出していくことができるなら、それはかならずや、新たな音楽創造へとつながっていくはずだということを、彼らは確信しているようだ。リカルド・テヘロを特別ゲストに迎え、今年の3月10日に浜田山会館で開催された第一回<TIO公演>につづき、東京中野にある野方区民ホールで開催される第二回<TIO公演>は、音楽創造の現場であることはもちろんのこと、こうした日常性のなかのミュージシャン・ネットワークを可視化する象徴的な役割も持っている。世界的な規模で起きている現在進行形の出来事の一端を、この日本で居ながらにして目撃できる絶好のチャンスになることだろう。



※写真はすべて外語大の学生会館でおこなわれたリハーサル・ワークショップの模様。上から順番に、この日コンダクションに立ったメンバーのうち、テリー・デイ、(ハンドキューの意味を解説する)entee、高橋英明、Miya、カイドーユタカの諸氏の順でならんでいる。

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The Tokyo Improvisers Orchestra
2nd Concert
日時: 2012年7月16日(月・祝)
会場: 東京/中野「野方区民ホール」
(東京都中野区野方5-3-1)
開場: 7:00p.m.、開演: 8:00p.m.
料金/予約: ¥2,000、当日: ¥2,500、学生: ¥1,500
問合せ: TEL.03-6804-6675(Team Can-On
E-mail: team.can-on@miya-music.com

The Tokyo Improvisers Orchestra
violin: 島田英明 中垣真衣子 小塚 泰
cello: 岡本希輔 contrabass: カイドーユタカ Pearl Alexander
flute: Miya bamboo flute: Terry Day
oboe, English horn: entee reeds: 堀切信志 森 順治 山田 光
trumpet: 横山祐太 金子雄生 trombone: 古池寿浩
guitar: 臼井康浩 細田茂美 吉本裕美子
electronics: 高橋英明 drums: 荒井康太
percussion: 松本ちはや percussion, vo: ノブナガケン
piano: 荻野 都 照内央晴 voice: 蜂谷真紀
reading: 永山亜紀子 dance: 木野彩子 佐渡島明浩

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