The 7th ACKid 2012
小宮伸二+吉本裕美子
日時: 2012年4月22日(日)
会場: 東京/明大前「キッド・アイラック・アート・ホール」
(東京都世田谷区松原2-43-11)
開場: 4:30p.m.、開演: 5:00p.m.
料金/前売り: ¥2,000、当日: ¥2,500
出演: 小宮伸二(美術) 吉本裕美子(音楽)
照明: 早川誠司 企画: HIGUMA
主催: ACKid 実行委員会
予約・問合せ: TEL.03-3322-5564(キッドアイラック)
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毎年4月に定期公演されている明大前キッド・アイラック・アート・ホールのオリジナル・プログラム<ACKid>は、「音楽だけでも美術だけでも身体だけでも表現できない、視覚と聴覚と触覚とが融合した身体感を体感する表現の試み」を合言葉に、ジャンルの異なる表現者がコラボレーションするプログラムを集めた芸術週間のことである。「ACKid」の「AC」は「Art Collaboration」の略称というわけで、芸術の総合的な表現を目指して2006年にスタートしてから、今年で7回目となる。キッドでお馴染みのアーチストたちが複数回参加しているが、本年度の初日公演は、函館在住の美術家である小宮伸二が作りあげたインスタレーションのなかで、ギタリストの吉本裕美子がサウンド・パフォーマンスするというプログラムだった。吉本の参加は、やはりキッドで大晦日に定期公演されている<除夜舞>での演奏が機縁になったと推察されるが、彼女にとって、インスタレーションとの “共演” というのは、ライヴハウスなどでいつもしている即興セッションやソロ演奏、あるいはダンサーとのコラボレーションとも少し趣きの違う環境下でのパフォーマンスとなったのではないだろうか。
キッドで音楽公演がおこなわれる際にはいつも観客席の最後列になっている場所、階上に音響・照明ブースをいただく凹みのスペースが、大きな白いカーテンで仕切られている。そのかわり、いつもはステージになる場所の壁際に、ぐるりと椅子が並べられて観客席が作られている。吉本裕美子のギターやエフェクター類を乗せたテーブルはカーテン前にセッティングされ、白いカーテンには病院で使われる点滴の瓶から受け皿にしたたり落ちる水紋が、照明の光を反射して大きく映し出されている。カーテンのこちら側にも、会場の四隅と中央の五ヶ所に点滴の瓶と受け皿が配置され、ポチャリ、ポチャリと受け皿に落ちる水滴の音が、増幅して会場に流されている。公演には多くの観客が詰めかけ、椅子が足りなくなると座布団を使って順次あいている床を埋めていった。大入り満員である。会場照明は、点滴のラインに沿って受け皿を照明する5点と、カーテンに映し出された水紋のみ。演奏家には、足もとの投光器から弱い光が出ているだけだったが、パフォーマンスの後半になると、吉本の周囲を白いハロゲンライトがほんのりと浮かびあがらせていた。時間の移行が、音だけでなく、光によっても語られている。
水紋の光と水滴の音は、吉本のパフォーマンスがはじまる前から、また終わったあとも持続している(ものと想定されている)。それとは対照的に、約一時間のパフォーマンスを、吉本は連続するひとつらなりのものとしてではなく、いくつかに区切って構成した。(1)幕の向こう側に映し出される影の歩行(影はギターを持っている)、(2)ヘッド部にたくさんの鈴やラトル類をさげたガットギターを鳴らしながら観客席に入りこみ、中央に置かれた受け皿に触れて音を出す、(3)幕前に戻ってのガットギター演奏。なにがしかの音楽スタイルのある演奏ではなく、ギター弦をランダムにつま弾き、かき鳴らすような演奏、(4)録音された環境音を流しながらするガットギターの演奏、(5)キリル文字で音が表記されたグルジアのおもちゃの鉄琴を鳴らしながらの会場歩行(環境音の持続)、(6)幕前に立ってのエレキギター演奏(最初と最後の部分にだけ環境音が重なる。最後の部分の環境音は「雨音と雷鳴」)、(7)床においたギターにe-bowを乗せてノイジーな自動演奏させたまま、演奏者が退場する(ロックショーでお馴染みの終演のスタイル)。暗転。
長いパフォーマンスをいくつかに区切って構成するというのは、通常の音楽演奏ではあたりまえのことに属するが、「視覚と聴覚と触覚とが融合した身体感を体感する」ことがテーマの<ACKid>においては、少し別様の視点から見ることが必要になると思う。というのも、構成のある吉本の演奏は、水滴のあるインスタレーション環境とは別に、彼女自身のパフォーマンスのなかに、一度通ったら戻ることのできないいくつかの部屋を用意したことを意味するからである。点滴からしたたり落ちる水滴の音のような環境に耳を(身体を)開くため、サイトスペシフィックな態度をとることのある現代の即興演奏が、ときに長時間の沈黙をすることもあることを考えれば、光と影から構成される小宮伸二の(空間)世界に、吉本は彼女自身の(時間)世界を斜めに交差させながら通り過ぎていったということができるように思う。両者の間をつなぎとめているのは、それ自身なんの意図ももたない、点滴のカテーテルからしたたり落ちる水滴の音であり、この意味において、パフォーマンスの前半部分で、吉本がガットギターのヘッドで受け皿に触れて音を出したのは、ふたつの世界を触れあわせる象徴的な行為になっていたと思う。
本公演をもって今年7回目となる<ACKid>の幕が開いた。■
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明大前キッド・アイラック・アート・ホール