Gianni Gebbia・林 栄一
Live at Sound Café dzumi
日時: 2012年4月5日(木)
会場: 吉祥寺「サウンド・カフェ・ズミ」
(東京都武蔵野市御殿山 1-2-3 キヨノビル7F)
開場: 7:00p.m.,開演: 7:30p.m.
料金: ¥2,500(飲物付)
出演: ジャンニ・ジェッビア(as) 林 栄一(as, ss)
予約・問合せ: TEL.0422-72-7822(カフェ・ズミ)16:30~22:00
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この晩が初共演となったジャンニ・ジェッビアと林栄一。弦楽器などとくらべると、はるかに深くジャズの刻印を帯びているアルトサックスの名手どうしの出会いは、リングの中央に立って打ち合いをつづけるヘヴィー級のボクシング試合になったかと思えば、花畑を軽やかに舞う二匹の蝶になったり、片方がリズム・パターンを出して相手にソロをさせたりと、ひとときも休むことなくサックスの関係性を変化させていきながら、前半と後半の二部にわかれた45分ずつのセッションを、一気に駆け抜けていくような演奏を聴かせた。手癖のように出てしまう、ジャズの名曲の片鱗をのぞかせる緩急のメロディーを奏でることはもちろん、マルチ・フォニックス奏法からサーキュラー・ブリージングまで、サクソフォン演奏の秘術をつくしてのツーラウンドは、特殊奏法ひとつが、演奏テクニックの羅列に終わることなく、その場で音楽の雰囲気をがらりと変えていくという、聴きごたえ満点のものだった。
しかしながら、全身全霊を傾けてサックス管に息を吹きこみつづける林栄一と、つねにアンサンブルの風通しを考えながら場面構成していくジャンニ・ジェッビアは好対照の演奏家といえるだろう。林栄一は流木をそのまま床の間に飾ったような生地の人であり、音の魂を尊ぶ演奏家であるのにくらべ、戦略家であるジェッビアは、周囲に怠りなく気を配り、ときには演奏の外に出るため、思い切った奇抜さに身を委ねるハプナーの側面を持っている。ステージには二脚の椅子が用意され、ビルの七階にある吉祥寺ズミの名物である、窓外に広がる井の頭公園の黒い森を背景に、ふたりがともに立ったり、座ったり、あるいは片方が立ったり、座ったりという変化をつけながら演奏していた。こうした環境だけでなく、演奏そのものに変化をつける工夫も事前に考えられていて、林栄一は持ち替え楽器としてソプラノを持参し、ジェッビアは、ナンセンスを愛する彼らしく、電子音の出る音響ガジェットや、マウスピース部分につけられる奇妙な筒のようなものを使った演奏を、前後半にそれぞれはさみこんでいた。
個人的には、ヨーロッパを代表するといいたい名人技でソロ演奏をするジャンニ・ジェッビアだが、頻繁に来日するようになって知ったのが、なんと評価したらいいものか、この電子音の出る音響ガジェットを使うような、聴き手を戸惑わせる演奏とも言えない演奏である。むしろそれは、ジャズや即興演奏の文脈を支えている生真面目さに対する強力な解毒剤として働くように思われる。オーネット・コールマンのヴァイオリン演奏だとか、ローレン・ニュートンや蜂谷真紀の玩具の使用にも、似たようなことが言えるだろう。しかしながら、ジェッビアの場合、解毒剤が強力なあまり、適切な関節外しであるべきところが、ほんとうに音楽を破壊してしまうことがあるように思われる。すなわち、せっかくそこまで作りあげてきた音楽を、一挙にくだらないものに、理解不能のものにしてしまうダダイスティックなふるまいとなって、ライヴの性格を別のものに変えてしまうのである。ここまでくると、それが音楽戦略なのか、彼の個人的趣味なのか、なんとも言えなくなってくる。サックスのベルにゴム手袋をぴっちりはめ、演奏をしながら息を吹きこむたびに、グリーンやピンクのゴム手がベルのうえに(性器のように)むっくりと立ってくるというようなパフォーマンスを、どんな意味でも、音楽的に受け止めることはできないだろう。
この晩のデュオ演奏では、魂の人・林栄一が、ジェッビアの関節外しの演奏に見向きもしなかったので(これまでの来日公演を見たかぎりでは、どんな共演者も、彼のこうした演奏を無視するしかなかったのではあるが)、全体的にはライヴの集中力が拡散せずに最後まで保たれたように思う。第二部で披露されたマウスピース部分に奇妙な筒をつけての演奏は、メロディーの他に、一定の音高のノイズを出しつづけるため、結果的に得られるバグパイプのような効果が面白かった。彼のこの “演奏” が、サックス二本のバトルが袋小路に陥らないための妙案だったのか、演奏を通した両雄の語りあいを単に阻害しただけなのか微妙である。評価は聴き手次第だろう。ジャンニ・ジェッビアはナンセンスを愛する芸術家だとしか言いようがない。もしかしたらそれは、彼が日本で学んでいる禅の思考方法と関係があるのかもしれないが、なんだかシチリア風味を加えた禅問答のような気がしないでもない。■
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吉祥寺サウンド・カフェ・ズミ