2012年4月3日火曜日

木村文彦:キリーク


木村文彦
キリーク
(地底レコード|時弦-007)
曲目: 1. Track 1(02:07)、2. Track 2(04:27)、
3. The middle line(05:45)、4. Track 4(03:27)、
5. The land of 'Yomi'(05:07)、6. Track 6(04:02)、
7. Track 7(01:19)、8. 奔馬(02:05)、9. Track 9(02:21)、
10. To white(05:53)、11. Track 11(03:27)、
12. New sights(12:01)
演奏: 木村文彦(ds, perc)
磯端伸一(g)on 3, 10 向井千惠(胡弓, voice)on 12
山口ミチオ(synthesizer) on 5 宮本 隆(e-bass guitar)on 8
録音: 2011年8月21日─10月2日
場所: 大阪府/吹田市「studio You」
エンジニア: 大輪勝則
制作: 宮本 隆(時弦旅団)
発売: 2012年4月15日



♬♬♬


 音楽はすべからくそのようなものだと思うが、打楽というのもまた、たたかれるものに意味があるのではなくて、たたく行為そのものに意味がある。打撃と声は、ともに楽器以前に存在するものであり、そうであるがゆえに、私たちが「音楽」と呼ぶものにおいて、ときにそのありようを脅かすこともあるような、根源的な部分をなしている。打撃と声は、ものの根源にある原色の感情に、ダイレクトに接続することのできる響きの回路なのである。関西を拠点に活動している打楽器奏者の木村文彦は、そのような原色の感情に遡行するために、たたくことのできるものをすべてたたく。それは世界をたたくことそのもののようでもある。タムタム、ミニスネアドラム、大小のシンバル、鉄琴、スリットドラム、スプリングドラムといった通常の打楽器はもとより、大太鼓、玩具太鼓、タブラッカ、サンバホイッスル、スティールパンなどの民族楽器、さらにはこうした雑多な打楽器類に混じって、ゴミ箱、ポリバケツ、フライパン、ホーロー鍋、電気ストーブといった日用品がならべられることになる。ここに声と身体が深く関与することは言うまでもない。

 ジャズロック・グループ “時弦旅団” へのゲスト参加が縁となって製作された木村文彦のファースト・アルバム『キリーク』(「キリーク」とは千手観音菩薩や阿弥陀如来を意味する梵字の呼び名。アルファベットにおけるAのようなもの)には、世界をたたく木村文彦のふたつの側面が収録されている。ひとつは、一枚の音響絵画を描くことでキリーク打楽の魅力を引き出そうとする側面で、時弦旅団の山口ミチオが教会オルガン風のシンセ・サウンドをオーバーダブした「The land of 'Yomi'」や、宮本隆のエレクトリックベースを加えて生命力のあるサウンド流を作り出した「奔馬」などの曲に聴かれるものである。もうひとつは、ドラマーであることを逸脱していくようなインプロヴァイザーの側面で、即物的なノイズを生み出す磯端伸一のギターや、数学的に分割できない時間感覚をまるごと聴き手に突きつける向井千惠のパフォーマンスと共演した演奏などである。特に30分のパフォーマンスを12分にまとめたという後者の演奏は、向井千惠という、インプロヴァイザーというよりむしろ固有の存在といったほうがいいような個性との出会いから、打楽が声のようなものとして立ちあらわれる即興のありようを、木村にもたらしたように思われる。

 ものの表面との接触によって立ちあらわれる即物的なサウンドを、反復する時間のなかに置きなおすことで、打楽は世界を支配するリズムの王国を形作るようになる。この音とあの音と、交換不能のノイズは、ひとつのリズムを持ったひとつの時間をともに生きることで、お互いが交換可能なものへと変貌していく。打楽器、民族楽器、日用品が、キリーク打楽のもとに統合されていく。それとはまったく逆に、彼が選択した即興演奏は、これら多種多様のサウンドを反復の外に持ち出し、別々の、けっしてひとつにはならない特異的なノイズとして切り離していく。パフォーマンスのいかなる瞬間においても、真逆の方向を指し示すこのふたつのベクトルが、キリーク打楽を引き裂いている。木村文彦のサウンドが持っている原色の生々しさは、おそらくここから吹き出してくるのではないだろうか。




-------------------------------------------------------------------------------

地底レコード