2013年5月15日水曜日

【CD】磯端伸一 with 大友良英: EXISTENCE



磯端伸一ソロ&デュオ with 大友良英
『EXISTENCE』
時弦プロダクション|jigen 008|CD
曲目: 1. 鏡の子供 (3:12)、2. 斑猫 (1:39)
3. duo untitled 1 (2:09)、4. 夕立 (2:35)、5. 鰍 (1:41)
6. 晩夏 (2:01)、7. duo untitled 2 (3:50)、8. 小妖精 (2:47)
9. 絣 (1:11)、10. duo untitled 3 (3:03)、11. 綿飴 (1:46)
12. 影絵 (2:43)、13. duo untitled 4 (1:40)、14. 街灯 (1:52)
15. 鰯雲 (2:41)、16. びいどろ (0:31)、17. duo untitled 5 (2:43)
18. ほたるぶくろ (1:14)、19. 真鍮 (2:53)、20. 優しい午後 (3:09)
21. 海と坂道 (2:46)、22. 鱗粉 (1:13)、23. duo untitled 6 (2:23)
24. 月下美人 (1:20) total time: 53:02
演奏: 磯端伸一(guitars) 大友良英(guitars)
録音: 2013年1月16日-2月12日
場所: 大阪「Studio You」
ジャケット画: 小谷廣代
エンジニア: 大輪勝則
発売: 2013年5月12日



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 本盤にジャケット画を提供した画家の小谷廣代は、大阪本町でギャラリー・カフェシェ・ドゥーヴル(「作品の家」という意味)を経営している。この店の奥にもうけられた展示室を、演奏活動の拠点にしてきたのがギタリストの磯端伸一だ。磯端が長い時間をかけて築きあげたソロ演奏と、かつて故・高柳昌行の私塾でともに一時期をすごした縁を現在の時点で結びなおすため、大友良英を迎えておこなったデュオ演奏を収録したアルバム『EXISTENCE』が、大阪の時弦プロダクション(主宰:宮本 隆)からリリースされた。30秒ほどの「びいどろ」を例外に、すべてが1分から4分までという短かさのソロ演奏の間に、大友良英とのデュオ演奏から切りとられた6つのショートトラック「duo untitled」が散りばめられている。美的な質を帯びた静かで円環的な世界と、対話を通じて荒々しいなにものかに開かれる世界とが交錯し、特にソロ演奏では、瞬間的な響きのはかなさのなかに、根源的なイメージをつかみ出そうとしている。まさに師である高柳昌行がそうであったように、あらゆる音楽に開かれているがゆえに、あらゆる音楽的な潮流から画然と離れているような音楽といったらいいだろうか。

 全部で18ある断片的なソロ演奏は、デレク・ベイリーを思わせるハーモニックスや、高柳やキース・ロウなどがしていたヴァイオリンの弓を使った弓奏などの前衛的な手法から、ジャズのフレージングやコード進行を使う演奏、エレクトロニクス音楽と見まがうようなサウンドの提示、さらには邦楽器を模した演奏までと、幅広いスタイルを横断しているが、簡潔にして明瞭なサウンドの提示と、刈りこまれ、磨きこまれた演奏の洗練度によって、どの楽曲も静謐なたたずまいを見せている。楽曲のひとつひとつには、「斑猫」「鰍(かじか)」「晩夏」「影絵」「鰯雲」というように、日本画の画題を思わせる、即興アルバムには珍しいタイトルがつけられている。これは標題音楽を演奏しているということではなく、先述したように、磯端の音楽の核心が、イメージの根源性を求めるところにあるからと理解すべきことのように思われる。視覚芸術の領域だけではなく、文学や音楽、ダンスや演劇などの根底をもなしているイメージの根源性。これは共演した大友良英の音楽ともども、ギター演奏において、高柳昌行亡きあとの新たな局面を開くものといえるだろう。

 磯端自身が「今の自分の音楽が最も自然に、そして自由にコラボレートできるミュージシャン」と認める大友良英とのデュオにおいて、大友はソロ演奏における磯端の円環世界を破るような演奏をし、磯端も果敢にこれに応じて、荒々しいサウンドによる対話を試みている。事柄のよしあしではなく、対話とは暴力的な開けであろう。デュオ演奏におけるエレクトリックなサウンドの荒々しさは、そのことに対する(とりあえずの)合意として存在している。もちろん高柳の<汎音楽>を引き継ぐこのふたりが参照する音楽の領域は広大なもので、「duo untitled 2」では、ノイズとハーモニクスにあふれる不穏かつ静謐な演奏が、また「duo untitled 3」では、大友が磯端の音楽のなかに入ってアコースティックなサウンドのたゆたいを聴かせる。収録された演奏はとても短いものなのだが、そのひとつひとつがそれぞれに聴きごたえのある音楽たりえているのは、それらが新たな出会いを重ねるデュオのいまを刻印しているからに他ならない。

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