2012年10月27日土曜日

【CD】300 BASSES: SEI RITORNELLI




300 BASSES
Alfredo Costa Monteiro - Jonas Kocher - Luca Venitucci
SEI RITORNELLI
Potlatch|P 212|Digipack CD
曲目: 1. Fuoco Fatuo (10:35)、2. Abbandonado (7:42)
3. Gira Bile (4:46)、4. Mala Garne (10:08)
5. Maledetto (7:54)、6. Fantasma (7:04)
演奏: Alfredo Costa Monteiro (accordion, objects)
Jonas Kocher (accordion)
Luca Venitucci (accordion, objects)
録音: 2011年11月23日-25日
場所: L'Arc Romainmôtier, Switzerland
デザイン: Octobre



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 ポルトガル出身でパリに長く滞在したアルフレッド・コスタ・モンテイロ、スイスのジョナス・コッシャー、イタリアのルカ・ヴェニトゥッチという三人のアコーディオン奏者が、昨年の11月、ともにスイスのロマンモティエにある文化施設ラルクにレジデンスしたとき収録された演奏が、フランスのポトラッチ・レーベルからリリースされた。トラッド系の音楽を予想しやすいアコーディオン・トリオのフォーマットだが、その片鱗は微塵もなく、ジャバラから送り出される空気の音だとか、リズムもメロディもない楽器の一音を(ときには複音を)保ちつづけるだけのサウンド・インプロヴィゼーションが展開されている。本盤に先行する試みとして、ソプラノ・サックス奏者のトリオを集めたミッシェル・ドネダの『Placés dans l'air』(2003年)がおなじポトラッチからリリースされているが、和声はもちろんのこと、メロディやリズムを排除してサウンドの地肌をむき出しにするという方向性はまったく変わらない。ソプラノの息のサウンドに相当するジャバラの空気のサウンドというのは、もしかすると偶然ではないかもしれない。なかでモンテイロとヴェニトゥッチは金属系のサウンド、あるいは電子ノイズを出す小物楽器も演奏しており、いっこうにジャバラ楽器らしくないアコーディオンのアブストラクトな響きと絶妙な匙加減でブレンドされている。こうした即興の最新動向は、美術のアンフォルメルに相当する、音楽の皮剥き作業と呼べるようなものだろう。

 サウンドの地肌をむき出しにしようとするこれらの試みは、同時に、たくさんの衣類を着こんで(安心して)いた聴き手の音楽に対する感覚をも、裸にせずにはおかない。それにもかかわらず、彼らの演奏は即興演奏であり、けっしてコンセプチュアルな音楽実験でも実験音楽でもなく、あくまでも演奏者たちの感覚そのものをぶつけあうところに主眼がおかれている。「特殊奏法」という言い方そのものが、これらの演奏を辺境的なものと錯誤させてしまうが、(一音だけを使うというような)極端な制限を与えられた即興演奏が、その不自由さのなかで、対話的な環境を作り出すためにトリオを構成するというのは、即興演奏を次なるステップに進ませるための順当な方向性だろう。そこで試みられる対話のなかでは、サウンドどうしが感応しあうような、これまでにない新しいスタイルが発見されている。金属ノイズや電子ノイズを加えることも、たとえば、過去にインスタレーションをしていたモンテイロなどにとっては、自然な作業であると同時に、響きのバラエティーが確保されることで、音楽経験をより豊かなものにするための配慮につながっている。リダクショニズムのような制限的な演奏方法は、すでに新しい発見ではない。そこで見いだされたサウンドの地肌に、演奏者がいったいなにを感覚しているのかが、サウンド・インプロヴィゼーションによる対話のなかで浮き彫りにされているのである。

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