2012年10月26日金曜日

【CD】Ensemble X



Ensemble X
ensemble X
Red Toucan|RT 9344|CD
曲目: 1. X113 (16:53)、2. X8 (19:52)
3. X112 (15:53)、4. X111 (13:07)
演奏: Martine Altenburger (cello)、Tiziana Bertoncini (vln)
Uli Böttcher (electronics)、Xavier Charles (cl)
Markus Eichenberger (cl)、Nicolas Desmarchelier (g)
Carl Ludwig Hübsch (tuba, ensemble initiator, catalyst)
Harald Kimmig (vln)、Dirk Marwedel (extended sax)
Matthias Muche (tb)、Nils Ostendorf (tp)
Ulrich Phillipp (b)、Christoph Schiller (spinet)
Angelika Sheridan (fl)、Olivier Toulemonde (objects)
Michael Vorfeld (perc)、Nate Wooley (tp)
山田衛子 Eiko Yamada (recorders)、Philip Zoubek (p)
録音: 2008年12月11日、2011年5月22日
エンジニア: Carl Ludwig Hübsch
場所: ドイツ・ケルン「フランス学院」、
ドイツ・ベルリン「エクスプロラトリウム」
デザイン: Marcel Boucher


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 現在はケルンを拠点に活動しているチューバ奏者カール・ルートヴィッヒ・ヒュプシュが、200812月、スイスのバーゼルで開催された「リトルバング即興シンポジウム」の開幕コンサートに、ラージ・アンサンブルでの公演を委嘱されたところからスタートした16人編成のアンサンブルXが、このとき地元ケルンで収録されたスタジオ録音と、20115月にベルリンで収録された演奏をまとめ、カナダのレーベル<Red Toucan>から初のアルバムをリリースした。ドイツ在住の山田衛子がリコーダーで参加している。個性的なソロ演奏の応酬が要となってきた伝統的な即興オーケストラのスタイルから距離を置き、メンバーがその場で生まれるサウンドの生態系を注意深く聴きあい、アンサンブル全体をまるでひとつの生命体のように息づかせることがテーマとなった集団即興で、ミクロなサウンドの動きにメンバーが即座に応じるという、隅々にまで張りつめた緊張感が、アルバムの全体を貫いている。グループのリーダーは存在せず、世話役のヒュプシュも「首謀者 initiator」「触媒役 catalyst」とクレジットされている。光をキラキラと反射しながら、山頂から降りてくる霧のように、あるいは真夏に沸き立つ入道雲のように、形なく動きつづける無数のサウンド断片が、まるで意志を持っているかのようにそれ自身を呼吸している。

 即興演奏の歴史をひもとけば、オーガニックに自生するサウンド群に焦点をあてたこうした即興アンサンブルは、1990年代からすでにあちこちで姿を見せるようになっていた。例えば、よく知られたところでは、ソ連の作曲家グバイドゥーリナがススリンなどと組んで即興演奏していたグループアストレイアの演奏などにも、それまでの西欧的な即興概念を超えるような、あるいは個の表現を相対化していくような契機がはらまれていた。はるか東方にあって、西欧的なるものを迂回していこうとするロシア独自の方向性は、モスクワに文化センタードムを設立したプロデューサー、ニコライ・ドミートリエフにも受け継がれた。その意味でいうなら、アンサンブルXの演奏は、新機軸を出したというより、このように地下水脈となって流れる脱西欧的なサウンド・インプロヴィゼーションの系譜に連なる流れといえるだろう。洗練された演奏能力、洗練された耳の存在は、サウンド断片の粒がみごとに揃うところにあらわれているが、それが現代音楽を連想させる硬質な感じを帯びてしまうのは、やはりヨーロッパの文化的な特性ということになるのだろうか。




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