2012年10月23日火曜日

【CD】長沢 哲: 凪に眠る 波に遊ぶ vol.7


長沢 哲 Solo Improvisation Live
凪に眠る 波に遊ぶ vol.7
Fe-T.NGSW|no serial number|CD-R
曲目: 1. 2005.7.20 ♯1 (4:02)、2. 2005.7.20 ♯2 (9:01)
3. 2005.7.20 ♯3 (5:57)、4. 2005.7.20 ♯4 (5:37)
5. 2005.7.20 ♯5 (5:58)、6. 2005.7.20 ♯6 (5:25)
7. 2005.7.20 ♯7 (9:49)
演奏: 長沢 哲(drums, percussion)solo
録音: 2005年7月20日
エンジニア: 飯島拓也
場所: 東京・荻窪「cafe gallery ひなぎく」
写真&デザイン: 長沢 暁

※アルバムは下記のサイトから購入が可能




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 2000年代の中盤、打楽の長沢哲が、かつて荻窪にあったカフェ・ギャラリーひなぎくで開いていたコンサート・シリーズ「凪に眠る 波に遊ぶ」のライヴ演奏をCD-Rでリリースしている。中央線荻窪駅の沿線にあったひなぎくは、裏窓から中央線の線路が見えるような環境にあり、本アルバムにも、静謐な打楽器のサウンドに重なって、減速しながら駅に滑りこんでくる電車の響きが聞こえてくる。それだけでなく、突然、扉を開けて入ってくるカフェの客や、身近で息をひそめている人のけはいなども収録されている。こうした日常的な音とともにある打楽サウンドは、2005720日のひなぎくの空気をまるごと封じこめた缶詰のように、長沢哲が生きたある時代をスナップしたものといえるだろう。数年にわたって継続されたひなぎくでのソロ公演であるが、本盤はベスト演奏集として製作されたものではなく、ある日あるとき、そこにあったすべての音がひとつの命を形作るようにして収録された、日付のある音楽なのである。

 「凪に眠る 波に遊ぶ」というタイトルに言いあらわされている、静かに息づく打楽のバイブレーションは、現在のソロ演奏にもまるごと引き継がれている。しかしそれだけでなく、この時代の長沢打楽を支えるもうひとつの大きな特徴は、ときにそうしたバイブレーションを断ち切って出現するサウンドそのものへのダイレクトな集中である。隙間の多い、多くの沈黙をうちにはらんだサウンド構成は、なによりもそうした響きを徹底して聴きたいと願う耳の欲望から生まれてきたものであることが、雄弁に物語られている。リズムは不均衡なものとなり、こういうサウンドをあらしめたいという欲望の絶対的な速度によって、生まれたての無垢な状態で楽器から引き出されてくる。長沢打楽の魅力のひとつは、こうしたサウンドとの根源的な関係を、聴き手にもういちど思い出させてくれるところにあるのではないだろうか。なかでも何度もくりかえしあらわれる鉄琴の響きは、小さな存在に対する彼の心よりの共感を示すとともに、ガムランに通じる幻想的な雰囲気が、アジア的なるものへの嗜好も反映していて、特別に印象深いものとなっている。

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