Special Session feat. SALK
ダニエル・ビュス - クミコ・オカムラ - 広瀬淳二 - 吉本裕美子
Daniel Buess - Kumiko Okamura - Junji Hirose - Yumiko Yoshimoto
日時: 2012年9月24日(火)
会場: 東京/阿佐ヶ谷「イエロービジョン」
(東京都杉並区阿佐ヶ谷北2-2-2 阿佐谷北2丁目ビル B1)
開場: 7:30p.m.、開演: 8:00p.m.
料金: ¥1,800+drink order
出演:ダニエル・ビュス(percussion, drums, noise, electronics)
広瀬淳二(tenor sax)吉本裕美子(guitar)
※クミコ・オカムラは体調不良で不参加。
予約・問合せ: TEL.03-6794-8814(Yellow Vision)
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スイスのバーゼル市に在住するドラム/エレクトロニクス奏者ダニエル・ビュスと、ギターとヴォイスのクミコ・オカムラのふたりが、“SALK” を結成して来日ツアーをおこなう機会をとらえ、積極的な演奏活動を展開しているギタリストの吉本裕美子が、サックスの広瀬淳二を誘ってデュオをフィーチャーする即興セッションを組んだ。ビュスはこれまでにも何度となく来日しているとのこと。コンサート当日は、オカムラが体調を崩して参加できなくなったためトリオ編成となり、プログラムを変更して、第一部はトリオ演奏(ビュスはドラムも演奏、19分)とビュスのソロ(25分)、第二部は広瀬+吉本(18分)、ビュス+吉本(11分)、ビュス+広瀬(6分)という三組のデュオ演奏がおこなわれた。セッションはいずれも初共演のセットであった。ライヴ当日、「ZENI GEVA」のロゴが入ったTシャツを着用したビュスは、打楽器の衝撃音をノイズとして感覚するようなタイプの演奏家で、さまざまな民族音楽を学んできた経歴を持ちながらも、即興セッションにおいては、打楽器や電子ノイズによるハードコア色の強いエネルギー・ミュージックを指向しているように思われた。シンプルな道をたどって即興演奏にやってきているわけではない共演者ふたりを、彼はどのように感じただろうか。
サウンドの意味を支える音楽ジャンルをはずれていくとき、ジャズを経由した即興演奏は、イディオムによる対話的なシチュエーションを前面化するが、ノイズを経由した即興演奏は、サウンドの交感によって音楽の根源的なエネルギーを引き出してこようとする。エフェクターによる音色変化に、即興的な衝動のありかを(少なくともそのひとつを)おいている吉本のギター演奏も、サクソフォン・ソロにおいて、エヴァン・パーカー流のフリー・インプロヴィゼーションからスタートし、音響的なアプローチにも積極的に挑戦してきた広瀬淳二のサウンド・インプロヴィゼーションも、こうしたビュスのノイズ指向と重なりあう部分を持つものだ。ビュスが途中からドラムをたたいた最初のトリオ・インプロヴィゼーションは、突然の衝撃音をもって先制攻撃をしかけてきたビュスの後を追うようにスタートした。三人三様の演奏がもつれあい、ひとつの音塊になるようなハードコアなクライマックスがあった後、そこで終わりたくなかったのだろう、吉本が彼女ならではの浮遊感のあるギターを弾きつづけてソロの場面をつくり、最後にふたたびビュスがたたみかけるような打撃音で演奏をしめた。広瀬淳二のサックスは、ビュスが生み出すノイズの弾幕に、ハードコア期のジョン・ゾーンを思わせるテンションの演奏で応じる一方、ミニマルな吉本のギター演奏には、フレーズの細分化によって応じることで、トリオの演奏にうまく橋を架ける役割を果たしていた。
サンプリングされた打撃音とエレクトロニクス、ノイズなどから構成されるダニエル・ビュスのソロ・パフォーマンスは、ノイズ・ミュージックのようなドローンを形成せず、ひとつのシークエンスから次のシークエンスへと、いくつかの場面をつないでいくものだった。そのなかで、ループをかけながら演奏する場面だとか、巨大なガラガラのような自作のノイズ発生装置を激しくシェイクする場面がはさみこまれる。日本人がしばしばノイズを(切り刻むことのできない)生命体のように扱うのとは違い、インダストリアルなテンションを求めるビュスの感覚は、いささか大味なものに感じられた。出てはいけない音が残ったり、間違えた音をフェードアウトしたり、切れてはいけない音が聴こえなくなったりしていたのは、マシーンの操作に慣れていないのか、あるいは多くの音源を複雑に構成しようとするところで起きる操作ミス(タッチミス)だったのだろう。かつては時間の経過とともに自然発生してくる音の流れを、意識的に切断するカットアップの手法がめざされる演奏もあったが、ノイズの強度を最大限にすることは求められても、ビュスがしていた場面転換にそうした形式主義はなかった。そのようにしてシークエンスをつなげていったソロ演奏の全体像は、ビュスがしている演奏のハイライト部分を抽出して並べたディスプレイの音楽、ショーケースの音楽として聴こえた。
第二部の冒頭で初手あわせした広瀬淳二と吉本裕美子のデュオ演奏は、第一部のトリオ演奏に匹敵する長い演奏となった。瞬間を立ちあげるハイテンションのサウンドを次々にくりだして、緊張感にあふれる場面をつなげていく広瀬のサックス演奏と、フレーズがフレーズでない落としどころを持たない浮遊感のなかで、どこまでもたゆたっている無時間的な吉本のギター演奏は、水と油といってもいいだろうが、そうであるからこその面白さがふたりの出会いにはあった。演奏の前半をフレーズをミニマルに細分化することで構成し、後半を部分的にサーキュラーブリージングも使いながらロングトーンを中心に構成(吉本はe-bowで対応)した広瀬は、このユニークなギタリストの演奏の内側になんとか入ろうと食らいついていった印象で、高度な演奏を高度と感じさせないすばらしいパフォーマンスを披露した。つづくビュスと吉本のセットは、ディストーションをかけたロック的なサウンドとリズムを交換するダイナミックで明快なもの。そして最後になったビュスと広瀬のデュオは、ホワイトノイズの暴風のなかの尺八というような出だしから、強打とフラジオ・サウンドの組合わせへと静かに移行していく凝縮されたインタープレイになった。第二部のデュオ演奏は、第一部のトリオ演奏ですでに出そろっていたものを、それぞれの局面でピックアップし、拡大するものだったといえるだろう。■
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